1:強迫症の概念
(1)強迫症とは
強迫観念(obsession)と強迫行為(compulsion)を主症状とする疾患です。
OCD患者の最大30%は、チック症(小児および青年におけるチック症およびトゥレット症候群)の既往があるか、
それを併発しています。
(2)強迫観念
意思に反した侵入的な思考,衝動,またはイメージがあります。
自分でもばかばかしいと思いながらも、自分の意図に反して繰り返し頭に浮かんで心から離れない思考や衝動
およびイメージなどです。
通常、その存在が著しい苦痛または不安を引き起こします。
(3)強迫行為
そのばかばかしさや過剰であることを自ら認識してやめたいと思いつつも、駆り立てられるように行う行為を指します。
2:分類
(1)強迫症(強迫性障害) (obsessive-compulsive disorder) (過去:強迫神経症)
強迫観念(obsession)と強迫行為(compulsion)を主症状とする疾患です。
(2)醜形恐怖症(身体醜形障害) (body dysmorphic disorder)
他者には明らかではないか、軽微にしか見えないが、本人は重大と認識している1つまたは複数の身体的欠陥に
とらわれることを特徴とします。
(3)ためこみ症
実際の価値とは無関係に,所有物を捨てること,手放すことが持続的に困難であることによって特徴づけられます。
この困難により、生活空間が散らかって物であふれ,その空間の使用目的が大幅に損なわれるところまで所有物が
蓄積される場合もあります。
(4)抜毛症
自身の毛髪を抜くことを繰り返し,それにより毛髪が喪失することにより特徴づけられます。.

(5)皮膚むしり症
皮膚むしり症の人は、皮膚をむしる直前に緊張感や不安を抱いていて、皮膚をむしることで、そうした感情が和らぐ
ことがあります。
傷ができるほど皮膚をむしり、皮膚をむしる行為をやめようとしてやめられず、また自分の行動のために大きな苦痛を
感じているか、日常生活に支障をきたしている場合に、この病気の診断が下されます。

(6)身体集中反復行動症/身体集中反復行動障害
(7)その他
3:原因
(1)原因
神経症の一型ですが、神経症の原因とされる心因(心理的・環境的原因)よりも、大脳基底核、辺縁系、脳内の特定部位
の障害や、セロトニンやドーパミンを神経伝達物質とする神経系の機能異常が推定され、発症メカニズムとして有力視
されています。
ストレスフルな出来事のあとで発症することもありますが、多くは特別なきっかけなしに徐々に発症します。
4:疫学
(1)有病率
人口の2-3%前後が強迫性障害であると推測されています。
(2)好発年齢
20歳前後の青年期に発症する場合が多いといわれますが、幼少期、壮年期に発症する場合もあるため、
青年期特有の疾病とは言い切れない面もあります。
5:強迫症による行為・観念
(1)不潔恐怖・洗浄強迫
潔癖症とも言われている。
手の汚れが気になり、手や体などを何度も洗わないと気がすまない。
体の汚れが気になるためにシャワーや風呂に何度も入る等の症状
ただし、本人にとって不潔とされるものを触ることが強い苦痛となるため、逆に身体や居室に触れたり清掃することが
できずに、かえって不衛生な状態に発展する場合もある。
手の洗いすぎから手湿疹を発症する場合もある。
患者によっては電車のつり革を触ることが気持ち悪くて手袋をはめて触ったり、お金やカード類も外出して穢れた、
汚れたという感覚を持つため帰宅の度に洗う場合もある。
(2)確認行為
確認強迫とも言います。
外出や就寝の際に、家の鍵やガスの元栓、窓を閉めたか等が気になり、何度も戻ってきては執拗に確認します。
電化製品のスイッチを切ったか度を越して気にするなどです。
(3)加害恐怖
自分の不注意などによって他人に危害を加える事態を異常に恐れます。
例えば、車の運転をしていて、気が付かないうちに人を轢いてしまったのではないかと不安に苛まれて確認に戻る
などの行為があります。
赤ん坊を抱いている女性を見て、突如としてその子供を掴んで投げてしまったり、落としたりするというような、
