お口大全 (お口の機能と口腔ケア)  All the Oral-functions and Care
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摂食嚥下障害治療の準備と間接訓練について


     
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 発達期の摂食嚥下障害             

      


摂食・嚥下障害治療の準備と間接訓練
  はじめに
 
一口に摂食嚥下障害といってもその病態は千差万別です。

全く経口摂取が出来ないが、治療によっては改善する可能性がある方。
改善の可能性は低く、何らかの代償的方法を選ばなければならない方。

症状は軽度で、少しの訓練や代償的方法で口から食べ続ける事が出来る方。

障害の程度がどうなのかを見極め、それに応じた治療・訓練を計画することが先ずは第一歩となります。

色々な訓練方法がありますが、ここでは個別の訓練方法をお話し、実際には病状に合わせてそれらを組み合わせ、メニューを組み立てることが必要となります。

      治療・訓練の流れ
            
          診査・評価・計画     
             
          準備訓練 (例えれば、基礎トレ)     
             
          間接訓練 (例えれば、素振り)    
               
          再評価
             
          直接訓練 (例えれば、対戦)
             
          リスク管理

 


  T:準備訓練
 
実際の摂食嚥下訓練を始める前に、それをより効率的に行うために、口腔環境の整備を行います。
口腔内の保清や歯科治療、口腔乾燥症に対する治療などに努めて、より良い口腔環境を作ります。

(1)口腔清掃
   注意点
      1 原則として患者さんの右側から行うこと。
      2 体位の確保(座位または30度仰臥位)をし、頸部前屈を維持します。
      3 必ず直視する。
      4 痛くないこと。
      5 清拭は奥から前方へ行います。 (残渣を奥に送り込まないため)

      右側から     奥から前へ


(2)ブラッシング  
     汚れ(プラーク)の付着部位を磨くこと。
     一本一本ずつ磨くこと。
     時には染め出し液を併用して汚れの有る部分を明示化する事も必要です。
     補助器具の併用。(器具の口内への落下に注意し、誤飲・誤嚥が起こらないように)


(3)口腔洗浄   
    注意点
     洗浄液の貯留が可能か否かの判定を行ってから実施して下さい。
     吸引の整備。
     洗浄針の落下に注意。


(4)含漱
     可能なら積極的にうがいはしてもらいます。
     含嗽はかなり効果的な機能訓練となります。


(5)義歯の調整・取り扱い等の説明
   嚥下障害の方が義歯を使用されている事は珍しくありません。
   介助する方は、必ず義歯に対する知識を持っておいて下さい。

   義歯を入れる前に…
          よくうがいをし、口の中に食べかすが無いようにします。
          義歯に汚れが付着していないか確認し、水でぬらします。

   @部分床義歯の入れ方・取り外し方のコツ
     1)入れ方:
        上顎から先に入れる(上顎の方が一般的に安定しやすいため)。
           クラスプの着脱方向は限られているため、まずクラスプを掛ける歯の位置まで持っていきます。
           義歯全体を指で支え、着脱方向に沿って軽く圧迫し、装着します。
           決して義歯を咬んで入れないこと。クラスプの変形や、破損の原因になります。
           小さな義歯は、しっかり持って誤嚥のないよう十分注意すること。
     2)取り外し方:
           上顎の場合は、人差し指の爪をクラスプに掛け、親指を歯の上に置き、人差し指を引 き下げます。
           下顎の場合は、親指の爪をクラスプに掛け人差し指を歯の上に置き、親指を引き上げます。


   A全部床義歯の入れ方・取り外し方のコツ
       1)入れ方:
           上顎から先に入れます。
           上顎の場合は、義歯の中央部を指で押さえ吸着させます。
           下顎の場合は、両手の人差し指を左右の歯の上に置き、親指を顎の下に添え双方の指で
           はさむように義歯が安定するまで軽く下方に押さえます。
       2)取り外し方:
           義歯の端に指をかけてはずします。

             

