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溶連菌感染症について

    

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溶連菌感染症 (Streptococcal infection)
  1:溶連菌感染症
 (1)溶連菌    
  @溶連菌とは
     溶血性連鎖球菌のことです。
     連鎖という名前の通り、鎖がつながるようにして出来ているのが特徴です。    
     レンサ球菌属のうち特に感染症を起こす頻度が高く、一般によく知られているのは化膿レンサ球菌です。

      グラム陽性球菌  G(+)coccus  Wikipediaから引用


 (2)溶連菌感染症
     レンサ球菌属(Streptococcus, 複数形-cocci)によって惹き起こされる感染症を指します。

     ヒトに病原性を有するものは、A群、B群、C群、Gなどで、溶連菌感染症の90%以上がAによるものです。
     一般には、A群溶血性連鎖球菌A群β溶血性連鎖球菌)による感染症を溶連菌感染症としています。

     ランスフィールド分類(Lancefield grouping)
       細菌の細胞壁に見られる多糖体の抗原に対する血清反応に基づいて、カタラーゼ陰性、コアグラーゼ陰性の
       細菌を分類する方法です。
       ラクトコッカス属ストレプトコッカス属を含むストレプトコッカス科の様々な属を分類するために
       使用されています。


2:感染様式
 (1)感染経路
  @飛沫感染
     飛沫による感染です。

  A接触感染
     手指からの接触感染や、菌に汚染された食品の摂取によって感染します。

 (2)潜伏期間
     2〜5日間程度です。


3:疫学
  @好発年齢
     3〜14歳の小児に好発します。


4:症状      
   溶連菌感染症には急性感染症と続発症があります。  

  @急性感染症
     上気道と皮膚・軟部組織の感染症が多く認められます。 
     咽頭炎や白苔を伴う扁桃炎、真皮の丹毒、猩紅熱などが認められます。

      口蓋扁桃の発赤・腫脹と白苔の付着 (H15年 第97回医師国家試験より )


  A続発症
     先行感染から数週間後に発生し、急性糸球体腎炎、リウマチ熱などを引き起こします。
     まれに劇症型A群レンサ球菌感染症になり重篤となる.      

     
     『病気がみえる vol.6  免疫・膠原病・感染症』 から引用


5:各種の臨床病態
 (1)急性咽頭炎・急性扁桃炎
  @概要
     年長小児から成人に発症する、一般的な溶連菌急性感染症です。
     
  A疫学
     A群β溶連菌(Streptococcus pyogenes)による急性咽頭炎は、小児の咽頭炎の15〜30%、成人の5〜10%を
     占めます。

  B主症状
     発熱・咽頭痛で、その他、頭痛・腹痛・嘔気・鼻閉などを伴うことも少なくありません。
     しかし、や鼻汁などの気道症状には乏しいとされています。

     咽頭は著しく発赤し、口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)は腫脹して黄白色の滲出物が付着することが多くあります。
     所属リンパ節である前頚部リンパ節が圧痛を伴って腫脹することが多く認められます。

     乳幼児では典型的な咽頭扁桃炎の症状とならずに、発熱が軽度で持続したり、全身のリンパ節の腫脹が見られたり、
     鼻汁を伴う場合も見られます。

     

  C診断
     問診において、次の症状が揃えば容易に診断出来ます。
     38度より高い発熱、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、扁桃の白苔や浸出液、せき(咳嗽)を欠く、がすべてそろえば、
     A群β溶連菌の可能性が75%程度になります。

  D治療
     第一選択はペニシリン系抗菌薬の投与であり、通常は内服治療が可能です。
     咽頭痛などのために内服が困難な場合、抗菌薬の筋注または点滴静注を行います。

     ペニシリンアレルギーのある患者にのみ、マクロライド系(クラリスロマイシン)の適応があります。
     リウマチ熱(心炎、多関節炎など)の予防のため、計10日間の服用が必要です。


 (2)伝染性膿痂疹
  @概要
     一般的にとびひとして知られています。
     伝染性膿痂疹の起炎菌はそのほとんどが黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ですが、まれに溶連菌によるもの
     が報告されています。

     しかし、複数回培養により菌を確認した報告は少なく、ほとんどが単回培養による報告です。
     このため単に皮膚付着菌をみているだけの報告も一部混ざっていると考えられます。

  A症状
     黄色ブドウ球菌によるものは周囲に紅暈(こううん;皮膚が部分的に充血して赤く見えること)を伴う黄色い
     膿(膿痂)が皮膚にできます。
     そこを掻破した爪によって皮膚の他部位に細菌が播種され、播種された先にまた膿痂を形成します。
     しかし、黄色ブドウ球菌によるものでも紅暈を伴わなかったり、膿が黄色でないものもあります。

     発熱は伴わないことが多く、一般的には全身的症状はありません。
     ただし、アトピー性皮膚炎の患児や水痘の経過中に発症した場合などには重症化する場合があり、注意が必要です。

       

  B治療
     ペニシリン系抗菌薬の投与が有効です。


 (3)丹毒
  @概要
     真皮の炎症で、顔面や下肢などに急速に広がる紅斑(境界明瞭で疼痛伴う)がみられます。

  A疫学
     顔面に好発します。
     下肢の丹毒はまれです。
     再発が多いのも特徴です。   
     リンパ液の循環障害により、栄養分が滞るため細菌が常に感染しやすい状態になっていることが一因とされています。
     リンパ循環障害のある患者では体幹などにも認められます。

