肝炎 (Hepatitis) |
1:肝炎
(1)肝臓について
@肝臓の解剖学
正常ヒト成人の肝重量は体重の約1/50であり、約1.0〜1.5kgです。
肝臓は肝動脈と門脈の2つの血管により栄養を受け、血流は中心静脈、肝静脈を経て肝外へと流れます。
肝動脈は、下行大動脈から分岐した腹腔動脈の枝である総肝動脈が固有肝動脈となり右肝動脈と左肝動脈へと
分かれて肝内へ入ります。
肝臓から出た総胆管はファーター膨大部の手前で膵管と合流して、十二指腸と繋がります。
なお、総胆管の途中に胆嚢があります。

A肝臓の機能
非常に機能が多いことで知られ、働きは判明しているだけで500種類以上あるとされています。
肝機能を人工装置によって全面的に補うことは出来ません。
代謝、排出、胎児の造血、解毒、体液の恒常性の維持などの役割を担っています。
また、十二指腸に胆汁を分泌して消化にも一定の役割を持っています。
1)蛋白の合成・栄養の貯蔵
2)有害物質の解毒・分解
3)消化に必要な胆汁の合成・分泌
4)血液凝固因子の生成
(2)肝炎とは
何らかの原因で肝臓に炎症が起こり発熱、黄疸、全身倦怠感などの症状を来たす病気です。
炎症により肝臓の細胞が破壊され、肝臓の機能が次第に低下していきます。
2:肝炎の原因
(1)ウイルス性肝炎
@A型肝炎
食物で経口感染します。
AB型肝炎
垂直(母子感染)、性行為(性感染症のひとつとも分類されている)で感染します。
BC型肝炎
血液感染です。
麻薬の注射器での回し打ち、集団予防接種における注射針の使い回し、刺青、輸血、血液製剤等で感染します。
CD型肝炎
別のウイルスと共存しなければ自己増殖しえないウイルスです。
ヒトでは、この共存現象が原則としてB型肝炎ウイルスの感染下でのみ起こります。
DE型肝炎
シカ・イノシシ・ブタ肉の生食などで、経口感染します。
EG型肝炎
FTT型肝炎
輸血後に起こる肝炎です。
G肝炎ウイルス(A型、B型)以外のウイルス性肝炎
EBウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどによるウイルス肝炎です。
(2)アルコール性肝炎
過度のアルコール摂取で発症します。
(3)非アルコール性脂肪性肝炎
肝臓に脂肪が蓄積することで起こる肝炎です。
(4)薬剤性肝炎
漢方薬、総合感冒薬や解熱鎮痛薬に含まれるアセトアミノフェンなど起こります。
(5)自己免疫性肝炎
免疫システムの異常により、肝臓に障害が起こる自己免疫疾患の一つです。
(6)原発性胆汁性胆管炎
胆汁鬱滞(うったい)型の肝硬変を呈する疾患です。
3:肝炎の臨床像
(1)急性肝炎
@特徴
肝の急性の炎症です。
頻度としてはA型肝炎が多く、一過性に重篤な肝障害、劇症肝炎を起こすことがあります。
肝細胞に急性炎症をきたし、全身倦怠感、黄疸、発熱などの症状を呈します。
血液検査で肝に逸脱酵素(トランスアミナーゼ)上昇を認めます。
A原因
A〜E型肝炎ウイルスによるものが多いが、その他のウイルス、自己免疫性肝炎などもあります。