   B義歯の手入れ
       義歯の汚れは、細菌の増殖によって歯肉の炎症、現存歯の虫歯、口臭の原因となります。
       義歯は毎食後にはずし、清掃を行います。
       特に夕食後・就寝前の清掃を重点的に行います。
       義歯の表面に傷を付けないよう軽い力で清掃します。
       歯磨剤は研磨剤を含むものがあり、義歯を傷つけることがあり使用には注意が必要です。
       入れ歯洗浄剤の使用は効果的ですが、必ずブラシでの清掃後に使用のこと。

   C残存歯の手入れ
     現存歯のある方は、1本でも多く歯を残す努力が肝心です。
     特に、入れ歯に接している歯は汚れが付着しやすいので丁寧に清掃する必要があります。

   D義歯の保管方法
     義歯の材料であるレジンは吸水性を有しています。
     取り外したときも乾燥させないことが大切です。
     乾燥すると義歯に歪みを生じ、適合が悪くなったり、割れる原因になります。
     義歯清掃後、保存用容器に水を入れ義歯を浸しておきます。

     原則として夜間は義歯を取り外すこと。
      〈理 由〉
        細菌の増殖(カンジダ菌など)を防ぎます。
        義歯は基本的に粘膜負担であるため、取り外すことで粘膜の血行回復をはかります。


(3)歯科治療
   1)虫歯の治療  2)歯周病の治療  3)補綴治療(歯冠修復、義歯)


(4)その他の治療
   1)口腔乾燥症の対処方法  2)粘膜疾患の対処方法


  U:間接訓練
 
間接訓練とは

 摂食・嚥下に関係する器官の運動性や協調性の改善を図る目的で、実際に経口摂食を始める前に、
 経口摂取に必要な機能を準備することです。
 本来は経口摂取が不可能な方に実施しますが、経口摂食している方の口腔ケアとしても併用可能です。

      1:基礎訓練
      2:授動的訓練
      3:自律的訓練


1:基礎訓練
  
 (1)過敏症状の除去 
    摂食・嚥下障害を有する人には、顔面・口腔領域に様々な程度の過敏を有する方がいます。
    過敏があると、刺激に対して感覚ー運動系が適切に反応出来ないため、機能の発現が著しく阻害されます。
    さらには、摂食訓練そのものが不可能に為るかもしれません。
    従って、過敏のある症例では、すべての摂食訓練に先だって脱感作を行う事が必要です。

   @過敏の存在部位の確認
      過敏現象は身体の中心に近い部位ほど発生頻度が高く、症状も強くなります。
      従って、その確認には遠心側から正中に向けて介助者の手掌によって行います。
          手→腕→肩→頚→顔面→口の周囲→口腔内

              遠くから中心部へ向けて行います。

         『摂食・嚥下リハビリテーション』 金子芳洋 千野直一 医歯薬出版より引用


   A訓練方法
      弱い刺激を、刺激部位を移動させずに与え続けるのが原則です。
         皮膚面:介助者の手掌で皮膚面の過敏部位を圧迫します。
         口腔内:手指で圧迫します。

      最も注意すべきことは、脱感作の実施が極端な患者の負担に為らない様に心がける事です。
      苦痛が伴えば、かえって拒否の原因と為ってしまうことを念頭に置く必要があります。


 (2)姿勢
   @基本姿勢(開始姿勢)・・・頚部前屈 足底設置、臥位ならば30度仰臥位
      この姿勢は、全頸筋群や全身の筋肉がリラックスして嚥下筋の働きがスムーズになり、
      誤嚥を起こしにくいろされています。

          