  B症状
     高熱(3940℃)、悪寒などを伴います。
     表皮基底層および真皮浅層が、病変の主座です。
     
     疼痛を伴うこともあるが、比較的少ない様です。
     人畜共通の病気でもあり発熱・頭痛など全身症状を伴うこともあります。
     また、治癒したと思っても再発再燃をおこす場合があり、それを習慣性丹毒といます。

         H30年 第110回医師国家試験より


 (4)猩紅熱(Scarlet fever)
  @概要
     咽頭炎・扁桃炎+全身性の発疹が猩紅熱の特徴的所見です。

     
     『病気がみえる vol.6  免疫・膠原病・感染症』 から引用


  A疫学
     幼児、学童に好発します。  

  B症状
     咽頭炎・扁桃炎で発症します。
     全身に広がる発赤、口囲蒼白、イチゴ舌  
     近年は軽症が多く、典型的な猩紅熱はまれです。

         


  C治療
     A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)として診断・治療を行います。  
     続発症予防のため、10日間のペニシリン系薬投与が必要です。


 (5)リウマチ熱(RF:Rheumatic fever)
  @概要
     A群溶連菌に感染して後1〜3週間に生じる全身性の非化膿性疾患の一つです。
     心炎、多関節炎、発疹(輪状紅斑)、皮下結節、不随意運動が主症状です。
     膠原病の関節リウマチとはまったく異なる疾患です。

  A疫学
     心臓では弁膜、心内外膜、心筋が好発部位です。
     5〜15歳が好発年齢です。

  B症状
     主症状として心内外膜、心筋の全ての層が炎症を起こします。
     関節炎は移動性・多発性で疼痛発赤腫脹圧痛を生じます。
     小舞踏病(四肢、体幹、顔筋に起こる不随意運動)や無痛性の皮下小結節を小児において多く発症し、体幹・四肢近位
     の皮膚に移動性の輪状紅斑も見られます。

     共通症状としては発熱前胸痛腹痛頭痛倦怠感食欲不振などを起こします。

  C治療
     ペニシリン投が第一選択です。
     副腎皮質ステロイド剤、若しくはサリチル酸剤(低用量アスピリン)の投与も行われます。
     再発防止には長期のペニシリン投与が必要です。


 (6)劇症型A群レンサ球菌感染症
  @概様
     軟部組織の壊死性炎症や多臓器不全、ショックを伴う急速進行性・全身性の重症感染症です。

  A疫学
     50歳以降の中高年、易感染性宿主に発症します。

  B予後
     予後は不良です。
     早期の治療を開始する必要があります。

     
     『病気がみえる vol.6  免疫・膠原病・感染症』 から引用


 (7)急性糸球体腎炎(Acute glomerulonephritis)
  @概要
     菌体成分または菌が産生する抗原と、患者が産生する抗体とが結合した免疫複合体が、糸球体に沈着することが原因
     とされます。
     溶連菌による呼吸器感染からは1 - 2週間後、皮膚感染からは3 - 6週間後に発症することがあります。


  B3大症状(trias)
     血尿、浮腫、高血圧が、3大症状です。

  C治療
     水分および塩分制限、安静を行い、高血圧が著しいときにはカルシウム受容体拮抗薬などの降圧薬を用いる。
     慢性化することはまれで予後は良好。


5:診断
   溶連菌の検査方法には、迅速検査、培養検査、抗体検査の3つの方法があります。
   これらの検査結果と症状を組み合わせて総合的に診断します。

 (1)迅速検査
     喉をこすって溶連菌がいるかどうか、菌の蛋白質との反応から診断する方法です。
     院内で綿棒で喉をぬぐってすぐにわかる検査です

       


 (2)培養検査
     喉の擦過物を培養し、菌がいるかどうかを目で確認する方法です。
     専門の検査会社に提出するため、時間がかかります。


 (3)抗体検査
     血液の抗体の上昇があるかどうかを確認する方法です。
     専門の検査会社に提出するため、時間がかかります。

     抗体が上昇するには、早くても感染から1週間後あたりであり、通常は2週間程度と言われています。
     そのため、急性期の診断にはあまり有用ではありません。


6:治療
 (1)治療
  @第一選択
     ペニシリン系の抗生物質(サワシリン、ワイドシリン、パセトシンなど)を使用します。
     
  Aペニシリン系の抗生物質にアレルギーがある場合
     エリスロマイシン(エリスロシンなど)
     クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッドなど)を内服します。

     また、セフェム系の抗生剤(メイアクト、フロモックスなど)などを使用することもあります。

  Bリウマチ熱、急性糸球体腎炎など、非化膿性の合併症予防のための治療
     少なくともペニシリン系であれば10日間、セフェム系であれば7日間は確実に内服することが必要です。
   

 (2)治療後の対応
     溶連菌感染症は適切な抗生剤で加療した場合、速やかに感染力は失せていきます。
     そのため、解熱後1日たてば登校や職場にいってよいとされています。


7:予防
   感染経路は、飛沫感染、接触感染です。
   これらの経路を断ち切ることで予防出来ます。


溶連菌感染症と口腔ケア
 
舌がイチゴのように赤くなるイチゴ舌という特徴的な症状がみられます。


参考資料 
 

  『病気がみえる vol.6  免疫・膠原病・感染症』  


  『全ての病気は「口の中」から!』


  『マンガでわかる感染症のしくみ事典』


  絵でわかる感染症 with もやしもん (KS絵でわかるシリーズ)


  『感染症 ウイルス・細菌との闘い』  (別冊日経サイエンス238)



  『戸田新細菌学第34版』 南山堂 2013


 『標準微生物学 第14版 (Standard Textbook)』  医学書院 2021



「厚労省感染症情報」 厚労省

  22-3-26



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