ノロウイルス感染症 (infection with Norovirus) |
1:ノロウイルス感染症
(1)ノロウイルスとは
@ノロウイルスの特徴
一本鎖RNAウイルスに分類されるエンベロープを持たないウイルスです。
直径 30-38nmの正二十面体で、最も小さいウイルスといわれています。
感染力の強いウイルスです。
ノロウイルス属にはノーウォークウイルス1種のみが認められています。
おそらく種に相当するであろうジェノグループ5つが認識されています。
ヒトに感染するのはGI・GII・GIVの3種類で、GIIIはウシやヒツジ、GVはネズミに感染します。
またGIIはヒト以外にブタにも感染します。
Aノロウイルスの病態生理学
ヒトに経口感染して十二指腸から小腸上部で増殖し、伝染性の消化器感染症(感染性胃腸炎)を起こします。
10から100個程度の少数のウイルスが侵入しただけでも感染・発病が成立します。
わずかな糞便や吐瀉物が乾燥した中に含まれているウイルス粒子が飛沫を介して(飛沫感染で)経口感染することも
あると考えられています。
ノロウイルスに対する免疫は短期間しか持続せず、何度も再感染します。
(2)ノロウイルス感染症
ノロウイルス感染症は、吐き気、嘔吐、水様性下痢、腹痛、場合によっては味覚喪失を特徴とします。
ノロウイルスが感染・増殖する部位は小腸と考えられています。
ロウイルス感染は不快な症状ではありますが、一般的には危険ではありません。
感染者のほとんどは2〜3日以内に完全に回復し、1〜2日で治癒します。(ロタは1週間かかります)

2:感染様式
(1)感染経路
主に経口感染(食品、糞口)で、感染者の糞便・吐物およびこれらに 直接または間接的に汚染された物品類で
感染します。
@飲食物からの感染(感染型食中毒)
食中毒------ウイルスを蓄積した食材およびウイルスで汚染された食品を喫食して感染。
水系感染----水道水、井戸水などがウイルスで汚染され、その水を飲み感染。
Aヒトからヒトへの感染
不顕性感染を含む感染者の糞便や吐瀉物から便器や手指を介して感染。
(ドアノブなどからもウイルスが発見される事例があります)
不顕性感染を含む感染者の糞便や吐瀉物に排出されたウイルスが付着し、飛散した飛沫から感染。
(飛沫感染或いは塵埃感染とも呼ばれる)
感染者が十分に手を洗わず調理した食品を食べ感染。
(エタノールや逆性石鹸に対する抵抗性があります。
水道水に含まれる塩素にもある程度の耐性を持っているため、洗浄が不十分になりやすい)
(2)潜伏期間
通常の人はノロウイルスへの暴露後、12〜48時間後に胃腸炎の症状を発症します。
3:疫学
(1)感染者数
厚労省の食中毒統計(平成17年度版)によると全食中毒患者の33%を占めており患者数では最大です。
(2)流行時期
日本での流行は冬(11月〜2月)に多いが、流行年によっては流行時期には偏りがあります。

4:症状
(1)主症状
嘔気、嘔吐、下痢が主症状です。
(2)その他の症状
腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感などを伴うこともあります。
(3)症状の経過
特別な治療を必要とせずに軽快し、重症化はまれです。
しかし、幼児や高齢者およびその他、体力の 弱っている者での嘔吐、下痢による脱水や窒息には注意をする
必要があります。
ウイルスは、症状が消失した後も3〜7日間ほど患者の便中に排出されるため、2次感染に注意が必要です。

