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1:感染症とは
(1)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa )
@緑膿菌
大腸菌や肺炎桿菌と同じくグラム陰性桿菌に分類されています。
緑膿菌が傷口に感染(創傷感染)したときに、しばしば緑色の膿が見られることから名付けられました。
典型的な日和見病原細菌の一つであり、健常者には無害である細菌です。
しかし、グラム陰性桿菌でありエンドトキシンを産生するため、何らかの原因で血液中に侵入し、菌血症や敗血症を
引き起こすと、エンドトキシンショックが誘発され、多臓器不全により死亡することがある。
緑膿菌は通常は弱毒菌で健常人の腸管に存在しています。
体外では、洗面所や蛇口周辺、浴室、トイレなどに生息しています。
弱毒菌ですが、一旦感染すると多剤薬剤耐性があり、治癒させるのが困難な細菌です。
G(−)桿菌
A緑膿菌と内毒素(エンドトキシン)
グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖です。
リポポリサッカライド(LPS:Lipopolysaccharide) とも呼ばれ、通称LPSと呼ばれています。
内毒素、菌体内毒素ともいいます。
菌体内毒素とは、細菌が破壊または溶解したときに出現してくる毒素です。
発熱、血糖低下など多くの活性を示し、エンドトキシンショックが誘発され、多臓器不全により死亡することが
あります。
特徴としては、高い耐熱性が挙げられます。
オートクレープ処理程度では完全に失活することはできません。
完全に失活させるためには250℃以上で30分以上の乾熱滅菌が必要です。
グラム陰性菌はどこにでも存在し、菌が死んでもエンドトキシンは残ります。

補足:外毒素
細菌がつくりだす毒素のなかで菌体外に分泌されるものの総称です。
主成分は蛋白質で、毒力が強く、生体細胞に選択的に作用して特有な中毒症状を引起します。
ボツリヌス菌、ガス壊疽菌、破傷風菌、ジフテリア菌、黄色ブドウ球菌などが代表的な外毒素産生菌です。
(2)緑膿菌感染症
緑膿菌はヒトに対しても病原性を持ちますが、健常者に感染しても発病させることは有りません。
ただし免疫力の低下した者に感染すると、日和見感染症のうちの1つである緑膿菌感染症を起こす。
元々、緑膿菌は消毒薬や抗菌薬に対する抵抗性が高い上に、ヒトが抗菌薬を使用したことにより薬剤に対する耐性を
獲得したものも多いため、緑膿菌感染症を発症すると治療が困難である。
このため緑膿菌は、日和見感染症や院内感染の原因菌として医学上重要視されている。
(3)緑膿菌と薬剤耐性機構
@セフェム系抗生剤への薬剤耐性
染色体上に存在するampC 遺伝子に依存して、セファロスポリナーゼ(AmpC)を産生し、アンピシリンなどの
ペニシリン系抗生物質やセファロリジン、セファロチン、セファゾリンなどの初期のセファロスポリン系抗生物質
に生来耐性を示simasu
。
Aマクロライド系・テトラサイクリン系抗生剤への薬剤耐性
臨床分離される株の大半が、修飾不活化酵素の産生や薬剤排出機構によりエリスロマイシン、クリンダマイシン、
ミノサイクリンなどにも耐性を示します。
Bアミノ配糖体系抗生物質への薬剤耐性
プラスミド依存性にゲンタミシンやアミカシンなどのアミノ配糖体系抗生物質の修飾不活化酵素を産生し、これらに
耐性を示すものがあります。
Cニューキノロン系抗菌薬への薬剤耐性
染色体上に存在するDNA ジャイレースやトポイソメラーゼの遺伝子が変異し、シプロフロキサシンや
レボフロキサシンなどのフルオロキノロン系抗菌薬に耐性を獲得した株も多くなっています。
D抗菌薬や消毒薬に対する薬剤耐性
大腸菌などの他の細菌に比べ、緑膿菌では抗菌薬が細菌の膜を透過し菌体内に侵入する効率が低いため、
抗菌薬が効きにくいと言われて来ました。
菌体内へ侵入した抗菌薬を菌対外へ排出する機構(能動排出ポンプ、active efflux pomp)などの関与により、
各種の抗菌薬や消毒薬に対し、より耐性を獲得しやすいと言われています。
2:感染様式
(1)感染経路
水回り周辺に緑膿菌は生息しています。
水や人の手を介して感染が広がります。
(2)内因性感染と外因性感染
@内因性感染症
癌などの悪性消耗性疾患などの末期には、腸管内などに棲息する菌が、腸管の膜を通過し血液中に侵入することで、
しばしば菌血症や敗血症などを続発します。
このような事態は、患者の感染防御能力の低下に伴うものであり、防ぐことが困難な場合も多々あります。
また、高齢者の慢性呼吸器疾患患者では、口腔や気管内の分泌粘液中に緑膿菌が定着している事も多く、肺炎などが
重症化した際に増殖し、2次的に敗血症やエンドトキシンショックなどを続発する事があります。
さらに、骨の露出するような重症かつ広範囲の褥創から、菌血症などに発展する場合もあります。
A外因性感染症
緑膿菌は、環境中に広く分布する細菌であるため、輸液用の製剤や点滴回路が汚染された場合、人為的に血中に菌
が送り込まれる事態も発生し得ます。
同時多発的に、複数の患者から緑膿菌が分離される場合には、そのような事態も想定し緊急に原因の解明や対策を
講じる必要があります。

