入れ歯について (Denture) |
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1:入れ歯とは
入れ歯とは喪失した歯を補う為の人工臓器の総称です。
義歯(ぎし)とも言いますが、この場合には通常可撤式、すなわち取り外しが必要なものを指します。
義歯の歴史は紀元前にまで遡るといわれています。
日本では平安時代のころに使われはじめ、当初の有床義歯の素材は、木製でした。
現在は、プラスチック(レジン)や金、銀、チタン、セラミック、メタルボンドポーセレン(陶器)などの素材が使用されています。
健康保険適用の保険義歯と健康保険適用外の義歯があり、これは診療内容や義歯に使用される材料の違いによります。

神奈川県 「歯の博物館」蔵 神奈川県 「歯の博物館」蔵
2:入れ歯の種類
有床義歯には
部分床義歯(部分入れ歯)と、総義歯(総入れ歯)があります。
局部床義歯は1歯欠損から1歯残存までの症例に使用される義歯の事を言いいます。
全部床義歯は残存歯が全く無い症例に使用する義歯の事です。
部分床義歯は、「床」「人工歯」「クラスプ」「レスト」「連結子」等から構成されています。
全部床義歯は「。床」「人工歯」のみで構成されています。

上は部分入れ歯、下は総入れ歯
3:入れ歯の制作工程
(1)制作工程の概要
下の図は大まかな義歯製作の工程を示しています。
しかしこれはあくまでも義歯のみの作成過程で、ここにに至る前に、残存歯の治療や粘膜の調整、
場合によっては骨隆起など骨の調整が必要な事もあります。
また、制作後の義歯調整が必須で、これが重要な事になります。

4:義歯の調整・取り扱い等
義歯を入れる前に…
よくうがいをし、口の中に食べかすが無いようにします。
義歯に汚れが付着していないか確認し、水などで湿らせて下さい。
@部分床義歯の入れ方・取り外し方のコツ
1)入れ方:
上顎から先に入れる(上顎の方が一般的に安定しやすいため)。
クラスプの着脱方向は限られているため、まずクラスプを掛ける歯の位置まで持っていきます。
義歯全体を指で支え、着脱方向に沿って軽く圧迫し、装着します。
決して義歯を咬んで入れないこと。クラスプの変形や、破損の原因になります。
小さな義歯は、しっかり持って誤嚥のないよう十分注意してください。
2)取り外し方:
上顎の場合は、人差し指の爪をクラスプに掛け、親指を歯の上に置き、人差し指を引 き下げます。
下顎の場合は、親指の爪をクラスプに掛け人差し指を歯の上に置き、親指を引き上げます。
A全部床義歯の入れ方・取り外し方のコツ
1)入れ方:
上顎から先に入れます。
上顎の場合は、義歯の中央部を指で押さえ吸着させる。
下顎の場合は、両手の人差し指を左右の歯の上に置き、親指を顎の下に添え双方の指ではさむようにして
義歯が安定するまで軽く下方に押さえる。
2)取り外し方:
義歯の端に指をかけてはずします。

B義歯の手入れ
義歯の汚れは、細菌の増殖によって歯肉の炎症、現存歯の虫歯、口臭の原因となります。
義歯は毎食後にはずし、清掃を行います。
特に夕食後・就寝前の清掃を重点的に行います。
義歯の表面に傷を付けないよう軽い力で清掃します。
歯磨剤は研磨剤を含むものがあり、義歯を傷つけることがあり使用には注意が必要です。
入れ歯洗浄剤の使用は効果的だが、必ずブラシでの清掃後に使用してください。
C残存歯の手入れ
現存歯のある方は、1本でも多く歯を残す努力が肝心です。
特に、入れ歯に接している歯は汚れが付着しやすいので丁寧に清掃する必要があります。
D義歯の保管方法
義歯の材料であるレジンは吸水性を有しています。
取り外したときも乾燥させないことが大切です。
乾燥すると義歯に歪みを生じ、適合が悪くなったり、割れる原因になります。
義歯清掃後、保存用容器に水を入れ義歯を浸しておきます。
E夜間の対応について
原則として夜間は義歯を取り外すこと。
〈理 由〉
細菌の増殖(カンジダ菌など)を防ぐ。
義歯は基本的に粘膜負担であるため、取り外すことで粘膜の血行回復をはかる。
しかし、噛み合わせが不安定な場合や、残存歯数が少なくて歯が動きそうな時には、夜間も装着してください。
ただし、必ず就寝前に歯と入れ歯の清掃をする事が必要です。
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部分床義歯 (Patial Denture) |
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1:部分床義歯とは
部分的な歯の喪失を補う為に用いられる歯科の補綴装置の事です。
一般には部分入れ歯として知られています。
口腔粘膜支持のみの総義歯とは違い、残っている歯にも支持を求める義歯を指します。
2:構造
(1)床部
口腔粘膜に接する部分のことで、レジンや金属で作られています。
(2)人工歯部
本来天然歯があった所で、人工歯が並べられている部分です。
レジン歯や陶歯、金属歯などが使われています。
(3)鉤部:クラスプ (clasp)
口腔内に残存する歯に抱え込むように掛けられることで、局部床義歯を安定させます。
また鈎部が掛けられる歯を鈎歯(こうし)といいます。
クラスプは、鋳造もしくはワイヤーを曲げて製作されます。
補足:アセタルクラスプ
ホワイトクラスプとも呼ばれ、熱可塑性レジンのアセタルを用いたクラスプのことです。
白い色調で製作ができるため審美的に優れたクラスプを作成する事ができます。
歯の色調と歯肉色と一致した審美的に補綴ができる。
メタルクラスプと違い緩むことがく、10万回着脱しても変形・磨耗はほとんどないとされています。
メタルクラスプより低疲労性であり長時間の装着でも快適に使えるとされています。
柔軟性があるため対合歯の負担も少ないのですが、破折の可能性も有ります。
しかし、これを使うと、全てが保険適応外となります。
(4)大連結子
下記の画像の厚い金属製のU字部分は、大連結子の一種のパラタルバーと言います。

