結核 (Tb:tuberculosis) |
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1:結核について
(1)結核菌
グラム陽性桿菌である抗酸菌の一種です。
細長の桿菌で、大きさ2-4 x 0.3-0.6 μmの好気性桿菌です。
ミコール酸と呼ばれる特有の脂質に富んだ細胞壁を持つため消毒薬や乾燥に対して高い抵抗性を有します。
紫外線に弱いため直射日光に曝すと数時間で死んでしまいます。
100℃の煮沸では5分以上、60℃の煮沸で20〜30分以上で死滅します。。
増殖に時間がかかり、培養には4〜8週間かかります。

(2)結核とは
結核菌 (Mycobacterium tuberculosis) により引き起こされる感染症です。
好発部位は肺ですが、全身の臓器・器官に感染します。
顕著な症状を呈している部位名の前後に「結核」を付け加えるなどした呼び方により細分化されています。
(3)結核菌が起こす主な疾患
@肺結核
排菌があれば周囲への感染を引き起こすため、隔離入院の対象となります。
A肺外結核
結核性リンパ節炎
腸結核
口腔結核
脊椎カリエス
結核性髄膜炎
B粟粒結核
肺結核の病巣から結核菌が血液の流れによって運ばれ、いろいろな臓器に多数の粟粒大の結核結節が
形成された病態をいいます。
2:感染様式
(1)感染経路
@空気感染、飛沫核感染
結核の感染経路はほとんど経気道性です。
結核菌は、人が咳をすることで空気中に撒き散らされ、他の人が吸い込むことによって感染します。
すなわち、空気感染、飛沫核感染です。
手を握る、同じ食器を使う、などで感染することはありません。
A接触感染
口腔結核などの感染経路としては、初感染病巣からの二次感染(管内性・血行性・リンパ行性 )がほとんどで、
初感染例の報告は稀です。
B再帰感染
中高年者では、糖尿病、白血病等血液悪性疾患や、術後、副腎皮質ステロイド剤投与、抗癌剤投与、
腎透析といった免疫能の低下,全身状態の悪化等,抵抗力が減弱した際に,古い病巣内に生き残っていた
結核菌が,再び増殖して発病することがあります。
(2)潜伏期間
人が結核菌を吸い込んだ場合、10〜15%の人はその後1、2年のうちに発症します。
それ以外の人の場合、菌は冬眠状態となり、体内に留まることになります。
発症しなかった場合でも、加齢などで身体の抵抗力が落ちると、潜んでいた結核菌が活動を始め、結核を
発症します。
発症するのは、菌が体内に留まったケースの10〜15%程度と言われています。
3:結核の原因と病態
(1)結核の原因
原因は結核菌の感染です。
感染は空気感染で、結核菌は様々な器官において細胞内寄生を行います。
これに対し免疫システムは、結核菌を宿主細胞ごと排除しようとします。
そのため、広範に組織が破壊され、放置すれば重篤な症状を起こして高い頻度で死に至ります。
肺結核における激しい肺出血とそれによる喀血、それによって起こる窒息死がこうした病態を象徴しています。
(2)結果菌の病原性
感染者の大半は症状を発症する場合は少なく、無症候性、潜伏感染が一般的です。
但し、潜伏感染の約10分の1が最終的に症状を発症し、治療を行わない場合、発病者の約半分が死亡します。
結核菌がこのように最も病原力の強い細菌の一つである原因は、次の事に起因します。
1;感染力が強く肺から肺へ空気感染する。
2;免疫細胞のマクロファージ内で繁殖できる。
3;現存するBCGワクチンは地域によって効果がとても低い.
免疫細胞であるマクロファージ(食細胞)の中で繁殖できるという、 極めて特殊な機構をもっています。
この機構は結核菌がマクロファージのリソソームとファゴソームの融合を阻害する能力を持つことによります。
大半の正常な免疫能力をもつ健常者では、T細胞の助けを借りてマクロファージごと細菌を殺して封じ込めます。
そのため無症状か軽い症状で済むが、免疫能力の劣った人間には重い症状が発症するのです。

4:疫学
(1)結核と感染症法
感染症法の二類感染症であり、第二種指定医療機関や結核指定医療機関で対処しなければなりません。
結核予防法(1951年-昭和26年制定)は廃止され、2007年(平成19年)に感染症法に統合されました。。
(2)感染者数
2016年時点で、毎年18,000人前後の発症数があります。
このうち2,000人前後の死亡者数を認めます。

