はじめに:感染と感染症 |
1:感染症について
(1)感染とは
感染とは、病原微生物(病原体)が様々な感染経路を通して宿主の組織、臓器に定着・侵入・増殖し、生体に
何らかの反応が生じた状態をいいます。
通常では、病原体は生体防御機構(免疫)により感染せずに排除されます。
しかし感染が成立すると、何らかの症状や徴候が出現します。
これが感染症です。 詳細は、「感染症とは」へ
(2)感染の成立
感染症は次の3つの要因が揃うことで感染します。
@病原体(感染源)
A感染経路
B宿主
「病気がみえる」 Vol.6 免疫・膠原病・感染症 第2版から引用
感染対策においては、これらの要因のうちひとつでも取り除くことが重要です。
特に、「感染経路の遮断」は感染拡大防止のためにも重要な対策となります。
2:感染源
(1)感染源と微生物
感染の原因は微生物や構造物です。
寄生虫、真菌、細菌、特殊な細菌、ウイルス、プリオン、等が感染症を起こす病原体になります。
そして、感染症の原因となる微生物(細菌、ウイルス等)を含んでいるものを感染源といいます。

病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症 第2版 医療情報科学研究所 から引用

病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症 医療情報科学研究所 第2版から引用
(2)感染源
感染症の原因となる微生物(細菌、ウイルス等)を含んでいるものを感染源といい、次のものは感染源となる
可能性があります。
感染源
嘔吐物、排泄物(便・尿等)、創傷皮膚、粘膜、など。
血液、体液、分泌物(喀痰・膿等) 、など。
使用した器具・器材(注射針、ガーゼ等) 、など。
上記に触れた手指、器具、等。
腐敗、あるいはその可能性がある食べ物、飲み物、など。
感染の危険性のある動物。
3:感染経路
感染経路とは、病原体が人の体に入るルートのことです。
これには、空気感染、飛沫感染、接触感染、血液感染、母子感染、などがあります。
感染経路の詳細は、「感染症とは」へ

4:感染の成立(宿主ー病原体関係)
感染成立には、
「病原性(ヴィルレンス)+病原体数+宿主の生体防御機構(免疫)」、のバランスが大きく関与します。
*病原性…感染症を発症させる能力。
5:標準予防策(standard precautions)とは
標準予防策とは、医療機関における感染対策の基本として、感染症の有無にかかわらず、すべての血液、体液、
分泌物(喀痰等)、嘔吐物、 排泄物、創傷皮膚、粘膜等は感染源となり、感染する危険性があるものとして取り扱う
という考え方です。
標準予防策
すべての人は伝播する病原体を保有していると考える。
患者および周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行う。
血液・体液・粘膜などに曝露するおそれのあるときは個人防護具を用いる。
特にコロナ禍の現状においては、常に感染の危険を考えて、私たちもこの方策に準じた行動を取る事が必要
になると思われます。
6:感染経路別予防策
標準予防策に加えて行われ、感染性の強い病原体や疫学的に重要な病原体に感染・保菌している患者に対し、
それぞれの感染経路を遮断するために行われる方法です。
やはりコロナ禍の状況にあっては、その感染経路を知って、それに対する予防を行う事が重要であると思われます。
7:感染予防対策とは
感染予防のためには、標準予防策と、場合に応じて感染経路別予防策を行う事が必要となります。
私たちの周りには無数の微生物が存在し、それからの感染を防いで生活する事が大事になります。
特に感染の危険性を感じる場合には、感染成立の3つの要因を一ずつ消去して行くことが求められます。
@病原体(感染源)の除去
感染源に近づかない、感染源の「消毒・滅菌」、など
A感染経路の遮断
空気感染----マスク、換気、空間の消毒、など
飛沫感染----マスク、距離の確保、など
接触感染----手指の消毒、器具の消毒、など
血液感染
B宿主の免疫力強化
免疫力の強化----ワクチン接種、栄養補給、休息、抗菌薬の使用、など
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T:感染源の除去---消毒と滅菌 |
1:感染源からの回避
感染しないために先ず一番に大事なことは、感染源に近づかない事です。
3密とは、密閉、密集、密接の事を言います。
3密を避けるとは、感染源を避けるためのものです。