        『摂食・嚥下リハビリテーション』 金子芳洋 千野直一 医歯薬出版より引用

     1)30度仰臥位の解剖学的利点   
         気管と食道の解剖学的前後関係から、仰臥位の方が気管に入る可能性が低いと考えられます。

     2)30度仰臥位の欠点
          自律的な摂食の場合には、食器が使いにくい。
          食物の認知が困難になります。

     3)頚部前屈の利点        
        以下の理由で、声門前庭の閉鎖がよく、また喉頭蓋の動きも良くなります。
         1:食塊の通路が広がります。
         2:喉頭蓋谷が広がり、食塊と粘膜の接触 面積が大きく為るので嚥下反射が起こり易くなります。
         3:喉頭ヒダのメカニズムで気道の保護が行われます。

     4)90度座位との比較        
          90度座位の場合、口腔の食塊維持機能が悪い脳卒中患者では、誤って咽頭に食塊が流れ込んだ時、
          解剖学的に誤嚥の可能性が高くなります。

         また、90度座位においては下肢、上肢の位置にも注意が必要。
           上肢:周囲に障害物が無いよう配慮します。
           下肢:原則として、足底を地面に付け安定させる。

         よって、間接訓練の開始に先立ち、この基本姿勢が維持できるか否かの判定を行います。
         姿勢維持が困難な場合には、ROMの施行等によって、姿勢維持の確立を試みます。

   A基本姿勢からの発展
      基本姿勢の確立が得られたら、徐々に体感を起こし、60度仰臥位、90度座位へと発展させます。


 (3)鼻呼吸の整備
   @鼻呼吸の重要性
      正常な摂食嚥下時には、口唇は閉じられた状態で鼻呼吸が為されています。
      口唇機能が減弱している場合には、鼻呼吸が障害され誤嚥の原因と為りうる危険性もあります。

   A検査
      介助下に口唇と顎を閉鎖状態にして、息苦しくならない程度の鼻呼吸が何秒間出来るかを計測。
      鼻息鏡の使用が好ましいが、所有しない場合には、ステンレス性の鏡などを活用。
          理想時間:30−60秒間

   B訓練方法
      原因疾患の治療
         鼻疾患、呼吸器疾患があれば事前に治療が必要です。

      訓練
          介助下に口唇と顎を閉鎖状態にして、息苦しくならない程度の鼻呼吸を続けさせます。
         同じ長さの持続時間を少なくとも1週間くらい続けて、楽に鼻呼吸が出来るようになったら
         持続時間を数秒間延ばします。


 (4)先行期に対するアプローチ  
   @環境から働きかける方法
      刺激が多い環境下において、間接的に刺激を与えます。
       例1:大部屋に移す
       例2:ナースステーションに置くなど。

   A直接環境から働きかける方法
       直接患者自身に、介助者・治療者が刺激を与えます。
       例1:治療者の声かけ
       例2:意識レベルに会わせた単純作業をしてもらいます。
       例3:冷刺激
            2cm程の立方体の氷を10個程度ナイロン袋に入れ、この氷袋を使って後頸部の
           髪の毛の生え際を中心に、左右・上下にアイスマッサージを行います。
           時間は10-15分程度とし、同時に声かけ、単純作業を行わせて、脳の賦活化を図るように導きます。


2:授動的訓練
   自立的に行えない方に対し、介助者・術者が実施します。

 (1)口腔清拭 (前述)  
   単なる清掃ではなく、機能訓練として口腔清拭を行います。
   これが口腔を通して中枢への刺激となります。


 (2)ブラッシング(介助) (前述)
   単なる清掃ではなく、機能訓練としてブラッシングを行います。
   これも口腔を通して中枢への刺激となります。

        


 (3)歯肉マッサージ
   @目的
      健常者の場合には、歯肉マッサ−ジは歯肉の血行をよくするために行われますが、嚥下障害患者では
      以下の効果が期待されます。
        1)口腔内の感覚機能を高める。
        2)唾液の分泌を促す。
        3)嚥下運動を誘発する。
        4)咬反射を軽減させる。
        5)顎のリズミカルな上下運動を誘発する。

