薬物的行動調整法 (Drug Behavior Therapy) |
はじめに:行動調整法
(1)行動調整法とは
歯科診療や口腔ケアの妨げとなる患者の心身の反応や行動の表出を予防、制御し、患者・術者ともに
できるだけ快適な環境下で、安全で確実な歯科治療が行えるよう患者の心身の状態を調整していくための
方法です。
参照、「行動調整法 総論」 参照、「レディネス」 へ
(2)行動調整法の種類
【1】コミュニケ−ション法
【2】行動療法
【3】薬物的行動調整(鎮静法、全身麻酔法)
【4】物理的な体動の調整法
【5】歯科治療・口腔ケア時の工夫
1:物理的な体動調整とは
(1)物理的な体動の調整法とは
物理的な胎動調整の最大の目的は、不意な体動による治療中の事故を防ぐことです。
適切な行動がとれないことへの罰として用いられたと誤解されないように適用することが重要です。
@知的能力障害の人
治療目的が理解できないための不安や恐怖から、自発的な開口や開口保持、協力的で安定
した姿勢の維持が困難な場合があります。
患者の突発的な動きによる偶発事故を防止し、歯科診療や口腔ケアをを安全かつ確実に行うためには,体動を
適切にコントロールする必要があります。
B脳性麻痺の人
脳性麻痺の人にみられる原始反射には、神経生理学的な反射抑制の体位を応用して緊張の低減をはかります。

『スペシャルニーズデンティストリー障害者歯科 第2版』 から引用
(2)体動をコントロールする必要性
障害のある人では、歯科診療のとき楽で安定した体位をとることが困難です。
知的能力障害のある人では、治療目的が理解できないため、不安や恐怖から泣き叫んだり、暴れたり、逃げたり
することがあります。
歯科治療を適切に、また安全に行うためには、体動を適切にコントロールする必要があります。
(3)障害のある人の歯科治療中に生じる体動示す原因

(4)物理的な体動コントロールの目的
物理的な体動のコントロールを行う最大の目的は、不意な体動による治療中の事故を防ぐことです。
また、未経験の歯科治療に対する不安からの解放をはかることです。
過去に経験した歯科治療による痛みや不快感などに基づく恐怖からの脱却をはかります。
適切な行動がとれないことへの罰として用いられたと誤解をされないように適用することが重要です。
身体抑制下で実際の歯科治療を経験させて想像上の恐怖をとり除き、適応行動を学習させるという原則
(フラッディングの一種)を忘れてはなりません。
また、脳性麻揮の患者でみられる原始反射には、神経生理学的な反射抑制の体位を応用して緊張の低減をはかる
ことも重要となります。
2:知的能力障害のある人や自閉スペクトラム症の人の身体抑制法
(1)徒手による体動のコントロール
幼児・小児期で知的能力障害のある場合で、まだ力が強くなく、また大きな体動がない場合に実施します。
保護者・介護者やスタッフの手によって体動を抑制することができます。
体動を抑制するという意味と軽く手を添えるという点から、患者に安心感を与え,安全に歯科治療が行えます。
安心感という点では,保護者や家族などによる抑制が効果的でです。
徒手による体動抑制
『スペシャルニーズデンティストリー障害者歯科 第2版』 から引用
(2)タオルやマジックベルトを用いた体動のコントロール
体動が少し大きく, より確実な身体抑制が必要な場合、大き目のタオルやシーツで身体を包み込むこと
(ラッピングテクニック) やそれにマジックベルトも併用することで、より効果的に抑制できます。
徒手により強く抑制すると、一部分に強い力がかかるため痛かったり、あざになったりすることもあるので、
全体を包み込むような抑制法が良策です。
シーツを用いた体動抑制
(3)抑制具を用いた体動のコントロール
さらに体格が大きくなり徒手やタオルでは対応できない場合や、体動が大きい場合には、特殊な抑制具を用いた
体動のコントロールが必要となります。
一般にはレストレイナー、パプースボードがよく用いられます。
体動を抑制する場合、不意な動きによる事故も考えられるため体動のタイミングを予測することも重要です。
レストレーナーを用いた体動抑制
3:脳性麻揮患者の抑制方法
詳細は、「脳性麻痺患者」の項を参照
4:開口保持に用いる器具
(1)開口器の種類
開口器、バイトブロック 割り箸にガーゼを巻いたもの など。

(2)開口器使用時の注意事項
上下顎歯列のわずかな隙間に器具を挿入してこじ開けるような使用は避けます。
歯の破折、口唇や舌など軟組織の裂傷や咬傷、顎関節の損傷を生じさせる危険性があるからです。
5:物理的な体動抑制を行うときの注意点
(1)禁忌事項
抑制下で痛みを伴う処置を強行することは禁忌です。
できるだけ処置をみせることにより、少しでも治療について理解し、協力が得られるよう努力することが大切です。
(2)注意点
抑制下では意思表現の手段がない状態となるため、その伝達手段を残すためにも頭頚部を常時物理的に固定
することは避けるべきです。
身体抑制された状態での不安を軽減させ、抑制時の偶発事故を防止するためにも、保護者や介護者がチェアサイド
にいる状態で治療を行うことが不可欠です。
6:物理的体動抑制による効果と再評価
(1)効果

(2)再評価

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体動を抑えるための器材 |
開口器
ザイコア・インターナショナル・インク 開口補助具 オーラルバイト スリム OBS
開口器 ハイステル式 23-6639-00
ナビス 万能開口器用チップ 10入 /61-7365-67
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参考資料 |
『スペシャルニーズデンティストリー障害者歯科 第2版』
『歯医者に聞きたい 障がいのある方の歯と口の問題と対応法』
『歯科医院が関わっていくための障害児者の診かたと口腔管理』
『歯科衛生士講座 障害者歯科学 第2版 』
『障害者の歯科治療 臨床編』
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