お口大全 (お口の機能と病気と口腔ケア) All the Oral-functions and Care
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重症筋無力症について

       
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重症筋無力症(MG:Myasthenia Gravis)
1:重症筋無力症とは
(1)概念   
    神経筋接合部のシナプス後膜上に存在するアセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体の作用により、
    神経筋接合部の刺激伝達が障害されて生じる自己免疫疾患です。    

(2)特徴
    骨格筋の易疲労性,および脱力を主症とし,寛解,増悪をくり返し,神経筋接合部における伝達異常に由来する
    疾患である.      

(補足)神経筋疾患の分類
   A-神経変性疾患
      1:パーキンソン病  2:脊髄小脳変性症   3:筋萎縮性側索硬化症  

   B-神経筋接合部疾患      
      1:重症筋無力症  

   C-筋疾患
      1:筋ジストロフィー症  

   D-発作性神経疾患     
      1:てんかん


2:疫学
(1)患者数
    国内に約20,000人の患者さんがいます。
    有病率=11.8人/10万人

(2)好発年齢・性差
    小児、20〜30歳、50〜60歳です。
    女性の方が男性より2倍ほど患者数が多いとされています。
    近年は男女ともに50歳以上で発症する後期発症重症筋無力症の患者さんが増加しています。      
      好発年代=小児、
      20〜40歳代の女性
      50〜60歳代の男性


3:原因

    詳細な発症機序は不明です。

(1)成因   
    自己免疫機序により、抗アセチルコリン受容体(AchR)抗体が産生されます。
    抗アセチルコリン受容体(AchR)抗体が、レセプターに結合し、Achがレセプターに結合出来ません。  
    そのため神経・筋接合部における伝達障害が起こると説明されていいます。
  
    AchR抗体は本症の80〜90%において上昇しますが、眼筋型および寛解期では正常値を示すこともあります。

      


4:分類
    病原性自己抗体と、臨床病型による分類があります。

(1)病原性自己抗体による分類  
 @AChR抗体陽性MG  
 A筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK:muscle-specific receptor tyrosine kinase)抗体陽性MG  
 B低比重リポ蛋白質受容体関連蛋白質4( Lrp4 :low density lipoprotein-receptor relatedprotein)抗体陽性MG  
 C上記の抗体が検出されないseronegative MG  


(2)臨床病型による重症度分類  
    米国重症筋無力症財団(Myasthenia Gravis Foundation of AmericaMGFA)分類が汎用されます。
    MGFA Clinical Classification

 Class1
    眼筋型、眼輪筋の筋力低下も含む。
    他の全ての筋力は正常。
    
 Class2
    眼以外の筋の軽度の筋力低下。眼の症状の程度は問わない
      Ua 四肢・体軸>口腔・咽頭・呼吸筋の筋力低下
      Ub 四肢・体軸口腔・咽頭・呼吸筋の筋力低下

 Class3
    眼以外の筋の中等度の筋力低下。眼の症状の程度は問わない
      Va 四肢・体軸>口腔・咽頭・呼吸筋の筋力低下
      Vb 四肢・体軸≦口腔・咽頭・呼吸筋の筋力低下

 Class4
    眼以外の筋の高度の筋力低下
    眼の症状の程度は問わない
      Wa 四肢・体軸>口腔・咽頭・呼吸筋の筋力低下
      Wb 四肢・体軸≦口腔・咽頭・呼吸筋の筋力低下

 Class5
    気管挿管されている者、人工呼吸器装着の有無は問わない
    眼の症状の程度は問わない(通常の術後管理として、挿管されている場合は、この分類に入れない。
    気管挿管はなく、経管栄養チューブを挿入している場合は Class Wbに分類する)

    


5:臨床所見
(1)骨格筋の易疲労性
    骨格筋の易疲労性を主症状とします。  
    初期には早朝起床時は比較的よいが,午後,特に夕方になると脱力は増強します。
    急性感染症,心身の過労,月経,妊娠,分娩などは増悪の契機となります


(2)眼瞼周囲筋の麻痺  
    最もしばしば認められるのは、外眼筋麻痺です。(80%)
    それにより、眼瞼下垂、眼球運動障害とそれによる複視、閉眼不全などを示します。
    また表情筋の筋力低下のため,本症に特有なmyasthenic faceを呈します。