   A方法
      口腔前庭を4区画に分け、その区画ごとに行います。
      口唇閉鎖状態で実施するのが理想。
       1)原則として第2指の腹の部分を歯と歯肉の境目に置きます。
       2)前歯部から臼歯部に向けてこする。
       3)こするのは前から奥に向かう時だけで戻る時にはこすらない。
       4)マッサ−ジの要点は指をすばやく(1秒間に2往復程度)リズミカルに動かすこと。

        
      『摂食・嚥下リハビリテーション』 金子芳洋 千野直一 医歯薬出版より引用


 (4)筋刺激訓練−@ (Vangede-TA:受動的刺激法)  
   @適応
      摂食嚥下障害患者で自律的に下記の運動を行えない方を対象とします。
      摂食嚥下関連諸器官の刺激、賦活化を目的とする手技です。

   A器具
      手指
      場合により綿球、 歯ブラシ、Tooth Hetee等を使用します。

   B方法
    1)口唇のマッサ−ジ
      1:上口唇を摘んでマッサ−ジする。  
         口輪筋群を柔らかくして揉みほぐすように心がけます。
          下口唇も同様にマッサ−ジします。

        

      2:第2指を口腔前庭に入れて上口唇を摘み、外側に向かって引きます。
        下口唇も同様にマッサ−ジします。

          

      3:第2指を上口唇の赤唇部に置き、鼻の方に向かって押し上げます。
        同様にして下口唇赤唇部をオトガイ部に向かって押し下げます。

          

      4:第2指を上口唇の上に横向きに置き、
        上顎前歯部に対してて圧を加える様にゆっくりと上口唇を押し下げる。
        同様に、第2指を下口唇の上に横向きに置き、下顎前歯部に対してて圧を加える様にゆっくりと
        下唇を押し下げます。

        

      5:第2指の指尖部で患者のオトガイ部領域を軽く叩きながらマッサージします。

        



    2)頬部のマッサ−ジ
      1;頬を押す
      2;頬粘膜の拡張
         第2指を口角部から頬粘膜部に挿入し、頬を外側に膨らませます。

        
    3)舌のマッサ−ジ
     A:口外法
        オトガイ部の指押
          オトガイ部先端下部のすぐ後方の部分を上方に押します。
          すなわち、オトガイ舌筋、オトガイした骨筋のオトガイ 起始部のすぐ後ろを真上に押し上げます。

        

     B:口内法
        1:デンタルミラー、スプーン 等を使用して、または第2指を用いて舌尖部を口底部に向かって押します。

        2:デンタルミラー、スプーン 等を使用して、または第2指を用いて舌縁を反体側に向かって押します。

        


    4)咀嚼筋のマッサ−ジ
     1:開閉口運動
        下顎(口外:オトガイ部、口内:下顎前歯部)に手指を当て、開閉口運動を誘導。

        

    5)舌骨上下筋群のマッサージ

    上記を1ク−ルとし、3ク−ル繰り返します


 (5)寒冷刺激療法
   @適応
      嚥下反射喪失もしくは弱化した方、流涎の多い方が(皮膚のアイスマッサージの場合)対象となります。

   A作用メカニズム
      口腔の温度は36℃に保たれ、温熱感覚の適応範囲は29ー37℃で、その範囲以外では冷たい
      あるいは熱いと感じます。
      この感覚の変化により、以下の機序で嚥下反射の閾値が低下して、食塊の感覚入力により
      嚥下反射が誘発されやすくなります。

       


   B器材
    1)咽頭アイスマッサ−ジ
      1:Tooth Hette 、綿棒、などに氷水を浸します。
      2:スポイドに水を入れ、それを凍らせます。

    2)皮膚のアイスマッサ−ジ
      1:寒冷刺激器(チルコールド、マイコールド等)を使用します。


   C方法
    1)咽頭アイスマッサ−ジ
      1:刺激部位
          前口蓋弓、後口蓋弓、舌根部、咽頭後壁
     2:実施方法
       Logemannの方法
         左右の前口蓋弓に冷却した刺激子各5回、下から上に向けて(1 stroke当たり1秒)当てます。
       Logemannの変法
         刺激子(凍った綿棒 or Tooth Hette)に少量の冷水をつけて、軟口蓋や舌根部を軽く
         2〜3回刺激した後、すぐに空嚥下させます。
         刺激の与え方としては、広範囲に勝つ長く刺激します。

