麻疹 (Measles) |
1:麻疹(はしか)とは
(1)麻疹ウイルス
麻疹の原因となるウイルスで、パラミクソウイルス科モルビリウイルス属に属するRNAウイルスです。
RNAは一本鎖であり、直径100 - 250nmのエンベロープを有します。
麻疹の発症のみならず、リンパ組織に感染するため、免疫抑制という症状をもたらします。
熱、紫外線、酸、エーテルで容易に不活化され、空気中や物体表面での生存時間は短命です。

(2)麻疹
一般的には、はしかと呼ばれています。
麻疹ウイルスによる感染症で、その感染力は極めて強く、同じ空間に患者と居るだけで感染してしまいます。
マスクや手洗いなどの対策でも完全には防ぐことはできません。
免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症し、一度感染して発症すると一生免疫が持続すると
言われています。
2:感染様式
(1)感染経路
空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染で広がります。

(2)潜伏期間
麻疹ウイルスへの曝露から、発症まで7〜14日間程度かかります。
3:疫学
(1)患者数
麻しんワクチンの接種率の上昇で自然に感染する人は少なくなってきています。
1期、2期の定期接種の積極的な勧奨を行い、2015年3月、日本はWHOより麻しんの排除が達成されたとの認定を
受け、その状態を維持しています。

4:症状
(1)麻疹の症状と経過
@潜伏期
7日〜14日ほどの潜伏期間を経て、麻疹の症状が現れます。
A 初期:カタル期(前駆期)
麻疹の発症後、カタル期が2〜4日間続きます。
この時期が他者への感染力は最も強くなります。
38度前後の発熱・咳・鼻水・倦怠感など、風邪のような症状が出現し、いったん下熱します。
カタル期の後半、発疹出現の1〜2日前に、口腔粘膜の奥歯付近に、直径1mm程度の少し膨らんだ
白色小斑点(コプリック斑)を生じる。
コプリック斑は、カタル期を過ぎると数日で消失します。
Koplik斑=頬の粘膜に認められる小さな白い斑点です。
咽頭周辺に見られることもあります。

眼症状として、多量の眼脂、流涙、眼痛が現れます。
麻疹では角膜潰瘍(角膜が白濁する)や、角膜穿孔が起こり、失明することも有ります。
B中期:発疹期
カタル期の発熱が一時的に1度ほど下がります。
およそ半日程度のうちに再び上昇して39.5度以上ほどになります(二峰性発熱)。
頭頚部から全身へ広がる発疹が特徴的です。
発疹が出現してから全身に広がるまでの3〜4日間ほどは高熱の状態が続きます。
出現時に鮮やかな赤色をしていた発疹は、徐々に暗い赤色になり、時間の経過とともに退色していきます。
カタル期に生じていた鼻水や咳、結膜炎症状は、この時期にさらに強くなります。
C後期:回復期
熱が下がり、全身状態も回復して、活力を取り戻していく時期です。
発疹は黒みがかった色素沈着となり、解熱後もしばらく残ります。
合併症がない場合、麻疹の発症から1週間程度で主な症状は改善します。
体力や免疫力の回復にはさらなる期間を要するため、他の感染症などにかからないよう注意が必要です。

(2)麻疹の合併症
麻疹患者の30%に合併症が認められます。
@中耳炎(10%位)
A肺炎(5%位)
B脳炎(0.05〜0.1%)
脳炎では15%が死亡します。
20〜40%に中枢神経系の後遺症が併発します--精神発達遅滞,行動異常,聾,麻痺など
C亜急性硬化性全脳炎(Subacute Sclerosing PanEncephalitis;SSPE)
麻疹罹患後、7〜10年程度の長い潜伏期を経た後に発症します。
知能障害、運動障害が徐々に進行し、段々と植物状態になっていきます。
発症後平均6〜9カ月で死亡します。
5:診断
臨床症状から比較的容易に診断が為されます。
6:治療
(1)対症療法
特異的治療法はなく、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱剤、鎮咳去痰薬による対症療法を行います。
必要に応じて、輸液や酸素投与などの支持療法も行います。
細菌性の二次感染は少なからず見られ、中耳炎、肺炎など細菌性感染症を併発した場合には抗菌薬の投与が
行われます。
7:予防
(1)ワクチン接種
麻疹は、ワクチンで予防可能な感染症で、予防接種が唯一の確実な予防法です。
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麻疹と口腔ケア |
Koplik斑への対処
頬の粘膜に認められる小さな白い斑点です。
咽頭周辺に見られることもあります。
コプリック斑は、カタル期を過ぎると数日で消失しますので、特別な処置は不要です。
麻疹罹患時の口腔ケア
口内炎やカンジダ症を発症することがあります。
口腔保清を行いながら、対症的に対処します。
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参考資料 |
はしかの脅威と驚異 (岩波科学ライブラリー)
感染症 増補版-広がり方と防ぎ方 (中公新書 1877)
『生命科学のためのウイルス学―感染と宿主応答のしくみ,医療への応用』
『医科ウイルス学』
『新しいウイルス入門 (ブルーバックス)』
『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』
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