インフルエンザ (Flu:Influenza) |
1:インフルエンザとは (1)原因ウイルス
インフルエンザ」の病原体はRNAウイルスのインフルエンザウイルスです。
以下の4種類が存在します。
A型インフルエンザウイルス----季節性インフルエンザ、鳥インフルエンザなど
A型インフルエンザウイルスでは、H1N1、H1N2、H3N2が主にヒトの間で伝染します。
A型インフルエンザはとりわけ感染力が強く、症状も重篤になる傾向があります。
B型インフルエンザウイルス----季節性インフルエンザ
C型インフルエンザウイルス----主に小児に感染します。
D型インフルエンザウイルス----ウシやブタなどの家畜に感染します

(2)インフルエンザ
エンベロープを持つ、マイナス鎖の一本鎖RNAウイルスであるインフルエンザウイルスが原因の感染症です。
病原となるインフルエンザウイルスにはA型・B型・C型・D型の4種類があります。
上気道炎症状・気道感染症状、呼吸器疾患などを呈します。
流行性感冒(りゅうこうせいかんぼう)、略して流感(りゅうかん)とも呼ばれます。
日本語ではインフル、英語ではfluと略されることも多い様です。
主な感染経路は飛沫感染、接触感染です。
ワクチンで罹患率は低下し、罹患した場合も軽症となります。
日本では冬〜春に流行します。
小児、高齢者では肺炎などの合併症で死亡することもあるので注意が必要です。

2020年1月29日 日経新聞から引用
2:感染様式
(1)感染経路
主に次の3つのルートで伝播します。
@患者の粘液が、他人の目や鼻や口から直接に入る経路
A患者の咳、くしゃみ、つば吐き出しなどにより発生した飛沫を吸い込む経路
Bウイルスが付着した物や、握手のような直接的な接触により、手を通じ口からウイルスが侵入する経路。
(2)潜伏期間
感染してウイルスが体内に入ってから、2日〜3日後に発症することが多い。
潜伏期は10日間に及ぶことがあります。
3:疫学
インフルエンザは温帯地域において毎年秋から冬にかけて、広い範囲に散発性症例を引き起こします。
季節性の流行はA型およびB型インフルエンザウイルスの両者によって引き起こされます。
1968年以来,季節性インフルエンザの大部分がH3N2(A型インフルエンザウイルス)によって引き起こされています。

概ね、12月くらいから4月初旬くらいまで感染が多発してきます。
4:症状
(1)主な症状
風邪(普通感冒)とは異なり、比較的急速に出現する悪寒、高熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛を特徴とし、
咽頭痛、鼻汁、鼻閉、咳、痰などの気道炎症状を伴います。
腹痛、嘔吐、下痢といった胃腸症状を伴う場合もあります。
(2)主要な合併症
主な合併症は肺炎とインフルエンザ脳症です。
肺炎や上気道の細菌感染症を続発し死亡することがあります。
まれにA型、B型の両方を併発する場合もあります。

(3)潜伏期間
潜伏期間は通常1〜2日です。
しかし長い場合もあり、最大で7〜10日までです。
(4)感染力
空気感染において、人が吸い込む飛沫の直径は0.5から5マイクロメートルですが、たった1個の飛沫でも
感染を引き起こし得ます。
1回のくしゃみにより40,000個の飛沫が発生しますが、多くの飛沫は大きいので、空気中から速やかに取り除かれて
しまいます。
飛沫中のウイルスが感染力を保つ期間は、湿度と紫外線強度により変化します。
紫外線で殺菌されますが、冬では、湿度が低く日光が弱いので、この感染力を保つ期間は長くなります。
(5)ウイルスの生存期間
インフルエンザウイルスは、いわゆる細胞内寄生体なので、細胞外では短時間しか存在できません。
物の表面においてウイルスが生存可能な期間は、条件によってかなり異なります。
プラスチックや金属のように、多孔質でない硬い物の表面でかつ、RNaseが完全に除去された環境、
つまり人が絶対に触らない硬い物の表面では、ウイルスは最長1〜2日間生存すると言われています。
RNaseが完全に除去された環境つまり人が絶対に触らない乾燥した紙では、約15分間しか生存出来ません。
補足:RNaseとは(RNアーゼまたはRNエース)
あらゆる生物に遍く存在する酵素で、内部または外部からからRNAを分解します。
5:診断
(1)検査
専門家でなくても迅速に診断が可能な検査キッが臨床現場で使われ始め、普及しています。
この検査キットでは、「鼻腔吸引液」「鼻腔ぬぐい」「咽頭ぬぐい液」を用い、15〜20分で判断をすることが
できます。