     3:実施時期
         摂食訓練開始前;2,3分間を当てます。
         食間;空嚥下と併用します。

             


    2)皮膚のアイスマッサ−ジ
      1:刺激部位
         顔面(口輪筋、頬筋、耳下腺)、 顎下部(顎下腺)蓋弓、舌根部、咽頭後壁、頚部。

      2:実施方法
         寒冷刺激器に氷を入れ、口腔周囲を筋の走行に沿って、圧迫刺激します。

      3:実施時期
        摂食訓練開始前;2,3分間を当てます。
        食間;空嚥下と併用します。

        


 (6)輪状咽頭筋弛緩法(メンデルゾ−ン手技)
      メンデルゾーン手技とは、喉頭挙上の強化を促す方法です。
      輪状咽頭筋の弛緩を直接的には促進しないとされています。

   @適応
    1)嚥下反射喪失もしくは弱化した方。
    2)長期間の絶食により輪状咽頭筋が開きにくく なっている方。

   A方法
    1)嚥下反射を有する患者 
        甲状軟骨を手指にて把持します。
        嚥下により甲状軟骨が挙上した時に挙上位を保持します。

    2)嚥下反射を有しない患者
        甲状軟骨を手指にて把持し、挙上位に保持します。

        


 (7)バルーン訓練法
    輪状咽頭部の通過障害のリハビリテーション訓練として、膀胱留置カテーテルを用いた方法。


 (8)理学療法ー1(体幹訓練、呼吸訓練)
  
   @体幹訓練
    1)頚部・体幹機能改善訓練
    2)関節可動域訓練
      1;頚部ROM訓練
      2;胸郭ROM訓練
    3)筋力増強訓練
    4)頚部のリラクセーション

  A呼吸訓練
   1)受動的呼吸訓練
      1;胸郭ROM訓練(肋骨捻転法)
      2;呼吸パターンの指導(腹式呼吸

  B体位ドレナージ
    1)治療体位(ドレナージ体位)
    2)気道内分泌移動を促すための手技
    3)咳嗽とhuffingまたは気管内吸引


3:自律的訓練
    意思の疎通が図れて、指示が入り、自律的に動ける方に対して行う訓練方法です。
    

 (1)嚥下体操
   @目的
      誤嚥は食事開始の一口目に起こりやすく、それを防止する目的で行う食前の準備体操です。
      前頸筋群、舌に関与する首を中心とした筋肉をリラックスさせます。

   A実施方法
      @         腹式呼吸+口すぼめ呼吸
      A B C     周囲筋のリラクゼーション
      D E F G    頬、舌、口唇の運動
      H         終了の深呼吸

        


 (2)ブラッシング(自律的なブラッシング)
    自律的にブラッシングを行うことは、口腔保清のみならず、口腔周囲諸筋及び手指等の総合的な
    賦活化につながります。

        


 (3)筋刺激訓練ー A (Vangede TB:能動的刺激法・抵抗法)
     摂食嚥下障害患者で自律的に下記の運動を行える患者を対象とします。
     摂食嚥下関連諸器官の刺激、賦活化を目的とします。

  A:自律的刺激法
   @口唇の運動
     1)口を開ける
     2)口を閉じる
     3)口唇突出 
     4)口角牽引
     5)吸てつ訓練

            


   A頬筋の運動
     1)頬を膨らませる。
     2)笑顔を作る。

            


   B舌の運動
     1)舌を細くして前方に突き出す。
     2)舌を左右の口角部に持ってくる。
     3)舌で上下口唇をなめる。
     4)舌で口蓋をなめる。

        