      


(3)口腔周囲筋の麻痺  
  高頻度(60〜70%)に認められるのは舌、咽頭筋麻痺
  そのため摂食嚥下・咀嚼・発語障害があらわれます。
  四肢筋および頸筋の脱力も認められますが,四肢筋の脱力のみが認められることは有りません。
  
  本症は原則的には筋萎縮を認めず,腱反射は正常か,むしろ亢進ぎみとなります。
  筋萎縮は本症の10%において認められ, 舌筋に特有な萎縮、triple furrowed tongueが観察されます。 
  平滑筋の障害は認められません。  

     triple furrowed tongue


(補足)症状まとめ

    


(補足)胸腺と胸腺腫
 @胸腺
    胸骨の裏にある組織で、骨髄で作られた未熟なリンパ球(Tリンパ球)が正常に働くようにする役割を担っています。
    胸腺の機能は幼児期まで活発に働き、思春期で最も大きくなり、その後は年齢とともに萎縮していき、脂肪組織と
    置き換わることで周囲の脂肪組織と見分けがつきにくくなります。
    そのため胸腺腫や胸腺がんで胸腺を切除しても、健康に影響がでることはありません。

    

 A胸腺腫
    胸腺の上皮)から発生する腫瘍で、30歳以上に発生することが多く、男女同程度の発症頻度です。
    人口10万人あたり0.5%前後の発症頻度と、比較的稀な疾患です。
    時に、他の縦隔腫瘍と異なり、重症筋無力症、赤芽球癆(せきがきゅうろう)と、低ガンマグロブリン血症、筋炎など様々な
    合併症を起こすことが知られています。
    遠隔転移をきたした症例を除き、基本的には外科切除が治療の第一選択となります。
    完全切除ができない場合は薬物療法や放射線治療を行う場合がありますが、手術で腫瘍を取り除く(縮小する)ことで、
    症状のコントロールや予後改善する可能性があります。

 B胸腺腫の合併症
   1)重症筋無力症
      胸腺腫の23-25%に合併します。
      筋肉の力が弱くなる病気で、疲れやすくなったり、眼瞼下垂(まぶたが下がる)、複視(ものが二重に見える)、
      手足の筋力低下などを認めます。
      また呼吸筋が弱くなることで、呼吸困難が起こることがあります。
      無症状の胸腺腫患者においても術後重症筋無力症が0.9-20%に発症すると報告されています。

   2)赤芽球癆
      胸腺腫の0.7-2.6%に合併し、赤血球がつくられなくなることで貧血の症状を認めます。

   3)低ガンマグロブリン血症
      胸腺腫の0.4-0.7%に合併する稀な病気です。
      体を守る免疫反応が不十分となり、感染が起こりやすくなります。


6:検査所見
(1)血液検査
    一般血液,尿,髄液は正常である.
    本症は高頻度(50%以上)に胸腺腫を合併する.
    また胸腺腫はなくても,70%に胸腺胚芽中心にリンパ球浸潤が認められます。
    内分泌機能ではしばしば甲状腺機能亢進が認められる.      
    尿中クレアチン増加,クレアチニン減少が軽度にみられます。

  
(2)筋電図  
    低頻度の末梢神経刺激により振幅は急速に減少します。  
    減衰波(waning現象:電位の振幅の10%以上の減少)が観察されます。

     


(3)X線検査  
    胸部X線、CTにて胸腺腫・胸腺過形成がみられます。 


(4)テンシロン検査(エドロホニウム試験)    
    超短時間作用型のコリンエステラーゼ阻害薬であるテンシロンR(塩化エドロフォニウム)をゆっくり静脈注射します。
    重症筋無力症であれば筋力が一時的にですが回復し、眼瞼下垂や複視の改善を認めます。
    薬剤の効果は超短時間であるため、治療薬としては使えませんが、本症の診断に役立ちます。

    AchE阻害薬
      アセチルコリンの分解を阻害します。
      その結果、アセチルコリン量が増加します。
      筋力が回復します。


7:治療
(1)薬物療法   
 @抗コリンエステラーゼ薬(=コリン作動薬)   
    テンシロン、ワゴスチグミンは速効的ですが、持続時間が短いという欠点があります。  
    診断あるいはクリーゼに使用する以外は長時間有効な薬剤が用いられています。
    すなわち,マイテラーゼ、メスチノンなどがそれでです。