『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』 から引用
(*)補足
@日和見感染
病原性が弱い病原体が、抵抗力が低下しているヒトに感染症を起こすことです。
例---カンジダ症 緑膿菌
A敗血症
感染症によって、病原性微生物が血液中に増殖した状態です。
細菌・ウイルス・真菌がの全身に波及したものです。
ヒトの免疫反応の調節不能による致死的な臓器障害で、非常にに重篤な状態と言えます。
無治療ではショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全などから死に至ります。
3:疫学
@発症しやすい人
免疫力の低下した者(易感染宿主:Compromized Host)に感染すると、日和見感染症として菌血症、敗血症を
起こします。
易感染宿主:Compromized Host
糖尿病、免疫不全の人
免疫抑制剤を使用している患者、術後の患者
癌の末期患者 など
A感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約500カ所の基幹定点医療機関)は月毎に保健所に
届け出なければなりません。
4:緑膿菌と感染症
(1)緑膿菌感染症
@緑膿菌感染症
緑膿菌は通常は弱毒菌で健常人の腸管に存在しています。
しかし、免疫不全や免疫機能低下患者では他の感染症に対する抗菌薬の投与により菌交代現象を起こし体内で
緑膿菌が増殖、各臓器を障害し呼吸器感染症や敗血症を引き起こします。
A症状
緑膿菌に感染すると、次のような症状を引き起こすといわれています。
呼吸器系の疾患。
尿路の感染症。
菌血症(血液中で細菌が生殖している状態)。
敗血症(化膿した傷口から細菌が血管に侵入し、様々な症状を引き起こす感染症) など。
特に呼吸器系に感染すると症状は重く、毒素によって肺組織が破壊されてしまいます。
また、抵抗力が弱まる傷口などからも侵入しやすく、手術後に感染するケースもあります。
(2)緑膿菌の耐性化
緑膿菌は本来は病原性を発揮することがほぼない弱毒菌です。
しかし、抗菌薬の使用により薬剤の効かない耐性菌へ変化することがあります。
複数の薬材が効かない緑膿菌を多剤耐性緑膿菌(MDRP:multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa)と
言います。
多剤耐性だからといって感染力が強いと言うことではありません。
効果のある抗菌薬が限られるため治療に難渋することからMDRPに警戒が必要です。
5:診断
(1)細菌培養
細菌培養検査で菌の分離・同定を行います。
(2)薬剤感受性試験
感染症に対する抗菌薬の有効性を判断する試験です。
まず患者から採取した病変に潜んでいる原因菌を分離して培養します。
その培養した原因菌を使って数種類の抗菌薬を試験し、それぞれの有効性を判断します。

6:治療
(1)治療の基本
@感染症状が無い場合
緑膿菌は、口腔や腸管内にも棲息する菌であるため、喀痰や便などから少量菌が分離された場合でも、
呼吸器感染症などの感染症症状を呈していない場合や感染症の主起因菌となっていない場合には、除菌の目的
で積極的な抗菌薬投与は行いません。
A感染症状が有る場合
菌量が多く、しかも、喀痰中などの好中球による貪食像が見られ、気管支炎や肺炎などの主起因菌と考えられる
場合や、血液、腹水など無菌的であるべき臨床材料から菌が分離された場合には、遅滞無く、有効性が期待できる
抗菌薬による化学療法を実施します。
7:予防
(1)環境の整備
緑膿菌は、流し台などの回りからしばしば分離される常在菌です。
この菌が、医療施設内の環境を広範に汚染しないよう、日常的に病室病棟の清掃や流し台、入浴施設などの清潔や
消毒に心掛ける必要が有ります。
(2)手指消毒の徹底
手を介して感染が拡大するので手指衛生の徹底、体液を取り扱う場合は個人防護用具の使用を徹底します。
アルコール消毒薬は効果があります。
易感染状態の患者さんは自分の身を守るために手指衛生とマスク着用による対策も必要です。
医療従事者も患者さんにうつす事がないように標準予防策+接触感染対策を実施する事が必須です。
(3)消毒薬
エタノールなどで消毒が可能です。
ベンザルコニウム塩化物(逆性石けん)は効かないことがあります。
クロルヘキシジンは無効のみならずその中で増殖するので、使用しないようにします。

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