     補足:Masako法 (前舌保持嚥下法(Tongue-Hold Swallow:以下THS)
       舌筋の筋力トレーニングの一つです。
       嚥下咽頭期の嚥下圧生成源となる舌根部と咽頭後壁の接触不全に対し、咽頭後壁隆起を増大させる訓練法。
       THS は咽頭壁のみならず舌根部の後退運動を増大させる可能性が示唆されています。

        


   C開閉口筋の運動
     1)口を大きく開ける。
     2)上下歯牙を咬合させる(咬んで下さい、と指示します)
     3)下顎の前方運動指示。
     4)下顎の側方運動指示。


   D総合的自立訓練----話す、笑う、歌う 等
     本来は自然な状態で、話して笑って、時には歌う。これが一番だと思います。


 B:抵抗法
   @口唇の運動
     1)口唇閉鎖の運動
        第2指を上口唇の内側に入れて、外側に引っ張ります。
        そして患者に、上口唇に力を入れて内側に締め付けるように指示します。
        同様なことを下口唇に対しても実施します。

     2)口唇の上下的な運動
        上赤唇上に第2指を置いて、鼻の方に向かって押し上げます。
        そして患者に、それに抵抗して上唇を押し下げる様に指示します。
        同様なことを下口唇に対しても実施します。

     3)ボタン訓練
        適当な大きさのボタンを丈夫な糸でつなぎ、ボタンを口唇内部(口腔前庭部)に保持させて糸を引っ張り、
        飛び出さないようにそれに抵抗させます。
        ボタンの代わりにストロー、チューブなどを代用しても大丈夫です。

          


   A頬筋の運動
     1)頬の収縮運動
        指かスプーンを頬の内側に挿入して、内部から外側に引っ張ります。
        患者さんには頬を引き戻す様に指示します。
     2)頬の膨張運動
        掌もしくは指を頬の上に置き内側に圧迫します。
        そして患者さんに頬を膨らませる様に指示します。

        


   B舌の運動
     1)舌の前方運動
        スプーンを口角部に当てます。
        そして患者に舌尖部で押し出すように指示します。
        患者がこの動作を行えない場合には、スプーンで舌尖部を押して上げます。
        慣れてきたら、スプーンを上下口唇に当て、それを舌で押し返す様に指示します。

     2)舌の側方運動
        スプーンを舌側縁に沿って挿入して舌を圧迫し、患者にそれを押し返す様に指示します。

          


 (4)筋刺激訓練ー B (Vangede U:強調運動のの刺激、吸引、Blowing、含嗽)
      目的 数グループの筋肉機能の協調運動を刺激しようとする訓練。   
            吸引・嚥下パターンを改善し、ひいては咀嚼・言語発生パターンを刺激する事を目的とします。    
      適応:  摂食嚥下障害患者の中でも比較的機能が良い症例が対象となります。


   @吸う訓練
     1)効果
         閉口筋群及び舌筋を訓練し、それによって嚥下機能の改善を果たします。
     2)使用器材
         各種サイズの透明なプラスチックストロー、レモネード、水等を使用します。
     3)方法
         患者さんのの摂食困難の度合いに応じてチューブの太さを変えていきます。
         太目のチューブ → 細目のチューブ

        


   A吹く訓練(Blowing)
     1)効果
        口腔周囲内外の筋肉と呼吸を訓練します。
     2)使用器材
        笛、蝋燭、風船など
     3)方法
        1:鼻で息を吸い込み、口で吹き出す。
        2:蝋燭の火を吹き消す。
        3:シャボン玉を吹く。
         4:笛を吹く。 など

          


   B舌の訓練
      甘いものの小片を小スプーンの上に置き、患者さんに舌の先でなめ取るように指示します。

        


   C含嗽訓練
     1)目的
        口唇、頬、舌、軟口蓋の協調的な機能訓練。
        同時に口腔保清にも役立つ。
     2)適応
        自律的に含嗽が可能な患者を対象とする。
     3)器具
        水、含漱剤
     4)方法
        摂食後、もしくは決められた時間に施行。
        口唇、頬を使ったブクブクうがい。