    これらの抗ChE薬に共通する副作用として、ムスカリン作用(腹痛,唾液分泌過多)を起こします。  
    これを防ぐためにアトロピンが使用されています。
   
 A副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)
    抗ChE薬の投与によって効果が得られない場合に,ステロイド療法が有効なことがあります。
    原則的には入院治療で行います。
    投与方法としては隔日漸増法、または大量(100r)から始め一定期間の後、漸減する方法があります。

 B免疫抑制剤  
    シクロホスファミド(Endoxan)、6-メルカプトプリン、アザチオプリン(Imuran)が用いられます。
    多くの場合補助的な治療です。

 補足:禁忌薬剤    
    MG患者の急性感染症に対し抗生物質を用いるとき、コリスチン・ポリミキシン(AB)、ストレプトマイシン、カナマイシン
    などは、MGに対しクラーレ樣作用またはマグネシウム作用(神経末端からのAch遊離の抑制)に似た機序でクリーゼを
    起こすことがあります。  
    ペニシリン・クロラムフェニコームなどはこれらの作用が強くありません。
    クラーレ、キニーネ、クロロフォルム,筋弛緩薬などは本症を悪化させることがあります。


(2)血漿交換
    特に難治型に用いられ、多くの場合奏効がみられます。
    通常12.0003.000mlの血を隔日交換し34回を1クールとします。
    有効期限は長くありませんが、交換後のステロイドその他免疫抑制剤の効果の著しい症例が多い。
    現状では全ての薬剤に抵抗する症例やクリーゼを反復する難治型を中心に実施するべ きとされています。  


(3)胸腺または胸腺腫に対する処置  
    胸腺腫の認められる場合は、直ちに摘出手術を行います。  
    胸腺腫が認められなくても、薬物療法の効果が不充分かつ経過5年以上の症例で、血清のAchR抗体が高値を示す
    場合は、積極的に胸腺の郭清術を行う方向にあります。
    また術後ステロイドを追加することにより予後はさらに向上します。


(4)クリーゼに対する処置
    クリーゼとは、突然起こる呼吸困難の事を言います。 
    抗ChE薬使用中の場合,しばしば抗ChE薬を過剰に与えた結果、cholinergic crisisを起こします。
    この両者は理論的には鑑別は可能ですが、実際にはなかなか難しい倍もあります。 
    したがってクリーゼに陥った例では、できるだけ速く陽圧人工呼吸を行います。
    まず気道を確保し、呼吸・循環の安定に努め、感染の防止に注意するべきとされています。
    この後に薬剤を選択して投与します。


重症筋無力症と歯科医療
(1)口腔内の特徴  
 @筋力低下による特徴
    筋力の低下により咀嚼障害、発語障害、嚥下障害が発症しやすくなります。 

 Aステロイド剤が使用されている場合    
    歯周病の進行に注意が必要です。   
    カンジダ症の発症に注意します。

 B非侵襲性陽圧呼吸(NIPPV :non-invasive positive pressure ventilation)が行われている場合    
    口腔乾燥が起こる事が多々有ります。    
    それに伴う併発症にも注意が必要です。

        


(2)歯科治療時の注意事項
 @症状安定時 
    症状が安定していれば、抜歯等の外科処置も問題なく行われます。

 Aステロイド療法下、免疫抑制薬投与下の注意事項  
   1)易感染性    
      歯周病に対する注意とその予防に努める---抗菌薬の術前投与   
      抜歯等の術後感染予防を十分に行うことが必要---予後観察を怠らない  

   2)易ショック性
      痛くない治療が必要となります。  

   3)創傷治癒遅延
      予後観察を長く行い、治癒の観察を行います。

 B術中の配慮事項  
   1)病状の悪化
      精神的ストレスによる病状の悪化を防止します。
    
   2)呼吸状態の変化に注意
      病状の進行や日内変動(夕方は症状増悪)により呼吸困難感がみられるので、術前評価と必要に応じて
      モニタリングを行います。


参考資料 













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