『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』 から引用
5:診断
(1)検査
@ウイルス粒子の確認
電子顕微鏡下で糞便中にウイルス粒子を目視確認。
AELISA法
但し、ELISA法ではウイルスが少量である場合は検出できないこともある。
BRT-PCR法
RT-PCR法は糞便のみならず、患者吐物・カキなどからの遺伝子検出にも威力を発揮する。
リアルタイムRT-PCR法ではウイルス遺伝子のコピー数も測定できる。
C生物発光酵素免疫測定法(BLEIA)
ホタルルシフェラーゼ発光酵素を利用した酵素免疫測定法による超高感度な検出方法で、120検体/時間の
全自動測定装置が可能
6:治療
(1)対症療法
有効な抗ウイルス薬や薬剤は存在しません。
下痢がひどい場合には水分の損失を防ぐため、輸液を対症療法的に用いる場合があります。
また止瀉薬(下痢止め)の使用については、ウイルスを体内に留めることになるので用いるべきでないと言う
専門家もいます。
医師の指示がなく、仕事等の生活上でも特に必要でない場合は下痢止めの服用は避けるのが賢明だという意見も
あります。
7:予防
(1)ワクチン
このウイルスに対する免疫は、感染者でも1 - 2年で失われるといわれています。
原因は免疫抗体価低下説やウイルスの遺伝型が変化するため、抗原性が変化するなどの仮説がありますが、
まだ確証は得られていません。
このためワクチンの開発は難しいとされています。
(2)摂取物質
@注意すべき食品
二枚貝を加熱調理する場合は、十分に加熱します(中心温度85〜90℃90秒間以上)。
A摂取すべき食品
母乳・牛乳等に含まれる糖タンパク質であるラクトフェリンが、消化管細胞の表面に結合することで、ノロウイルス
(やロタウイルス)の細胞への感染を防ぎ、発症した場合でも症状を緩和する報告があります。
(3)衛生管理
感染経路を考慮すると、特に飲食物を扱う人が十分な衛生管理を行うことが効果的な感染予防につながります。
アルコール消毒ではノロウイルスを不活化出来ないことを知る事が重要です。
@手洗い
日頃から衛生的な手洗いを行います。
特にトイレ使用後や調理前には十分な手洗いを心がけます。
A調理における注意
下痢や嘔吐等、体調不良時には調理しません。
家族に嘔吐や下痢をしている人がいる場合も手洗い・体調管理に気をつけます。残菜は密封して捨てます。
調理器具や調理台などは、いつも清潔にし、熱湯や次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。
85℃以上で少なくとも1分以上加熱する必要があるとされています。
B吐物処理
吐物処理やトイレ清掃は使い捨ての手袋、マスクを着用して行います。
嘔吐物は3m位まで飛散していると考えて処理を進めます。
嘔吐物を拡散させないように、0.1〜0.2%次亜塩素酸ナトリウムを浸したペーパータオル等で嘔吐物を覆います。
吐物・使用済み資材はビニール袋に入れて密封して捨てます。

嘔吐物処理セット 1箱(1回分)
C清掃
0.1〜0.2%(1000〜2000ppm)次亜塩素酸ナトリウムによる清拭消毒も行い、使用済み資材は同じ袋に入れて捨てます。
衣類やカーペットが吐物で汚れた場合は、他にウイルスを拡散しないように注意深く汚れを落とし、熱湯などで
消毒します。
(汚染を拡大しない処理は難しいので、廃棄した方が良い場合もあります)
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ノロウイルス感染症と口腔ケア |
嘔吐物の処理
床等に飛び散った患者の吐ぶつやふん便を処理するときには、使い捨てのガウン(エプロン)、マスクと手袋を着用します。
汚物中のウイルスが飛び散らないように、ふん便、吐物をペーパータオル等で静かに覆います。
市販される凝固剤等を使用することも可能です。
ペーパータオルに0.1%(1000pppm)次亜塩素酸ナトリウムを静かに注ぎます
拭き取ったペーパータオルは静かにまとめて、1次回収袋等に入れます。
拭き取った後は、0.02%次亜塩素酸ナトリウム(200 ppm)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをします。
おむつ等は、速やかに閉じてふん便等を包み込みます。

使用した手袋等も、1次回収袋に入れます。
1次回収袋を2次回収袋に入れて密閉します。

処理後は必ず30秒以上石けんなどを使って手洗い及びうがいをします。
次亜塩素酸ナトリウムはカーペット等を脱色させてしまいマスので注意が必要です。
また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあります。
吐ぶつやふん便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理します。
処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に喚気を行うことが感染防止に重要です。
嘔吐したヒトの口腔内のケア
嘔吐物が残っていないか確認します。
残存した嘔吐物が更なる感染を起こす危険性も有りますので、これをうがいで除去します。
ポピドンヨードを使ってうがいをする方が理想的です。
この時、うがいが飛沫を生じないように、極力注意します。
うがいをした洗面台は、0.1%次亜塩素ナトリウムで消毒します。
次亜塩素酸ナトリウムの濃度調整
嘔吐物用---0.1%溶液(1000ppm)
床洗浄用---0.02%溶液(200ppm)

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参考資料 |
『生命科学のためのウイルス学―感染と宿主応答のしくみ,医療への応用』
『医科ウイルス学』
『新しいウイルス入門 (ブルーバックス)』
『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』
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22-3-30 |