4:各種の結核
(1)肺結核
@肺結核とは
肺結核は呼吸器疾患で、日本における感染者の80%は肺への感染です。
A症状
当初は全身倦怠感、食欲不振、体重減少、37℃前後の微熱が長期間にわたって続きます。
就寝中に大量の汗をかく等、非特異的であり、咳嗽(せき)があります。
痰は伴うことも伴わないこともあり、また血痰を伴うこともありますが、進行にしたがって顕在化します。
抗生物質による治療法が確立する以前は不治の病と呼ばれていました。
B検査診断
ツベルクリン反応検査
喀痰塗抹検査(チール・ニールセン染色)
胸部X腺検査 など
Wikipedia 肺結核
C治療
かつては、抗菌剤のストレプトマイシン単剤の投与で効果がありました。
現在は薬剤耐性獲得の危険があるため、単剤での治療は行いません。
イソニアジド (INH)、リファンピシン (RFP)、ピラジナミド (PZA)、エタンブトール (EB)、
(またはストレプトマイシン (SM))の4剤併用薬物療法を行うべきであると考えられています。
結核菌の中で、イソニアジドおよびリファンピシンの2剤に耐性をもつ菌は多剤耐性結核菌」と呼ばれ、治療に
難渋することがあります。
一度発症した場合は、6〜9ヶ月の投薬療法が一般的です。
治療を正確に完了した場合、再発率は5%未満となります。
D結核感染者の管理
肺結核は空気感染が起こるため、排菌のある結核患者は感染症予防法により、負圧設備のある結核病棟への
入院が義務づけられています。
医療従事者はN95マスク(FFP3マスク)を装着する必要があります。
喀痰中の排菌のない(ガフキー0号)患者は、強制入院の対象ではありません。
(2)結核性リンパ節炎
@結核性リンパ節炎とは
結核性リンパ節炎は、結核菌または関連細菌の感染によって引き起こされる、症例性壊死を伴うリンパ節の
慢性の特定の肉芽腫性炎症です。
肺の外に現れる結核感染の最も一般的な形態です。
A症状
リンパ節腫脹(リンパ節炎)に加えて、軽度の発熱や、食欲不振、体重を減少などがあります。
B治療
抗結核薬による治療は通常1年位続きます。
Wikipedia 結核性リンパ節炎
(3)腸結核
@腸結核とは
結核菌によって小腸や大腸に炎症が生じる病気です。
肺結核に合併して起きた場合を続発性腸結核といい、肺に病巣がみられない場合を原発性腸結核と呼びます。
A原因
結核菌を含んだ痰を飲み込んで腸に感染する例が多いとされます。
B症状
慢性的な腹痛、腹部膨満感、食欲不振、体重減少、下痢などです。
血便(下血)、吐き気・嘔吐、腹部膨満感、微熱を伴うこともあります。
C鑑別診断
典型的には回盲部に起こり、クローン病との鑑別が問題となります。
大腸結核の場合は潰瘍性大腸炎との鑑別が重要です。
(4)口腔結核
詳細は、「口腔結核」 へ
(5)結核性髄膜炎
@結核性髄膜炎とは
結核によって引き起こされる髄膜炎です。
髄膜とは脳および脊髄を覆う保護膜の事です。
Wikipedeia 髄膜
A原因
結核の初期感染時、あるいは慢性結核の経過中に身体中のどこかの潜在性結核病変がたまたま再燃し、
脳実質あるいは髄膜に粟粒結核病巣が作られて発症します。
B症状
無気力、過敏、食欲不振、発熱、頭痛、嘔吐、痙攣、昏睡が主な症状です。
多部位の結核菌感染の症状を認めることがあります。
項部硬直、脳神経麻痺症状を認めることがあります。
C検査所見
髄液は黄色くて、cell 100-500(単核球優位)、高蛋白、低グルコースを示します。
細菌性髄膜炎と比べて明らかに弱い所見を示します。
髄液の塗抹検査は通常陰性で、培養も最大25%の症例で陰性です。
髄液PCRは感度が高い。
D治療法
肺結核症と同様であり、12ヶ月の投薬を行います。
イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドは髄液移行性が良好です。
エタンブトール、ストレプトマイシンは基本的に髄液移行性は不良ですが、髄膜の炎症が認められる場合には
髄液中に移行します。
デキサメタゾンは細菌性のようなエビデンスはないが、用いることがある。
5:検査・診断
(1)ツベルクリン反応検査
ツベルクリン溶液皮内投与の48時間後の接種部位の発赤の直径を測定して、結核感染を診断する方法です。
ヒト型結核菌の培養液から分離精製した物質(数種類のタンパク質)で、結核を発病することはありません。
発赤の長径が10mm未満ならば陰性、10mm以上ならば陽性と判定しています。
陰性の場合は結核にたいする免疫を持っていないと考えられます。
陽性は、結核菌に感染した場合やBCG接種により結核に対する免疫がすでに成立していると考えられます。

