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三叉神経痛について

     
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三叉神経痛 (Trigeminal neuralgia)
  1:三叉神経痛とは
  顔面の知覚神経である三叉神経の、片側、一過性の電撃様あるいは穿刺様の顔面痛を繰り返す疾患です。
  原因が不明な真性三叉神経痛と、末梢領域のいろいろな二次的原因によっておこる症候性三又神経痛とがあります。

        
        口腔解剖学 第4巻 神経学 から引用


2:三叉神経について
   第5脳神経で、知覚枝、運動枝を含む混合神経です。
   脳内では橋という部分に神経核が存在します。
   口のなかの感覚や、咀嚼(そしゃく)運動、また複雑な顔の表情をつくる機能をはたしています。

           


 (1)知覚枝
   @分枝
        第1枝=眼神経
          頭皮、前額から鼻腔の上部までの知覚を支配します。

      第2枝=上顎神経
          鼻腔の下部から硬口蓋、軟口蓋、上顎、上歯の知覚を支配します。

      第3枝=下顎神経
          頬粘膜、舌、口腔底、下顎からの知覚を支配します。

   A伝導経路
       末梢の各組織
           ↓
        ガッセル神経節
           ↓
        知覚神経核(3種類)
         1. 主知覚核(橋の背外側部)
             触覚、深部知覚の伝導

         2. 脊髄路核(橋から第3頚髄の背外側部)
             温覚、痛覚、触覚の伝導。

          3. 中脳路核
            ↓
      筋固有覚を伝導
            ↓
      交差して視床に連絡

 (2)運動枝
    筋を支配し、開口、閉口運動をコントロールします。
      閉口筋群:咬筋、側頭筋、内・外側翼突筋
      開口筋群:顎舌骨筋、顎二腹筋前腹を支配
 
     上位中枢(大脳皮質area 4):中枢支配は両側性。
     半交差しているので、中枢性麻痺では健側と比較して筋力は 若干低下する。

     主に錘体路を通って下降してくるが、錘体外路系の支配もある。
          ↓
     三叉神経運動核(橋外側部、第4脳室底知覚にある)
         ↓
     走行(知覚第3枝に同じ経路を走行)
         ↓
     筋支配(咬筋、側頭筋、内・外側翼突筋、顎舌骨筋、顎二腹筋前腹を支配)        


3:原因
  中枢性の三叉神経障害に関連しておこる真性三叉神経痛と、
  末梢領域のいろいろな原因によって二次的におこる症候性三又神経痛とがあります。

 (1)真性三叉神経痛
     これまで原因不明とされていましたが、最近では、頭蓋内で三又神経が血管に圧迫されておこると考えられて
     います。
     また、脳腫瘍が三叉神経を圧迫したり、癒着することによってもおこることがあります。

 (2)症候性三又神経痛
     周囲組織の器質的変化によって起こるものです。
     症候性、仮性、続発性、および歯性三叉神経痛などの名称があります。
     この場合には真性三叉神経痛とは異なり、種々の原因による器質的変化に伴って現れる一つの症状であり、
     このため原因を除去すれば、神経痛様疼痛はただちに治癒することが特徴的です。

     原因
       歯および顎骨疾患によるものが多く、歯性感染症、下顎智歯周囲炎、埋伏歯、腐骨などがありますが、
       その他外傷、腫瘍などに由来するものも存在します。

       
4:疫学
  年間発症数は10万人当たり男性2.5人,女性5.7人です。
  どの年齢層の成人にも起こりえますが、通常は50歳以上の中高年の人に発生します。
  女性により多くみられます。


5:症状
 (1)真性三叉神経痛
     通常片側性,数分の1秒〜2分程度の激しい疼痛が三叉神経領域に繰り返し生じます。
     疼痛の性状は、電気が走るような、突き刺すような、などと表現されます。

