1:双極性障害の概念
(1)双極性障害とは
双極性障害は気分が高まったり落ち込んだり、躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気です。
気分の高揚、過活動(躁状態)と、落ち込み(うつ状態)の波を繰り返す精神疾患です。
以前は、そううつ病とも言われていました。
双極T型障害=躁病を伴う 双極U型障害=軽躁病を伴う

(2)双極性障害とうつ病
双極性障害は、かつて躁うつ病といわれていました。
そのこともあってうつ病の一種と誤解されがちでしたが、実はこの二つは異なる病気で、治療も異なります。
(3)双極性障害を患った人物
@画家
ミケランジェロ、ゴッホ
A作家
ゲーテ、スウィフト、マルキ・ド・サド、バルザック、ディケンズ、トルストイ、ヘミングウェイ
太宰治、宮沢賢治、夏目漱石
B哲学者
キェルケゴール、ニーチェ
2:双極性障害の分類
(1)DSM-5による分類
@双極I型障害(Bipolar l disorder)
躁病のエピソードを持ちます。
A双極U型障害(bipolar U disorder)
より軽い軽躁病のエピソードを持ちます。
B気分循環症(Cyclothymic disorder)
C物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害
D他の医学的疾患による双極性障害および関連・障害
E他の特定される双極性障害および関連障害
F特定不能の双極性障害および関連障害
3:病因
(1)原因
@発症原因
明確な原因は不明です。
脳や遺伝子といった身体的な基盤の要素が最も強い疾患と考えられています。
A病態生理
躁状態には、ドーパミン神経伝達を止める薬である抗精神病薬が有効です。
鬱状態には、前頭葉のドーパミンを増加させる薬である三環系抗うつ薬が有効で躁転を引き起こします。
そして、うつ状態では脳脊髄液のドーパミン分解産物の量が低下しています。
以上の事から、躁状態やうつ状態に伴ってドーパミンの量が変化していると考えられています。
ドーパミンは、中脳の中心部に細胞があり、脳全体を幅広く調節しています。
ドーパミンは快楽に関わるとされ、ドーパミンの働きを強める薬は覚醒剤と呼ばれています。
躁状態というのは、このドーパミンが異常に放出されてしまっている状態と考えられます。
一方、うつ病はドーパミンが減ってしまい、まったく快楽を感じることができない状態になってしまっていると
考えられます。

(2)その他の要因
@遺伝要因
一卵性双生児の一致率は60%〜70%、二卵性双生児の一致率が15%前後というデータがあり、双極性障害の
遺伝的素因が示唆されています。
また、双極性障害の第一親等では感情障害の出現率が高いとする報告もあります。
I型からはI型が、II型からはII型が遺伝します。
I型とII型は別の遺伝子に起因するものであると言われています。
関連遺伝子を持つ潜在的リスクのある人が、ストレスなどの外的要因にさらされた時に発生します。
ストレス脆弱モデルという概念で説明され得るとされています。
補足:ストレス脆弱モデル

発症しやすい素質と、その人の限界値を超えるストレスが組み合わさった場合、人間は精神疾患を発症する。
A生理学的要因
グルタミン酸作動性神経伝達や、ミクログリアの異常が示唆されています。
B環境要因
素因 (遺伝的・生物学的な特性) が環境の影響 (ストレッサー) と相互作用して精神疾患を引き起こします。
保護要因---ポジティブな人間関係等。
リスク要因--ストレスなど。

5:疫学
(1)発症頻度
出現頻度は0.2%程度とされています。
生涯有病率(一生のうちに少なくとも一度罹患する人の割合)は、1〜2%と言われています。
(2)年齢・性差
20代前半をピークとして30歳までの発病例が多いとのデータもあります。
性差はおよそ2:3であり、男女差は大きくありません。
6:症状
(1)躁病・軽躁エピソード
@躁病エピソード
異常に、かつ持続して高揚し,、自尊心が高まります。
易怒性がある状態が1週間以上にわたって続きます。
A軽躁エピソード
躁のようではあるが、程度はそれほど華々しくはなく、少なくとも4日以上高揚症状が続きます。
もしくは通常の非うつ状態とは明らかに異なっています。

