性行為感染症 (STD:Sexually Transmitted Diseases or STI:Sexually Transmitted Infections) |
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1:性行為感染症
(1)性行為感染症とは
以前は、梅毒、淋病、軟性下疳、鼠径リンパ肉芽腫の4種類の病気を性病と呼んでいましたが、現在では
多種多様の感染症が存在しています。
性病は、現在では性感染症、または性行為感染症と表現します。
膣性交、肛門性交、口腔性交を含む性的接触によって感染する感染症です。
ほとんどの性感染症は感染初期に症状を示しません。
そのため他の人へ感染させやすい病気です。
症状と徴候として膣やペニスの分泌物、性器やその周辺に生じる潰瘍、下腹部痛などが含まれます。
妊娠や出産に伴う感染では新生児の予後不良となり得ます。
また、不妊の原因となることもあります。
2:性行為感染症とその原因となる微生物
(1)寄生虫
@ケジラミ症(ケジラミの感染)---痒みと吸血跡が特徴です。

A疥癬(ヒゼンダニの感染)---痒みと線状の跡が特徴です。
Wikipedia ヒゼンダニ
(2)原虫
@トリコモナス症(膣トリコモナス)---性器の痛みと分泌物があります。
Wikipedia トリコモナス
(3)真菌
@カンジダ症(膣カンジダ症)---性器の痒みや分泌物。
(4)細菌
@梅毒(トレポネマ・パリダムの感染)---次第に全身症状が出現します。

Aクラミジア感染症(クラミジア・トラコマチスの感染)
主に性器の痒みや分泌物があります。
わが国で最も多い性感染症です。
男性では尿道炎が最も多く、排尿痛、 尿道不快感、そう痒感などの自覚症状がでます。
淋菌性尿道炎に比べて潜伏期間は長く、2〜3 週間とされたいます。
女性では子宮頸管炎、骨盤内付属器炎(PID)、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)、不妊などを起こしますが、
自覚症状の乏しい場合が多いとされています。
Wikipedia クラミジアより
B淋病(淋菌の感染)
咽頭の場合は咽頭炎、性器の場合は、淋菌性尿道炎(男性のみ)、子宮頚管炎(女性のみ)を起こします。
Wikipedia 淋菌
Cマイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitaliumの感染)---主に性器の痒みや分泌物があります。
Dマイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominisの感染)
主に性器の痒みや分泌物があります。
骨盤腹膜炎、細菌性膣炎や、男性の不妊症に関連します。

Eウレアプラズマ感染症---細菌性膣炎や骨盤腹膜炎の一因となる可能性があります。
F軟性下疳( Haemophilus ducreyの感染)
日本では少なく、性器の痛みや出血を起こします。
そののち鼠径リンパ節が痛みを伴って腫脹(黄根)化膿し、自潰するようになります。

G鼠径部肉芽腫(Klebsiella granulomatisの感染)---痛みのない潰瘍。
クラミジア・トラコマチス Chlamydia trachomatisによって引き起こされる性感染症です。
鼠径部(そけいぶ)のリンパ節に痛みを伴う腫れが生じ、ときに直腸に感染することもあります。
鼠径リンパ肉芽腫の初発症状は、小さな、ほとんど気づかれることのない水疱です。
これはすぐに治癒しますが、その後圧痛を伴うリンパ節の腫れが現れます。
血液検査によって診断を確定します。
抗菌薬を3週間服用することで感染は治癒しますが、リンパ節の腫れは残ることがあります。
(5)ウイルス
@ウイルス性肝炎
B型肝炎ウイルス---唾液、性器分泌液から感染し、肝機能に異常を示します。
C型肝炎---稀に性交感染します。、
D型肝炎(B型肝炎との共感染のみ)---感染経路ははっきりしないが、性交感染を含む可能性があります。
A型肝炎とE型肝炎は糞口感染によって伝播します。
A後天性免疫不全症候群(AIDS) (HIV:ヒト免疫不全ウイルス)
性器分泌液、精液、乳、血液から感染しますが、唾液からの感染は無いとされています。
進行すると免疫不全に陥ります。
B単純ヘルペス(単純ヘルペスウイルス、HSV-1、HSV-2)
皮膚や粘膜から、疱疹の有無によらず感染する可能性があります。
主に性器の水膨れと潰瘍、女性ではそれによる痛みが特徴です。
Cヒトパピローマウイルス(HPV)感染症
皮膚や粘膜との接触から感染します。
高リスク型を除くHPVの一部は、イボの尖圭コンジローマの病原体です。
子宮頸癌のほとんどが高リスク型HPVの感染によるものであり、さらに一部の肛門癌、陰茎癌、外陰癌の
原因でもあります。
D伝染性軟属腫(伝染性軟属腫ウイルス)
肌に直接触れるなどの濃厚接触によります。
水イボは、主に子どもがかかるウイルスによる皮膚感染症で、90%以上は1年以内に自然治癒します。
3:疫学
(1)年代別罹患者数
近年、STD の罹患率は横ばいですが、梅毒は急増しています。
20代女性のうち20人に1人がクラミジアに感染していて、そのうち症状があるのは5-30%のみということです。