2:感染源の消毒・滅菌
私たちの身の周りには、無数と言える微生物が存在し、それらとともに生活しているのが現状です。
したがって、全ての微生物と接触せずに生活する事は不可能と言わざるを得ません。
そこで、病原性の微生物と接触した可能性がある場合には消毒という行為が必要になります。
消毒の対象としては次のものがあげられます。
身体----手指や顔など外部と接触する部位
器材----食器、テーブル、壁など
環境----床や壁、空間、など
詳細は、「消毒・滅菌」へ
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U:感染経路の遮断と感染予防 |
はじめに:
感染が成立するには、感染源から病原体が人間に侵入しなければなりません。
そのため、感染経路の遮断は、重要な対策の1つとなります。
日常生活において、注意すべき主な感染経路としては、空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触(経口)感染の3つが
挙げられます。
感染経路を遮断する事が、感染拡大防止の重要な対策となります。
1:空気感染(飛沫核感染)
(1)空気感染とは
飛沫に含まれる水分が蒸発した直径0.005mm以下の粒子を飛沫核といい、空間に浮遊して広範囲に広がります。
病原体は埃と共にも浮遊し、これらを吸入することで伝播することを空気感染または空気感染といいます。
大きさ----直径 5μm以下
飛距離---空気中を浮遊

(2)感染例
麻疹ウイルス、天然痘、結核菌、ノロウイルス、など
(3)感染予防対策
換気
距離の確保
マスク(N95マスク)の着用
空間除菌(完全な実施は不可能)
ヒトがいないときの紫外線照射、オゾン発生
2:飛沫感染
(1)飛沫感染とは
咳、くしゃみや会話によって飛んだつばやしぶき(飛沫)に含まれる病原体を吸入することで引き起こされる感染です。
飛沫は直径0.005mm以上の大きさで、水分を含むため、届く範囲は感染源から1〜2m程度と言われています。
大きさ----直径 5μm以上
飛距離---会話で1〜2m 咳で3m くしゃみで5m
(2)感染例
インフルエンザ、風邪症候群、新型コロナ感染症、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、風疹、など。
(3)感染予防対策
マスク(サージカルマスク)の着用
感染源から距離をとること
パーテーションの設置、など

3:接触感染
(1)接触感染とは
皮膚や粘膜同士の直接的な接触や、手、ドアノブ、手すり、便座、スイッチ、ボタン等の表面を介しての接触によって
病原体が身体に付着することによる感染のことです。
病原体に汚染された食品・物・手指、病原体を含む汚物・嘔吐物を介して主に口から体内に侵入します。
(2)感染例
@感染性胃腸炎
ノロウイルス、ロタウイルス、腸管出血性大腸菌(O157)、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌など。
A性行為感染症 (STD:Sexual Transmitted Disease)
HIV感染によるエイズ、クラミジアのような性行為による感染症は、血液や体液、粘膜を通して感染する接触感染です。
Bベクター感染
病原体を持つ動物に噛まれたり、体や糞に触れることによって感染する狂犬病やトキソプラズマなどや、
蚊・ノミ・ダニなどに刺されて感染するマラリアや日本脳炎などのように、動物や昆虫を媒介として感染する場合も
あります。
(3)感染予防対策
手洗いの励行
手指の消毒
コンドームの使用、感染が疑われる相手との性的交渉を避ける。

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V:宿主の抵抗力強化 |
はじめに:
病原体が体内に侵入しても、感染が起こらない、感染しても症状が出ない場合、感染して発症す場合など様々です。
このような感染成立の違いには、病原性(ヴィルレンス)+病原体数+宿主の生体防御機構(免疫)のバランスが大きく
関与しています。
生体の防御機能を高くする手段にもいくつかの方法があります。

1:ワクチン接種
ワクチンとは、感染症の原因となるウイルスや細菌を精製・加工して、病原性(毒性)を弱めたりなくしたりして、体にとって
安全な状態にしたものです。
ワクチンを接種すると、獲得免疫が誘導されます。
その後、同じウイルスや細菌が侵入しても、獲得免疫がすぐに攻撃するために増殖を抑えることが出来ます。
ワクチンは感染や発症を予防するためのものであり、感染症になってから使用する治療薬とは異なります。

詳細は、「ワクチン」へ
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感染予防器材 |
環境・設備に対する感染予防器材
空気清浄機、オゾン発生器、加湿器、パーテーション、CO2測定器
個人防護用具(PPE:Personal Protective Equipment )
手袋 マスク、ゴーグル、フェイスシールド ガウン、エプロン、など
消毒薬
消毒薬について 消毒薬の選択について
感染者の発見につながる器材
体温計、パルスオキシメーター
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参考資料 |
『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』 医療情報科学研究所
「新型コロナウイルス感染症の予防」 厚労省
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