(2)抗酸菌塗抹検査(ガフキー号数)
抗酸菌を特異的に染色する抗酸菌染色を行い、顕微鏡で菌体を確認します。
塗抹検査は抗酸菌を検出するうえで最も簡便で迅速な方法です。
ガフキー号数とは、染色した標本を500倍拡大による視野で鏡検した場合の抗酸菌の有無と量を示したものです。
喀痰中の排菌のない(ガフキー0号)患者は、強制入院の対象になりません。

6:治療
(1)化学療法
治療は化学療法が基本です。
@標準的な化学療法=4剤併用療法
最初の2カ月はイソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、スト レプトマイシン(SM)
またはエタンブトール(EB)の4剤で治療します。
その後の4カ月間はINH +RFP の2剤、またはINH +RFP +EBの3剤で治療します。
A副作用
第8脳神経障害を起こすことがあります。
これが重症化すると難聴の原因となります。
7:予防
(1)ワクチン接種
BCG(BCG:Bacille de Calmette et Guerin、カルメット・ゲラン桿菌)の接種を行います。
結核予防、結核菌と類縁のらい菌が原因となるハンセン病に対しても、20-80%の予防効果を示します。
この他の抗酸菌感染症の予防にも有効な場合があります。
@BCGワクチンとは
BCGは、長期間培養を繰り返すうちにヒトに対する毒性が失われて抗原性だけが残った結核菌です。
BCGワクチン生ワクチンであり、BCGを人為的にヒトに接種して感染させることで、結核に罹患することなく
結核菌に対する免疫を獲得させることを目的としたものです。
ABCGワクチンワクチンの特徴
弱毒生菌ワクチン(生ワクチン)には、他のタイプのワクチン(死菌ワクチンや成分ワクチン)とは異なり、
弱毒性の微生物が体内に定着し、
ウイルスや細胞内寄生体が実際に細胞内に感染を起こし得ます。
このため、次の様な効果が期待できます。
1)効果が半永久的に持続する。
2)死菌ワクチンでは誘導できない細胞性免疫が誘導可能である。
結核菌は細胞内寄生体であり、特に活性化マクロファージによる細胞性免疫が感染防御に重要である
ことから、死菌ワクチンや成分ワクチンでは十分な免疫が得られないため、弱毒生菌ワクチンが必要です。
3)使用菌株の差違、凍結乾燥に対する耐性の差は、最終的に獲得する免疫能の差となって現れます。
(2)感染経路の遮断
@ 飛沫の発生を抑制
結核または結核疑い患者は、同意を得て、サージカルマスクを着用させます。
患者へのN95マスクの着用は不適であるとされています。
詳細は、「マスク」、「マスクの選択」 へ
A空気中の浮遊飛沫核(結核菌)を除去
一般病棟の個室の場合、ヘパフィルターの設置、あるいは、一定時間毎に窓を開けるなど換気を行います。
独立空調でない場合には空調を止める必要が有ります。
B肺への吸入を防御(高性能マスク:N95マスク)
医療従事者および面会者は、結核または結核疑い患者の病室に入室する際、N95マスクを着用します。
この際、N95マスクは、正しく着用し、フィットチェックで確認します。
結核患者あるいは結核が否定でない患者に対して、感染曝露の高リスクである処置(気管支鏡検査、気管内送管、
吸引、膿瘍の潅流、剖検、喀痰および咳を誘発させる吸入療法など)を行う際は、医療従事者は必ずN95マスクを
着用する必要があります。
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結核と口腔ケア |
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結核患者の口腔ケア
排菌があれば周囲への感染を引き起こすため、隔離入院の対象となります。
従って、多くの場合、一般人が結核患者の口腔ケアを行う事はありません。
しかし、結核が否定出来ない患者に対して、感染曝露の高リスクである処置(吸引、喀痰および咳を誘発させる吸入療法など)を行う際は、介助者は必ずN95マスクを着用する必要があります。
N95マスクだけではなく、ガウン、グローブ、ゴーグル、キャップ、などの個人的感染防護具の着用も必要です。

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参考資料 |
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結核診療ガイド
医学のあゆみ 結核と非結核性抗酸菌症Up to Date――診断,治療,感染対策,発病予防 2022年 280巻6号
なぜ感染症が人類最大の敵なのか? (ベスト新書)
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