(2)梅毒の新規報告数
梅毒の新規報告数は大阪府、東京都、福岡県、愛知県、岡山県、広島県などのSNSの利用率が高い都府県で、
多い傾向があったという報告もあります。
梅毒は外国人からもたらされたと主張する人もいますが、在留外国人数、外国人宿泊者数との相関は
0.50、0.23で明らかな相関はなかったとされています。
4:症状
(1)共通する症状
性感染症の症状は非常に多彩ですが、最初の症状は微生物が体内に侵入した部位に現れるのが通常です。
例えば、陰部や口にびらんや潰瘍が生じることがあります。
陰茎や腟から分泌物が生じたり、排尿時に痛みが出ることもあります。
(2)不妊
女性では、腟から侵入した微生物が他の生殖器に感染することがあります。
そうした微生物は子宮頸部(子宮の下部)に感染して子宮に入り、卵管やときには卵巣にまで達します。
子宮や卵管に損傷が生じると、不妊症や異所性(子宮外)妊娠につながることがあります。
感染が腹腔内を覆う膜(腹膜)に広がり、腹膜炎を引き起こすこともあります。
子宮、卵管、卵巣、腹膜の感染症は、骨盤内炎症性疾患と呼ばれます。
骨盤内炎症性疾患
女性の上部生殖器(子宮、卵管、および卵巣)の感染症です。
盤内炎症性疾患は感染しているパートナーとの性交時に感染します。
典型的には、下腹部痛、おりもの、不規則な性器出血(不正出血)が生じます。
診断は、症状と子宮頸部および腟から採取した分泌物の検査結果のほか、ときに超音波検査の結果に
基づいて下されます。
この感染症は抗菌薬で根治させることができます。

(3)垂直感染
胎内で母親から新生児に感染することを垂直感染といいます。
赤ちゃんに感染すると、重篤な障害がもたらされ、出産前に亡くなることがあります。
無事に出産することができた赤ちゃんであっても、脳や心臓、眼など全身各所に障害が見られることもあります。
@梅毒---先天梅毒の発症
詳細は、「梅毒」へ
A単純ヘルペスウイルス
産道からのHSV-2型の感染が主です。
臨床像より3型に分類されます。
局在型(表在型)(20〜30%)
皮膚、眼、口腔内などの表在に病変が局在するものです。
予後は良好ですが、皮疹はしばしば再燃します。
全身型(70〜80%)
肝、副腎、咽喉頭部、肺、胃腸、心、脳などに全身的に病変が及びます。
致死率は80%以上にのぼります。
特に皮膚、粘膜などにヘルペス感染のある児や、母親に性器ヘルペスの既往がある場合には注意深く観察する
必要があります。
中枢神経型
全身への播種を認めないがHSVが中枢神経系に侵入し脳炎症状を呈したものです。
必ずしも皮疹を認めないので診断に苦慮することが多いです。
生命予後は良いのですが、高率に神経学的後遺症を残しやすいです。
(4)合併症
早期に性感染症の診断や治療を受けないでいると、微生物によっては、血流を介して内臓に感染し、ときには
重篤な問題が引き起こされることがあり、生命が脅かされることさえあります。
梅毒---心血管系(心臓と血管)または脳の感染症
後天性免疫不全ウイルス(HIV)---エイズ
ヒトパピロ−マウイルス(HPV)---子宮頸がん、直腸がん、肛門がん、のどのがん
5:検査・診断
(1)検査
感染した細菌によって、血液検査、尿検査、ぬぐい取って染色、培養して観察など各種の方法がとられます。
検査機関には病院のほか、肝炎に関しては日本では無料で各自治体が行っている場合があります。
エイズ、梅毒、淋病、クラミジアに関しても保健所が無料で行っている場合があります。
こうした無料の検査は月に1〜2度である。
症状がある場合には医療機関での検査が望まれます。
症状が無い場合には、郵送での検査キットが販売されています。
詳細は、「性行為感染症の検査」へ
(2)診断
排尿痛、尿道の痛みや分泌液は、性感染症以外でも起こりうるため鑑別が必要です。
症状による鑑別は困難で、検査による診断が必要となります。
6:治療
(1)細菌によるの感染症
性感染症の種類に応じた抗菌薬と抗ウイルス薬を投与します。
同時にセックスパートナーの治療を行う事も必要です。
ほとんどの性感染症は、薬剤(細菌感染症には抗菌薬、ウイルス感染症には抗ウイルス薬)で効果的に治療が
できます。
しかし、細菌やウイルスの新しい株の中には一部の薬に耐性をもっているものがあり、治療が難しくなっています。
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性行為感染症と口腔症状 |
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1:梅毒
感染3週間後(T期梅毒)----初期硬結 硬性下疳
トレポネーマが侵入した部位(陰部、口唇部、口腔内)に塊(無痛性の硬結である硬性下疳)を生じます。
塊はすぐ消えますが、稀に潰瘍となり排膿します。
また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れ、横痃(おうげん)が見られます。