3:特殊な部分床義歯
(1)テレスコープデンチャー
テレスコープデンチャーとは、維持装置をクラスプ(ばね)ではない、はめ込み式の機構を用いた義歯の総称
です。
いずれのタイプも保険が適用されない自由診療となります。
代表的なものに、コーヌスクローネやリーゲルテレスコープなどがあります。
ちなみにテレスコープとは「望遠鏡」(名詞)ではなく、「はめ込み式の」という形容詞での意味です。
(2)コーヌスクローネ
維持装置としてクラスプ(ばね)を使わず、二重構造でできた冠を使った嵌め込み式の機構を用いた義歯の事
です。
テレスコープデンチャーの一種でコーヌス、コーヌステレスコープ、茶筒式義歯とも呼ばれます。
クローネとはドイツ語でクラウン(冠)のことで狭義的にコーヌスクローネを用いた義歯の維持装置のみを
指すこともあります。
支台となる歯を形成し、その上に被せる金属の内冠を作成し、その内冠に適合する外冠を組み込んだ義歯を
作成します。
この内冠と外冠の軸面に6度のテーパーを付与してその接触による摩擦力を利用して維持装置とし、義歯を
固定します。
コーヌスクローネの理解は茶葉を入れる茶筒をイメージすると分かりやすい。
茶筒は本体を強く振っても蓋は外れないが、蓋にゆっくりとした力を加えると簡単に外れます。
コーヌスクローネも同じ原理を利用しています。
保険が適用されない自由診療となります。

(3)ノンクラスプデンチャー
金属のバネをつかわない部分床義歯です。
見た目(審美性)を重視した義歯と言えます。
全て保険適応外となります。
洗浄液も専用の物になります。



補足:部分床義歯の欠損様式による分類
(1)ケネディー分類
T級:両側性遊離端欠損---現存する歯の後方に両側性の欠損が存在するもの
Wikipedia 「ケネディー分類」より
U級:片側性遊離端欠損---現存する歯の後方に片側性の欠損が存在するもの
Wikipedia 「ケネディー分類」より
V級:片側性中間欠損---片側性欠損領域の前方と後方の両方に歯が存在するもの
Wikipedia 「ケネディー分類」より
W級:前方歯中間欠損---現存する歯の前方に正中線を越えて一つの欠損領域をもつもの
Wikipedia 「ケネディー分類」より
(2)アイヒナーの分類
咬合支持域による歯の分類法
A群:4つの咬合支持域を全て持つもの
A1:歯冠修復のみ
A2:上下顎のうち1顎のみ歯牙欠損あり
A3:上下顎とも欠損有り
B群:咬合支持域が減少したもの
B1:3つの支持域をもつ
B2:2つの支持域をもつ
B3:1つの支持域を持つ
B4:支持域がない(前歯部のみに咬合接触がある)
C群:咬合支持域がないもの
C1:上下顎に残存歯がある(すれ違い咬合)
C2:上下顎のうち1顎が無歯顎
C3:上下顎とも無歯顎
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全部床義歯 (Full Denture または Complete Denture) |
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1:部分床義歯とは
歯科の補綴装置のうち、無歯顎者につけるもの、すなわち一本も歯が無い人の入れ歯です。
総入れ歯とも言います。
2:構造
(1)人工歯部
本来天然歯があった所で、人工歯が並べられています。
レジン歯や陶歯、金属歯などが使われます。
(2)床部
人工歯部以外の部分を床部といいます。
通常はレジンもしくはスルフォンのみで作られています。

3:特殊な全部床義歯
(1)金属床義歯---保険適用除外
粘膜面や口蓋側、舌側など外観に触れない部分をコバルト、チタン、金などで作り、異物感が少なく、
食物を自然な温度で味わえる様にした入れ歯です。

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入れ歯に関連するグッズ |
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一般向け |
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『江戸の入れ歯師たち ─木床義歯の物語』
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参考資料-歯科関係者用 |
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『村岡秀明の日めくり総義歯セミナー 入れ歯三十一景 毎日ひとつずつ覚えよう カレンダー』
『今,保険の義歯をどう作るか: より良いものを,より効率よく』
『総義歯の「痛い! 」「外れる! 」にどう対処するか』
『リライニング適材適所』 村岡秀明 ヒョーロン・パブリッシャーズ
『超高齢社会におけるドライマウスへの対応』
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