        


 (5)間接的嚥下訓練 (空嚥下、嚥下の意識化、氷舐め)
   @嚥下の意識化 (Think Swallow)
      口腔内に食物を含んでいるとき、本来は無意識下に行われる嚥下を意識して行います。   
      嚥下を意識化し、集中して飲み込むことによって、嚥下のタイミングがずれた誤嚥に対して効果を現します。

   A空嚥下
      食物なしに嚥下動作を行うことです。
      これを複数回行うことを「複数回嚥下」といいます。
      これによって、咽頭に残留している食物をクリアできます。

   B咳そう訓練
      咳払い、咳は、喉頭侵入、もしくは誤嚥した食物を排除するために有効です。
      摂食中に咳払い・咳をし、さらに空嚥下を行います。
      これにより、誤嚥を減らし、肺炎の予防に役立ちます。

        


   C息こらえ嚥下(Pseudo-Supraglottic Swallow)
      食物を嚥下する前に息を吸って、一時的に息を止めます。
      それで嚥下を行い、直後に息を吐き出します。
      これにより声門嚥下圧が上昇し、誤嚥が起こりにくくなります。
      同時に、気管に侵入した食物喀出することができます。


 (7)理学療法ー2(体幹訓練、呼吸訓練)

   @頭部挙上訓練(シャキア・エクササイズ ) (shaker exercise)
         目的:喉頭の前上方運動を改善して、受動的にのどを開きやすくする。    
             舌骨挙上量の向上を促します。。

         方法:床に仰向けに寝る→足の指先が見える程度に頭をあげる(肩があがらないように)。
         回数:1、2を1日3回行います。

         


   Aプッシング・プリング訓練(Pushing exercise)/(Pulling exercise)
      押したり持ち上げたりといった上肢に力を入れる運動です。
      反射的に息こらえが起こることを利用して、軟口蓋 の挙上、声帯の内転(声門閉鎖力)を強化して誤嚥を防止
      することを目的とした訓練です 。


 上記の準備訓練、間接訓練を実施したら、その効果を再評価して下さい。
 その結果、機能の改善が認められたら、実際に食物を使った直接訓練へと進めます。

 詳細は、「再評価」、「直接訓練」へ



  参考資料
 

『摂食嚥下障害学 第2版 (標準言語聴覚障害学)  』 藤田 郁代、 椎名 英貴 医学書院 2021
『嚥下障害ポケットマニュアル 第4版』 聖隷嚥下チーム、藤島 一郎 医歯薬出版 2018
『摂食嚥下ビジュアルリハビリテーション』 稲川利光 学研メディカル秀潤社  2017

『嚥下障害のことがよくわかる本』  藤島一郎 講談社 2014

『嚥下障害ナーシング―フィジカルアセスメントから嚥下訓練へ』 鎌倉 やよい藤本 保志 他、医学書院 2000
『現代リハビリテーション医学』 千野直一 1999 金原出版 
『嚥下障害の臨床:リハビリテーションの考え方と実際 日本嚥下障害臨床研究会 医歯薬出版 1998
『ベッドサイドの神経の診かた』 田崎 義昭  南山堂
『摂食・嚥下リハビリテーション』  金子芳洋 千野直一 医歯薬出版 1998
『口から食べる―嚥下障害Q&A』 藤島 一郎  中央法規出版

『摂食・嚥下リハビリテーション』 才藤栄一
『臨床神経内科学 第3版』 平山 惠造 南山堂
『新臨床内科学 第6版』 高久史麿  尾形悦郎 医学書院
『CLINICAL REHABILITATION別冊 高次脳機能障害のリハビリテーション』 江藤文夫ほか 医歯薬出版 1995

「訓練法のまとめ(2014 版)」 日摂食嚥下リハ会誌 18(1):55?89, 2014
「Index of dysphagia: A tool for identifying deglutition problems」  Susan M. Fleming Dysphagia, Volume 1, Issue 4, pp 206-208



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