2:先天性梅毒
先天性梅毒の症状には以下のものが挙げられます。
ハッチンソンの三徴候----実質性角膜炎、感音性難聴、ハッチンソン歯
口囲の放射状瘢痕〔Parrot(パロー)凹溝]
鞍鼻
前歯=ハッチンソン歯、臼歯=桑実状大臼歯

3:口唇ヘルペス
口唇ヘルペスは単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)を原因とする感染症です。
感染すると、口唇に水疱(水ぶくれ)ができます。
感染力が強く、家族間での食器共有や、頬ずりなどの接触によって感染し、97%の人が3歳までに感染していました。
性感染症では、性器の周辺にいる単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)が、性的接触によって口唇にうつり、
口唇ヘルペスを発症することがあります。
逆に口からの感染機会の増加により、単純ヘルペスウイルス1型が性器で見つかることもあります。

4:ヘルペス性口内炎
HSV-1の初感染により発症し、主に6ヵ月〜6歳頃までの小児にみられます。
成人でも発症することがあります。
従来は単純ヘルペスウイルス1型は口、単純ヘルペスウイルス2型は性器でした。
近年では性生活の多様化によって1型と2型の境界がはっきりしなくなって来ています。
性感染症としてのヘルペス性口内炎では、単純ヘルペスウイルス2型が多くみられ、口内に強い痛みが生じます。
口唇、歯肉、舌が赤くなり、いくつもの水ぶくれができ、これが破れて口内炎となります。

5:咽頭淋病
喉に感染したものを咽頭淋病と呼びます。
咽頭淋病では口のなかに淋菌が生息することになります。
キスをしただけでも喉から喉へとうつるのではないかという懸念があり、その可能性は否定できません。
しかし、通常行われるようなキスであれば病原菌への接触は限られるため、感染するリスクは極めて低いと言われています。
6:咽頭クラミジア
クラミジアは粘膜の小さな傷から侵入し、精液・膣分泌液・血液などの体液を介して感染します。
咽頭に感染したクラミジアは、性器への感染より治療に時間を要するため、完治させないとピンポン感染を起こしやすいと言えます。
口の中に傷や出血がある場合は感染しやすくなりますが、そうでない場合の唾液だけでの感染はほとんどありません。 自覚症状は少なく風邪の症状によく似ているため、感染していると気が付きにくいのが特徴です。
7:ヒト乳頭腫ウイルス感染症
ヒトパピローマウイルス(HPV)は口腔がん、中咽頭がんの原因の一つとされています。
口腔内の乳頭腫の中にはHPVが関係している例もあります。

8:HIV関連歯周囲炎
通常の歯周囲炎よりも症状が激しく出るのが、HIV関連歯周囲の特徴です。
HIV感染者特有の症状として歯肉周辺に沿うようにして赤味がみられる帯状歯肉紅斑や、歯肉の辺緑部に壊死性の潰瘍が生じる壊死性潰瘍性歯肉炎(歯周炎)などをあげることができます。
*予防のための口腔ケア
歯周病や口内炎などで歯肉・粘膜のキズが有ると、微生物の侵入を許しやすくなり、感染し易くなります。
日頃から歯周病の予防・治療など口腔内の状態を整えておくことも感染予防に必要です。
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参考資料 |
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『性感染症(STD) (写真を見ながら学べるビジュアル版 新健康教育シリーズ)』
『誰も教えてくれない 性病対策ハンドブック (SANWA MOOK)』
『怖くて眠れなくなる感染症』
『今だから学ぶ性感染症 (MB Derma(デルマ))』
『マンガでわかる! 28歳からのおとめのカラダ大全 今さら聞けない避妊・妊娠・妊活・病気・SEXの超キホン』
「性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016」 日本性感染症学会
「性感染症報告数 2004年〜2020年」 厚労省
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