(2)具体的症状
@注意散漫 (distractability)
話題がぽんぽん変わります。
A不眠(insomnia)
高揚感、爽快な気分、眠らなくても平気となります。
B誇大性(grandisosity)
自尊心が高まり、怒りっぽくなる、攻撃的になります。
C観念奔逸(flightofideas)
考えや計画が次々とわいてきます。
D過活動制(activity)
活動性の充進、じっとしていられない、派手なファッション。
E多弁(speech)
早口で多弁、圧倒的なしゃべり方.
F軽卒(thoughtlessness)
思考は上滑り、気まぐれで脱抑制的な行動、浪費、ギャンブル、衝動的旅行、など。
(3)他の病気との併存症
@不安症---75%
双極障害に先行して発症します。
A摂食障害---14%
7:診断
(1)うつ病との鑑別
本症患者がうつ状態で受診したときに、鑑別が重要となります。
過去における躁病エピソードや軽躁エピソードの有無、現在の重症度や精神病性の特徴の存在などを考慮して
慎重に診断される必要が有ります。
@躁病から病気が始まった場合
双極性障害と診断可能.
(*うつ病との違い:1回でも躁状態があれば、双極性障害。うつは、うつだけです。)
A抑うつから始まった場合
うつ病と診断されることになる.
明確に躁病あるいは軽躁病が現れるまでは適切な治療は実施できないことになります。
B双極性障害の可能性が高い場合
肉親に双極性障害の人がいる場合。
発症年齢が若い(25歳未満)場合。
幻聴・妄想などの精神病性の特徴を伴う場合。
過眠・過食などの非定型症状を伴う時。
C病前性格
うつ病に特徴的な執着性格やメランコリー親和型性格とは異なります。
社交的で気分が変わりやすい傾向(循環気質)が見られるとされます。
(2)双極T型とU型との鑑別
@双極T型障害
1回以上の躁病エピソードがあるものです。
抑うつと躁病と、これらの症状のない寛解期とをはさみながら循環することが多いとされています。
A双極U型障害
少なくとも1回の抑うつエピソードと、少なくとも1回以上の軽躁エピソードがあるものです。

8:治療
(1)薬物療法
@抗精神病薬
非定型抗精神病薬---アリピプラゾール、オランザピン、など
ドーパミンを阻害することによって、躁状態を抑える作用があります。
アリピプラゾールは、ドーパミン・システムスタビライザーと呼ばれ、ドーパミンが出過ぎているときにはブロックし、
足りない時にはその作用を補うと考えられています。
A気分安定薬
リチウム、抗てんかん薬---バルプロ酸、カルバマゼピンなど
これらには神経保護作用があり、神経細胞を死から守るという作用です
1:リチウム
リチウムには躁状態とうつ状態の症状を軽減する作用があります。
リチウムは多くの双極性障害患者で気分の変動を予防するのに役立ちます。
リチウムは効果が出始めるまでに4〜10日かかるため、しばしば抗てんかん薬や新しい抗精神病薬
(第2世代抗精神病薬)など即効性のある薬剤を併用して、興奮した思考や行動をコントロールします。
2:抗てんかん薬
抗てんかん薬のバルプロ酸とカルバマゼピンは、気分安定薬として作用します。
リチウムとは異なり、これらの薬は腎臓に損傷を与えません。
しかし、カルバマゼピンは赤血球数と白血球数を大きく減少させる可能性があります。
(2)その他
心理教育や精神療法も併用されることがほとんどです。
9:予後
双極性障害はI型、U型ともにうつ状態の再発が多く、非常に長い経過をたどることが多い病気です。
躁状態のときに、社会生活で失態をおかすことが多い。
本人に取り返しのつかないダメージを与えることがあるため、継続した治療が重要です。
双極性障害の治療のためには服薬の継続がもっとも大切です。
10:歯科治療上の注意
(1)性別による注意点
@女性
快活で魅惑的にみえることがあります。
躁状態の患者さんの言動は、あくまでも病気によるものであり、本来のその人の性格によるものではないことを
覚えておく必要があります。
A男性
豪快、親分肌で、職務上の能力も高く,社会的地位が高い人が多い.
診療室では気分の波がみえにくい事もあります。
(2)精神状態に対する注意点
@躁状態の場合
躁状態の時は比較的治療が出来ます。
躁状態には普段は考えられないような浪費、たとえば、突然、車や高価な着物を購入したり、高額のローン契約をして
しまったりすることもあります。
自由診療などは、治療計画の説明が必要です。
A鬱状態の場合
しかし、鬱状態に変化する場合も有ります。
うつ状態のときにはできるだけ休養をとることが必要です。
大がかりな歯科処置を計画するときには、病状のための治療中断の可能性なども念頭に置く必要が有ります。
(3)内服薬の副作用に対する注意
@抗精神病薬の副作用
口腔乾燥症
A抗てんかん薬
歯肉腫脹
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