大塚薬品販売の「クイックナビ・Flu」による検査。写真ではインフルエンザA型陽性。
6:治療
(1)抗ウイルス薬
発症後48時間以内の投与が必要とされています。
@M2蛋白阻害薬
A型のみに有効です。
耐性ウイルスが発生し、インフルエンザ治療薬としては選択肢に加えることができない状況に有ります。
薬剤:アマンタジン塩酸塩(シンメトレルR)
ANA(ノイラミターゼ)阻害剤
A型、B型双方に有効です。
ウイルスそのものの増殖を抑えるのではなく、増殖したウイルスが細胞内から出られなくします。
薬剤: ザナミビル(リレンザR)-------吸入薬(グラクソ・スミスクライン社製)
オセルタミビル(タミフルR)----経口薬(ロシュ/中外製薬社製)
ペラミビル(ラピアクタR)------注射薬(バイオクリスト開発、日本では塩野義製薬がライセンス生産)
ラニナミビル(イナビルR)-----吸入薬(第一三共社製) 第一選択薬とされています。
BRNAポリメラーゼ阻害薬
A型、B型双方に有効です。
薬剤:ファビピラビル(アビガンR)----経口薬(富山化学工業社製)
RNAポリメラーゼの阻害によりウイルスの遺伝子複製時に作用を示し、その増殖を防ぎます。
高病原性トリインフルエンザウイルスH5N1型を含む広範囲なインフルエンザウイルスに有効であり、
ノロウイルスなどの他のRNAウイルスに対する有効性も示唆されています。
Cエンドヌクレアーゼ阻害薬
A型、B型双方に有効です。
ウイルスの増殖に必要なエンドヌクレアーゼを特異的に阻害することで、ウイルスを増殖できなくさせます。
薬剤:バロキサビルマルボキシル(ゾフルーザR)----経口薬(ロシュ/塩野義製薬社製)
1回の服用で治療完結し、副作用が少ないとされています。
(2)一般療法
暖かい場所で安静にして睡眠をよく取り、水分を十分に摂って生体の防御機能を高めます。
回復期にも空気の乾燥に気をつけます。
特に体を冷やさないこと、マスクを着用する方法で、喉の湿度を保つことが重要です。
外出は控えて、うつす/うつされる機会をなるべく減らすことが大切です。
インフルエンザウイルスは熱に弱いので、微熱はあえて押さえる必要はありません。
(3)対症療法
熱が高く、脱水、消耗の危惧がある場合には適宜、解熱剤を使用します。
食事が摂取できないなどの場合は、輸液が必要となります。
解熱に使用できる薬剤
小児ではアセトアミノフェン(アンヒバ坐剤R、カロナールR、タイレノールR)に限られます。
使用を控える薬剤
ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンRなど)、メフェナム酸(ポンタールRなど)、
イブプロフェン(ロキソニンR)、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) を、15歳未満の
小児に使用するとライ症候群を含むインフルエンザ脳症の併発を引き起こす可能性が指摘されているため、
原則使用が禁止されています。
そのため、小児のインフルエンザ治療においてはNSAIDsは使用せず、よほど高熱の時のみ
アセトアミノフェンを少量使用するのが現在では一般的です。
補足:ライ症候群
インフルエンザや水痘などの感染後、特にアスピリンを服用している小児に、急性脳症、肝臓の
脂肪浸潤を引き起こし、生命にもかかわる原因不明で稀な病気です。
7:予防
(1)日常生活上の注意
@栄養補給と休息
免疫力の低下は感染しやすい状態を作るため、偏らない十分な栄養や睡眠休息を十分とることが大事です。
これは風邪やほかのウイルス感染に関しても非常に効果が高い。
A手洗い
自宅でも外出時でも、他の人が触れたものに触れた場合は、手を石鹸で洗い、水で30秒以上すすぐ。
また、手で自分の目や鼻や口に触れないようにします。
Bマスク