B症状
インフルエンザ様症状
全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、発熱など。
消化器症状
黄疸、褐色尿、肝腫大、上部腹痛など。
C重症度評価
肝予備能を鋭敏に反映するプロトロンビン時間(PT;肝細胞の合成能障害を反映する)
肝性脳症、を中心に評価します。
1)プロトロンビン時間(PT:Prothrombin Time)とは
凝固外因系共通の検査で、凝固第T・U・X・Z・]因子の総合的活性を反映します。
凝固因子を産生しているのは肝臓です。
肝硬変や肝炎などで肝臓の機能が著しく低下した場合、因子の欠乏によってプロトロンビン時間が延長し、
同時にAPTTも延長します。
正常値
秒数:10〜15(秒) 活性%:80〜120(%) PT-INR:0.80〜1.20
PTの延長とその原因
先天性凝固因子欠乏症・異常症(T・U・X・Z・])
肝機能障害 播種性血管内凝固症候群(DIC)
尿毒症 多発性骨髄腫 線溶亢進 抗凝固薬の使用(ヘパリン、ワルファリンカリウム)
PT---40%以下は重症型、もしくは劇症型となります。
PTの短縮とその原因
血栓症(凝固亢進時)
生理的変動(高齢者)
2)肝性脳症
肝性脳症は、重度の肝疾患がある人において、正常なら肝臓で除去されるはずの有害物質が血液中に蓄積して
脳に達することで、脳機能が低下する病気です。
T:睡眠リズムの逆転、あるいは周囲に対する無関心など。
U:見当識の障害や、計算、書字などの障害です。
羽ばたき振戦(Asterixis, flapping tremor)と呼ばれる、腕を伸ばしたり手を広げたりしたときに、
粗くゆっくりとした不規則な震えが起こるのが特徴です。
V:ほとんど眠った状態になりますが、外的刺激に対しては反応して目を覚まします。
ときに譫妄状態になったり、割合すぐ感情的になり、パニックや癇癪を起こしながら声を荒らげたりし、
時には暴れだします。
W:完全に意識を消失しますが、痛みに対しては反応します。
X:すべての刺激に対して反応しなくなります。

D急性肝炎の治療
一般的に自然治癒傾向が強く、保存的治療(安静臥床、食事療法)が主体となります。

『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』 から引用
(2)慢性肝炎
@特徴
肝臓の炎症が6ヵ月以上持続する状態です。
わが国では70%強がC型、20%弱がB型肝炎ウイルスによるものです。
慢性状態が継続すれば、徐々に肝臓の線維化が進行し、肝硬変へ移行します。
また、持続的な炎症により肝細胞癌発生のリスクも高くなります。
A症状
無症状、もしくは数か月前からの全身倦怠感、食欲不振などが認められます。
(検診などで肝機能異常を指摘されるケースが多い)
B検査、診断
肝機能検査、ウイルスマーカーの検索、組織学的検査

『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』 から引用
C慢性肝炎の治療

『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』 から引用
(3)劇症肝炎
@概念
急性肝不全
高度な肝機能障害とともに肝性昏睡をはじめとする肝不全症状をきたす予後不良の疾患群です。
初期症状から8週以内に肝障害が生じ、PT40%以下ないしINR値1.5以上を示すものです。
劇症肝炎
急性肝不全のうち、肝炎によって引き起こされたものを劇症肝炎といいます。
初発症状出現8週以内に昏睡度U度以上の肝性脳症をきたします。

A劇症肝炎の症状
急性肝炎発症後、強い全身症状、食欲不振や悪心・嘔吐の持続などが見られます。
熱、頻脈、副水・浮腫、黄疸、肝性昏睡度U度以上の意識障害なども見られる場合もあります。

『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』 から引用
B合併症
主症状の他にも様々な致命的となる臓器障害を合併します。
DICと感染症が約40%で最も多く、腎不全と脳浮腫は約30%、消化管出血は約20%に併発するとされています。
|
肝炎と口腔機能の関係 |
肝機能障害による易出血性
|
肝炎の検査キット |
さくら検査研究所 性感染症検査キット B型肝炎 男女兼用
性病検査キット STDチェッカー【タイプL(男女共通)】 2項目:B型肝炎、C型肝炎
|
参考資料 |
『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』
『肝炎のすべてがわかる本 C型肝炎・B型肝炎・NASHの最新治療 』
『図解でわかる肝臓病 徹底対策シリーズ』
『知らないと損する B型肝炎になったら 』
『生命科学のためのウイルス学―感染と宿主応答のしくみ,医療への応用』
『医科ウイルス学』
『新しいウイルス入門 (ブルーバックス)』
|
|