     三叉神経第2枝・第3枝領域に好発し,2枝領域以上に及ぶこともあるが,三叉神経領域を超えて広がることは
     有りません。

     頻度は1日に数回〜数百回であり,数日から数カ月間繰り返します。
     5年以内に約65%で再発します。

     食事,会話,洗顔,歯磨き,顔面の特定部位(トリガーポイント)への非侵害刺激によって誘発されます。
     疼痛発作後,通常は一過性に痛みが誘発されない不応期を認めます。
     発作と発作の間はほとんどの場合は無症状ですが、中等度の持続性顔面痛を伴うこともあります。

    流涙,眼球発赤などの軽度の自律神経症状を伴うこともある。


 (2)症候性三又神経痛
     一般に発作性疼痛の程度は真性のものに比べると軽度であり、持続時間が長く、特発性のように疼痛が完全に
     消失することはなく、誘発帯も存在しません。
     年齢的にはあらゆる年代にみられ、若年者にもしばしば認められます。
     また三叉神経領域以外にも同時に疼痛が起こることもあり、原因により疼痛も多様で、それに付随する種々の症状
     がみられます。
     原因を除去すれば治ります。


6:診査・検査
 (1)バレー(Valleix)氏圧痛点
     三叉神経の各枝は、頭蓋底にある穴を通って顔面骨にある穴から出てそれぞれの支配領域に分布します。
       @第T枝の眼神経------眼窩上孔から
       A第U枝の上顎神経----眼窩下孔から
       B第V枝の下顎神経----オトガイ孔から出ており、その部分を皮膚の上から押すと痛みが起こります。
     これにより、どこの神経の枝の領域に異常があるのか罹患枝の鑑別に役立ちます。

        


 (2)パトリック氏(Patrick)発痛帯
     口角、口唇、歯肉、鼻唇溝、鼻翼、頬など特定の部位への刺激で痛みが誘発されます。
     これは、痛みがなくても刺激されると必ず痛みを起こす部位で、この部分を圧迫したり接触したり、冷気に触れた
     だけでも痛みが起こることがあります。

     その他にも、咀嚼や会話、洗顔、髭剃り、歯磨きなど日常生活動作が誘因となることもあります。
     このような部位を発痛帯と呼びます。
     発痛帯への刺激が少ない睡眠中は発作が起こらないといわれています。

        


 (3)抗けいれん剤の投与
     カルバマゼピン(テグレトールR)を投与すると約70%に奏功すると言われています。


7:診断基準
     一側三叉神経支配領域、特に第2、3枝領域(口唇、頬、歯肉、下顎)に限局した数分の1秒〜2分のピリッとした
     電撃痛を反復するものですが、診断は困難であるとされています。
     次の基準を参考にして診断をします。

        


8:治療
  三叉神経痛の治療法としては、主に薬物療法・神経ブロック・手術療法などがあり、これらの治療法のいずれか
  またはこれらを組み合わせた方法があります。

 (1)真性三叉神経痛の治療
   @薬物療法 
      主に抗てんかん剤(カルバマゼピン:商品名=テグレトールR)などが使われます。
         処方例:カルバマゼピン200mg 分2
       
      その他筋弛緩剤や鎮痛剤
         処方例:アセトアミノフェン、トラマドールなどが使用されます。

   A神経ブロック
       麻酔薬を患部に関連する神経に注射する方法などがあります。

   B手術療法
       神経血管減圧術という、三叉神経を圧迫している血管から神経への圧迫を除去する手術が行われます。
       別名ジャネッタ(Jannetta)の手術とも言われます。
       耳の後方の後頭部に皮膚切開を加えて、三叉神経を圧迫している原因となっている血管を引き離します。
       この手術は、MRIで蛇行血管が三叉神経を圧迫していることが確認された場合のみに行われます。
       合併症として、三叉神経障害(知覚、運動障害)、聴覚障害、顔面神経麻痺、脳梗塞などがあります。

   C定位放射線治療
       特に特発性三叉神経痛に対して、ガンマナイフやサイバーナイフなどにより、三叉神経根の脳幹進入部より
       2〜3mm末梢側あたりを目標点とし、70~80Gy程度を一度に照射する定位放射線治療が行われます。
       

 (2)症候性三叉神経痛
     原因を精査し、原因疾患の治療を行います。


参考資料
  『口腔解剖学 第4巻 神経学』  上條雍彦  アナトーム社 1981




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