脳出血(CH:Cerebral Hemorrhage) |
1:概念
(1)頭蓋内出血
頭蓋内出血とは、脳血管の破綻により,頭蓋内に生じる出血性の疾患です。
出血した血液は血腫を形成し、血腫が物理的に周囲組織を圧迫して二次的な障害を生じさせます。
日本心臓財団HPから引用
2:分類
(1)脳出血
@脳内出血とは
脳血管の破綻によって脳実質内に生じる出血です。
脳動脈は脳以外の動脈に比べて血管壁が薄いなどの特徴があり、血管内圧上昇の影響を受けやすいとされています。
A出血の好発部位
被殻、視床、小脳、脳幹(橋) が出血の好発部位です。
被殻出血が35〜50%を占めます。

(2)くも膜下出血(SAh:Sub-Arachnoid hemorrhage)
@くも膜下腔
くも膜は、脳脊髄を覆う3層の髄膜のうち、外から2層目にあたるものです。
硬膜には密着していますが、内の軟膜との間には脳脊髄液で満たされているくも膜下腔があり、小柱という線維の束が、
くも膜と軟膜をつないでいます。

「脳科学辞典」から引用
Aくも膜下出血
くも膜下腔内に存在する動脈瘤が破れるとくも膜下出血をおこします。
空間が限られる頭蓋内では重症化しやすく、死の転帰を取ることが少なくありません。
くも膜下出血の多くは、Willis動脈輪に生じた脳動脈瘤の破裂です。
突発する強度の頭痛、悪心嘔吐、意識障害が特徴的臨床症状です。

3:病因と病態
(1)病因
@原因
脳血管の破綻は、細動脈硬化による血管壊死や、脳動脈瘤の破裂が原因である細動脈硬化によります。
血管壊死は、高血圧に伴って生じることが多い。
動脈の破綻により、その支配領域の神経機能が障害され、脳梗塞の後遺症と同様な障害が発現します。
重篤な後遺症を残しやすい病気です。
A危険因子
糖尿病、高脂血症や高血圧などにより動脈硬化が進むと、脳の深くを栄養する細かい血管がもろくなり、破れやすくなる
と考えられています。
4:疫学
(1)発症率、死亡率など
@脳内出血の死亡率など
2014年度の死亡数---3.2万人
死亡率---人口10万人あたり約26人。
脳梗塞に比べ急性期の死亡率が高い病気です。
Aくも膜下出血の死亡率など
2014年度死亡数---1.5万人。
発症率---人口10万人あたり15〜20人。
死亡率---人口10万人あたり12人。
(2)発症しやすい時期
血圧が高くなり易い、冬場の方が発症が多くなります。
5:脳血管障害の臨床症状と治療
(1)脳出血
@症状
発症は日中活動時に多い。
血腫の増大、脳浮腫により脳組織の圧迫循環障害が起こります。
片麻痺、半身の感覚障害、言語障害などの神経症状が出現します。
頭蓋内圧充進により頭痛、嘔吐などを伴い、重症な場合には意識障害も出現します。
A治療
内科的な血圧管理が中心となります。
重症例では血腫除去のための手術が適応となります。
(2)くも膜下出血
@症状
後頭部をいきなり殴られたような感じ、などと形容されますが、軽度のこともあります。
意識障害は約半数に出現します。
激しい出血の場合には発症直後に意識を消失し、昏睡状態に陥り死に至ることもあります。
A治療
原則的に厳重な血圧管理と手術が適応となります。
6:予後
(1)脳出血
脳内出血は、虚血性脳卒中に比べて高い確率で死に至ります。
多くの場合、出血は大規模かつ壊滅的で、特に慢性高血圧がある人ではその傾向が強まります。
大出血を起こした人の約半数が、数週間以内に死亡します。
生き延びた人は、通常、意識を回復し、一部の脳機能が時間とともに回復します。
しかし、失われた脳機能のすべてが回復することはほとんどありません。
(2)くも膜下出血
動脈瘤の破裂によりくも膜下出血が起きた人の約35%は、病院に到着する前に死亡します。
動脈瘤が再び出血し始めるため、さらに15%が数週間以内に死亡します。
動脈瘤を治療する処置(カテーテルを使って器具を留置するか、手術で頭蓋骨を開ける)により、動脈瘤からの
再出血のリスクを低下させることができます。
治療しない場合、6カ月間生存した人でも再破裂が起きるリスクが毎年3%あります。
6:脳血管障害のリハビリテーション
(1)急性期
医学的治療や処置が最優先されますが、臥床による廃用症候群の予防も取り組まれます。
誤嚥性肺炎の予防や口腔機能の廃用予防を含めた、口から食べる準備を目的とした多職種連携による口腔管理と、
急性期からのリハビリテーションが重要となります。
(2)回復期
患者の日常生活動作(ADL)をBarthel lndexやFIM(functional
independence measure) などを用いて評価し、
プログラムを設定して、リハビリテーションが実施されます。
ADL訓練では、在宅生活や社会復帰を目指します。
摂食嚥下関連では、多職種による嚥下機能の評価、口腔機能再建のための義歯調整など、口から食べる支援が
大切な時期となります。
(3)慢性期
回復期に獲得した機能と残存機能を維持し,家庭生活や社会生活に適応していく時期です。
ADLの個人差は大きいのが特徴です。
生活期では、口から食べることで栄養が確保されること、が重要となります。
積極的な歯科支援が大切となります。

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脳血管障害と歯科医療・口腔ケア |
1:口腔の特徴
脳梗塞患者と同様に, 口腔衛生状態が不良で口腔乾燥の著しい症例や、齪蝕,歯周疾患に罹患している症例も多く
認められます。
剥離上皮膜が口腔や咽頭の粘膜などに付着している症例も少なくありません。
口唇・頬粘膜の知覚麻揮や運動麻痺により,服用薬の残留や口唇を巻き込んで咬傷を認める症例も認められます。

2:歯科医療(管理)
頭蓋内出血の症例では、高血圧症を合併していることが多いため、血圧や脈拍数の評価が重要となります。
歩行が自立または車いす移動で自立していれば通常の歯科治療は可能です。
バイタルサインと神経症状の評価は必ず行う様にします。
注水下の歯科治療では吸引操作を十分行い、誤嚥・誤飲にも注意する必要があります。
歯科治療後の急激な体位変換や起立歩行では,起立性低血圧に注意します。
歯科疾患を予防するため、のブラッシング指導や介助者への口腔ケアの重要性についても指導します。
3:脳血管障害と口腔機能
脳血管障害で存命された場合には、何らかの機能障害が残存する事も少なくありません。
口腔内、口腔周囲の知覚麻痺や、運動性麻痺が、口腔機能を損ないます。
その障害に合わせた口腔ケアが必要となります。
参照 「口腔機能」
参照 「摂食嚥下障害」
参照 「口腔ケアの基本」
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参考資料 |
「脳卒中治療ガイドライン2015」 追補 2019 日本脳卒中学会 PDF」
『脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 (よくわかる最新医学) 』
『脳卒中の再発を防ぐ本 (健康ライブラリーイラスト版) 』
『身近な人が脳梗塞・脳出血になったときの介護と対策』
『NHKスペシャル 脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命』
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