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1:サーズ(SARS)について
(1)サーズ(SARS)とは
SARSコロナウイルス (SARS-CoV-1) によって引き起こされるウイルス性の呼吸器疾患です。
動物起源の人獣共通感染症と考えられています。
ウイルス特定までは、その症状などから、新型肺炎、非定型肺炎などの呼称が用いられていました。
現在の新型肺炎は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を示します。

2020年1月29日 日経新聞から引用
(2)感染拡大から終息まで
2002年11月16日に、中国南部広東省で非定型性肺炎の患者が報告されました。
その後、北半球のインド以東のアジアとカナダを中心に、32の地域や国々へ拡大しました。
中国では初期に、305人の患者(死亡例5人)が発生しました。
2003年3月の始めには旅行者を介してベトナムのハノイ市での院内感染や、香港での院内感染を引き起こした。
同年3月12日にWHOは、全世界に向けて異型肺炎の流行に関する注意喚起(Global Alert)を発し、本格的調査を
開始しました。
3月15日には、原因不明の重症呼吸器疾患として、SARSと名づけました。
そして世界規模の健康上の脅威と位置づけ、異例の旅行勧告も発表しました。
起因病原体特定のためのWHOを中心とした各国の協力と、古典的な隔離と検疫対策を用いて収束がはかられ、
2003年4月16日の新型のSARSコロナウイルス(SARS-CoV)特定されました。
そして、初めての感染確認から約8ヶ月を経て、2003年7月5日に終息宣言が出されました。

(3)感染症法等
@感染症法における取り扱い (2012年7月更新)
全数報告対象(2類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。
A学校保健安全法における取り扱い (2012年3月30日更新)
第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされています。
また、以下の場合も出席停止期間となります。
患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により
学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて
適当と認める期間
流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間。
2:感染様式
(1)原因ウイルス
従来のヒトコロナウイルスは一本鎖RNAウイルスで、軽症のかぜ様症状の約30%の原因となっていると考えられて
いましたが、重症化の報告はほとんど有りませんでした。
SARSは、この科に属する新型のSARSコロナウイルス(SARS-CoV-1)により引き起こされる、全身性の
感染症です。

(2)感染経路
飛沫および接触(糞口)感染が主体とされますが、空気感染の可能性は依然議論の余地があるようです。
最も一般的には、感染性のある飛沫への曝露を伴 う密接なヒト?ヒトの接触で伝播していると考えられ、
医療従事者や介護者などの場合は、感染性のある血液を始めとした体液への直接的接触も考えられます。
ヒトで感染源となるのは有症者だけで、現在までのところ発症前の患者が感染源となったという報告は確認されて
いません。
動物の媒介(ハクビシン、タヌキ、ネ ズミ他)、食品の媒介も示唆され、消化器症状を伴う例も多く見られることから、
糞口感染が主体ではないかとの議論もあるところです。
3:疫学
(1)患者数と死亡者数
2002年11 月〜2003年8月に中国を中心に8,096人が罹患しました。
うち774人が死亡しました。 (致命率=9.6%)
1,707人(21%)の医療従事者の感染が示すように、医療施設、介護 施設などヒト−ヒトの接触が密な場合に、
集団発生の可能性が高いことが確認されています。
(2)日本での感染状況
わが国では、集団発生期間中に報告のあった可能性例16例と、疑い例52例すべてが、他の診断がつき取り下げられたか、
あるいはSARS対策専門委員会でSARSの可能性が否定されました。
すなわち、日本での感染は有りませんでした。
(3)好発年齢等
罹患率は人口10万人当たり2.92でした。
若年成人に高く、50歳以上の年齢群、10歳未満は余り罹患しませんでした。
20〜29歳で最も高く、40〜49歳(2.15)、30〜39歳(1.87)、
50歳以上の年齢群ではすべて1.8以下、10歳未満は0.16でした。
(4)予後
発症者の約80%は軽快し、およそ20%が重症化しました。
予後は年齢や基礎疾患の有無により異なっていました。
男女差や人種差は明らかではありませんでした。
最終的な罹患数は世界30ヶ国の8,422人が感染し、916人が死亡したとされています(致命率10.9%)。
4:症状
(1)潜伏期間
2〜10日、平均5日です。
然し、より長い潜伏期の報告もまれにはあった様です。
(2)症状と経過
@発病第1週
発熱、悪寒戦慄、筋肉痛など、突然のインフルエンザ様の前駆症状で発症します。
疾患特異的な症状や症状群は確認されませんでした。
発熱歴が最も頻繁に報告されますが、初期の検温ではみられないこともあり得ます。
A発病第2週
非定型肺炎へ進行し、咳嗽(初期には乾性)、呼吸困難がみられる。
下痢は発病第1 週にもみられるが、一般的には第2週目により多く報告されている。
最大70%の患者が、血液や粘液を含まない大量の水様性下痢を発症します。
発症者の約80%はその後軽快しますが、なかには急速に呼吸促迫と酸素飽和度の低下が進行し、
ARDS(急性呼吸窮迫症候群)へ進行し死亡する例もあります。
約20%が集中治療を必要とします。
感染の伝播は主に発症7日目前後をピークとし、発症第2週の間に起こります。

京都大学 ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)HPから引用
(3)最重症症例
免疫反応によって、サイトカイン・ストームを引き起こすことがあります。
サイトカイン・ストーム
サイトカインと白血球のポジティブフィードバックで発生する、時に致死的な免疫反応です。
様々なサイトカインの血中濃度が上昇します。
代表的な症状は、高熱、腫脹、潮紅、極度の疲労、嘔気です。
多臓器不全に至り死亡する例もあります。
これを防ぐため、IL-6 阻害が新たな治療法につながる可能性が報告されています。
5:診断
(1)臨床的な診断基準
38度以上の高熱、及び咳、呼吸困難、息切れのいずれかの症状が有ること。
レントゲン検査において肺炎の症状を呈し、この原因が不明で、ウイルス検査で陽性となった事、が診断基準となります。
(2)病原体診断
SARSの早期診断はやや困難であるとされています。
病原体検査陰性がそのまま感染を否定するものではなく、診断は臨床所見に加え、感染曝露歴の有無、
他疾患の除外により行われます。
@ウイルス分離
検体からウイルスそのものを分離検出するため、確実な診断が可能ですが、感度が低く、時間を要しまする。
APCR法
SARS-CoVのRNAを検出する迅速な検査法で、特異度も高いとされるが、感度が十分と言えず、
陰性結果がただちにSARSの否定にはなら得ません。
病期によりウイルス排泄量が異なるため検出感度が影響され、発症後10日前後が最も高いとされています。
B血清抗体価測定
急性期と回復期のペア血清を用いて検査を行います。
現在使用可能な方法では、第20病日で約60%、第30病日で95%程度の陽性率であるため、回復期血清の採取は
発病3週目以降が推奨されます。
6:治療
有効な根治療法は確立されていません。
病初期には鑑別診断を急ぐとともに、症状の緩和と胸部レントゲン所見の改善を目的として、一般の細菌性肺炎を対象に、
広域スペクトルの抗菌薬療法を行う。
肺病変が進行する場合は、酸素投与や人工呼吸器などによる患者管理が必要となる。
7:予防
患者の早期検知と即時隔離と、接触者の自宅隔離(検疫)以外には、特に有効な予防措置はない。
一般的呼吸器感染症の予防策として手洗い、うがい、マスク着用、体力や免疫力の増強をはかる、
人混みへの外出を控えるなどがあげられる1,
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