病原体の侵入を防ぐほか、喉の保湿に有益で、また保菌者が他者に感染させる可能性を減らします。
食事中などはしゃべらない(人と向かい合わせにならない)、
C室内の環境管理
気温 20.5〜24.0 ℃の典型的な暖房室温において、相対湿度 50% 以上で急速に死滅します。
このため部屋の湿度を50-60%に保つことにより、ウイルスを追い出し、飛沫感染の確率を大幅に減らすことが
可能です。
しかし湿度60%以上にすると、部屋が結露してカビ繁殖の原因になるため、上げすぎない注意も必要です。
補足:うがいの否定と再考
予防としてうがいが有効であると言われてきましたが、最近ではその効果に疑問も述べられています。
インフルエンザウイルスは、口や喉の粘膜に付着してから、細胞内に侵入するまで20分位しかかかリません。
20分毎にうがいを続けること自体が、無理かつ非現実的であるとされています。
ウイルスは鼻の奥で増殖するので、喉のうがいは全く意味が無いとも言われています。
反証1
一方で、イソジンなどの、ポピドンヨードによるうがいにより、有病率、欠席率から予防効果が認められたとする
報告もあります。
これは、清浄化による防御機能の維持と考えられます。
風邪などにかかってなかったら水うがいでも効果があるとも言われています。
反証2
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の多くはまず口の中に入ります。
そして、次に小唾液腺に感染し、そこの細胞で増殖します。
そこで口腔細菌が出す毒素がこれを手助けしているという報告があります。
うがいは、この口腔細菌の悪影響を遮る効果があります。
すなわち、うがいはウイルスそのものに作用するのと、感染の幇助をしている口腔細菌を押さえる作用があります。
よって、うがいはやはりウイルス感染の防御に寄与していると考えられます。
参照:「COVID-19と唾液腺 : 重症感染を防ぐための新たな口腔ケア」 大阪大学 阪井丘芳 TBSニュース
「新型コロナウイルス SARS-CoV-2 と口腔」 槻木恵一 神奈川歯学 55-2,141 〜 148,2020
(2)インフルエンザワクチン
インフルエンザウイルスに対する不活化ワクチンが使用されます。
毎年シーズンごとに流行すると予想される型に合わせて製造されます。
注射後、約2週間で抗体を獲得し、約5ヵ月間効果が持続します。
(卵が使われているので卵アレルギーの人には打てません)

詳細は、「ワクチン」へ
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インフルエンザ感染症と口腔ケアと予防 |
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インフルエンザ関連器材 |
インフルエンザ検査キット
消毒薬の選択
マスクの選択
オゾン発生器の選択
加湿器
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参考資料 |
『全ての病気は「口の中」から!』
『マンガでわかる感染症のしくみ事典』
絵でわかる感染症 with もやしもん (KS絵でわかるシリーズ)
『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』
『感染症 ウイルス・細菌との闘い』 (別冊日経サイエンス238)
『戸田新細菌学第34版』 南山堂 2013
『標準微生物学 第14版 (Standard Textbook)』 医学書院 2021
「厚労省感染症情報」 厚労省
『成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン』 厚労省 2014年
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