1:概念
(1)二分脊椎
@二分脊椎とは
脊椎管背側を形成する椎弓や棘突起が先天性に欠損している病態です。
脳および脊髄の原基となる神経管がつくられる胎生期4週に発生する神経管閉鎖障害です。

A二分脊椎と無脳症
神経管下部に生じた場合---二分脊椎
上部に生じた場合---------無脳症(無脳症の場合は流産もしくは死産)

(2)二分脊椎の発生部位
胸椎下部、腰椎部,仙椎部に認められます。
3〜6個の椎体にまたがっていることが多い。
重症度はその障害部位によって異なります。
(3)二分脊椎の種類
@潜在性二分脊椎
出生時におしりから腰にかけての異常なふくらみやくぼみ、色素異常(母斑)、毛髪により発見される場合が多いと
されます。
神経症状は、生後すぐには認めませんが、次第に下肢運動障害、感覚障害、下肢変形、下肢の長さ・太さの左右差、
下肢の痛み、膀胱直腸障害(尿が出づらい、ひどい便秘など)を次第に認めてくるようになります。
潜在性二分脊椎
A顕在性(開放性)二分脊椎 (脊髄髄膜瘤・脊髄披裂)
出生時に背部〜おしりにかけて皮膚が欠損し脊髄が見えているため、肉眼的にすぐに診断が可能です。
すでに胎内にいる時から下肢の運動麻痺、感覚麻痺、膀胱直腸障害をすでに認めている事もあります。
水頭症やキアリ奇形2型を合併していたり、大泉門の膨隆や頭囲の拡大を認めている場合があります。
顕在性二分脊椎
補足---水頭症
脳室に髄液が過剰に溜まってしまったために脳を圧迫し、さまざまな症状を引き起こしてしまう疾患です。
頭に水がたまると、特徴的な3つの症状が現れます。
うまく歩けない歩行障害、ぼーっとして口数が少なくなる認知症、排尿に失敗する尿失禁の3症状です。
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:以下、iNPH)は 治療により改善する認知症と
して知られています。

参照:「トキソプラズマ症と水頭症」
補足:キアリ奇形
小脳、延髄および橋の発生異常を基盤とする奇形です。
小脳・脳幹の一部が大後頭孔を超えて脊柱管内に陥入する形態を呈する疾患です。
大後頭孔から脊柱管内への小脳や脳幹の下垂などの後頭蓋の脳の形態を4型に分けられています。
2:病因
(1)病態
皮膚外胚葉と神経管の分離が不十分なために生じます。
(2)原因
@母体
1)葉酸の摂取不足
補酵素である葉酸が母体に不足することが挙げられています。
妊娠前から0.4mg/日の葉酸サプリメントを摂取すると、これらの疾患の発生リスクを約半分に減らせることが
知られています。
2)糖尿病
3)肥満
4)バルプロ酸ナトリウム(抗てんかん薬)の服用
5)妊娠前期の高熱発作
6)放射線被爆
7)ビタミンAの過剰摂取 など
A遺伝因子

3:疫学
(1)発症率
6.2/10,000人(2009年日本産婦人科医会報告)
30年以上減少傾向がみられません。

4:臨床分類と症状
(一般的な症状)
脊椎管にあるべき脊髄が露出することで神経障害を生じます。
その障害部位の神経支配に合わせた臨床症状となります。
そのため運動機能障害や感覚麻痺など多様な症状となります。
二分脊椎における神経麻痺は脊髄の横断麻痺とは異なります。
髄膜瘤による不全麻陣のため、髄節ごとに明白には現れません。

(1)潜在性二分脊椎
生後すぐは無症状が多く、成長に伴い下肢の運動知覚障害や足部変形, 排尿排便障害などの神経症状が
出現します。
症状の出現時期は個人によって異なります。

(2)顕在性二分脊椎(開放型)
母体血清中または羊水中のαフェトプロテインの高値によって出生前診断が可能です。
出生時に明らかに症状を認めます。
出生後早急に閉鎖手術の必要性があります。

5:治療
(1)顕在性二分脊椎に対する治療
感染による死亡があるため、脊髄髄膜瘤の手術は生後のできる限り早い時期が理想です。
24時間以内、遅くとも48時間以内が望ましいとされています。
(2)水頭症に対する治療
脳室ドレナージか皮下にリザーバーを留置し、髄液がきれいになってからシャント手術を行います。
脳室から髄液を流すV-Pシャント術を施行します。

(3)膀胱・直腸障害を認める場合
排泄障害によって腎機能を低下させ死に至ることもあります。
精神的負担も大きいため,排尿・排便をコンロールすることが重要です。
(4)多くの合併症に対する治療
脳神経外科、小児科、小児外科,泌尿器科,整形外科, リハビシテーション科などを中心としたチーム医療が必要と
されます。
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