常軌を逸した行為をするのではないかという恐怖も含まれます。
(4)被害恐怖
自分が自分自身に危害を加えること、あるいは自分以外のものによって自分に危害が及ぶことを異常に恐れる。
例えば、自分で自分の目を傷つけてしまうのではないかなどの不安に苛まれ、鋭利なものを異常に遠ざけるなど。
過去に被害にあったのではないかと疑うこともあります。
(5)自殺恐怖
自分が自殺してしまうのではないかと異常に恐れます。
(6)疾病恐怖
または疾病恐怖症など。自分が重大な病や、いわゆる不治の病などにかかってしまうのではないか、もしくは、
かかってしまったのではないかと恐れるものです。
HIVウイルスへの感染を心配し、血液などを異常に恐れたりするものも含まれます。
(7)縁起恐怖
縁起強迫ともいいます。
自分が宗教的、もしくは社会的に不道徳な行いをしてしまうのではないか、もしくは、してしまったのではないかと
恐れる ものです。
信仰の対象に対して冒涜的な事を考えたり、言ってしまうのではないかと恐れ、恥や罪悪の意識を持ちます。
例えば、神社仏閣や教会において不信心な事を考えてしまうのではないか、聖典などを毀損してしまうのではないか、
というものです。
ある特定の行為を行わないと病気や不幸などの悪い事柄が起きるという強迫観念に苛まれる場合もあります。
靴を履く時は右足から、などジンクスのような行動や、○○すると悪いことが起きる、などの観念が極端になっているものも
見られます。
(8)不完全恐怖
不完全強迫ともいう。
物を秩序だって順序よく並べたり、対称性を保ったり、本人にとってきちんとした位置に収めないと気がすまず、
うまくいかないと不安を感じるものです。
例えば、家具や机の上にある物が自分の定めた特定の形になっていないと不安になり、これを常に確認したり直そうと
する等の症状です。
物事を進めるにあたって、特定の順序を守らないと不安になり、うまくいかないと最初から何度もやり直したりする
ものも
あります。
郵便物を出す際のあて先や、書類などに誤りがないかと執拗にとらわれる場合もあるため、結果として確認行為を
繰り返す場合もあります。
(9)保存強迫(強迫的ホーディング)
自分が大切な物を誤って捨ててしまうのではないかという恐れから、不要品を家に貯めこんでしまうものです。
本人は不要なものだとわかっている場合が大半のため、自分の行動の矛盾に思い悩む場合がある。
(10)数唱強迫
不吉な数やこだわりの数があり、その数を避けたり、その回数をくり返したりしてしまいます。
数字の4は死を連想するため、日常生活でこの数字に関連する事柄を避ける、などの行為です。
(11)恐怖強迫
ある恐怖あるいはことば、事件のことを口にできない。
そのことを口にすると恐ろしいことが起こると思うため口にできない、などです。
(12)性的な強迫観念
同性愛、近親相姦といった本人が本当は考えたくもない性に関するイメージが強迫観念として湧き起る場合です。
同性愛強迫性障害はHOCDとも言われています。
この他、些細であったり、つまらない事柄、気にしても仕方の無い事柄を自他共に認める状態にあっても、
これにとらわれ(強迫観念)、その苦痛を避けるために生活に支障が出るほど過度に確認や詮索を
行います(強迫行為)
6:強迫症と歯科医療
(1)強迫症患者の歯科的特徴
口腔内不潔恐怖によって過度な口腔清掃が行われている場合があります。
(2)強迫症患者の歯科治療上の問題点
口腔清掃に多大なる時間をかけないと、気がすまない場合もあります。
(3)強迫症患者の歯科治療
@認知行動療法
治療は主に心理療法によって行い、認知行動療法(CBT)や曝露反応妨害法(ERP)などが用いられます。
A薬物療法
時には薬物療法(SSRI)などが行われます。
A醜形恐怖症との鑑別
顎矯正手術の適応には本症の鑑別が重要となります。
醜形恐怖症の場合には、いくら手術を行ってもいつまでも満足は得られません。
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