お口大全 (お口の機能と病気と口腔ケア)   All the Oral-functions and Care
mail:info@aofc-ydc1.sadist.jp

口腔癌の蛍光観察について

     
トップページ お口の働き お口の病気 摂食嚥下障害  お口から入る病気  口腔ケア 


口腔癌の蛍光観察法について 
 
  口腔内蛍光観察装置で口腔内に青色光(約450nm)を照射し、その反射光によって組織の異型性の有無を観察します。
 上皮異型性組織や炎症は青色光を反射することなく、光を吸収してしまうため暗色として見えます。
 これをFVL(蛍光可視の消失)と呼びます。
    正常細胞→青緑色に見える(蛍光可視の保持) =FVR(Fluorescence Visualization Retention)
    異常細胞→暗色に見える  (蛍光可視の消失) =FVL(Fluorescence Visualization Loss)

 この装置によって、悪性化が疑われる病変のスクリーニング検査が行えます。


    蛍光観察装置 「ORALOOKR」 株式会社HITS PLAN製
     



補足1:異型性(Atypia).とは

 異型性(いけいせい)とは、腫瘍細胞に対して用いられる用語で、正常細胞とは形態に違いがみられることを指す。
 その違いの程度、すなわち正常細胞からどれだけ形が異なっているかの度合いのことを異型度という。
 異型性は、細胞レベルに違いがみられる細胞異型と、細胞の配列の乱れや組織の構築に違いがみられる
 構造異型とに分けて評価することがある。
 一般的には、両者を総合的に判定することが多い。
 良性腫瘍は一般的に異型性が乏しく、異型度が低い。
 これに対し悪性腫瘍(癌や肉腫)は一般的に異型性が目立ち、異型度が高い。


補足2:異形成(Dysplasia)とは

  異形成は、がんが発生する前段階で異型度の弱い病変が先行してみられる状態、すなわち
 「前がん病変」のことを指すことが多い。
 「前がん病変」には、良性・悪性の区別が難しく、臨床上もすぐには進行しないような病変が含まれる。
 例として、子宮頚部に発生する異形成が挙げられる。


蛍光観察について 
  原理

 健康な細胞にはFAD補酵素が存在し、このFAD補酵素が蛍光物質であると考えられている。
 上皮異形性やがん細胞においては、細胞の代謝が活性化しFAD補酵素が減少するため、自家蛍光が低下し、暗色となる。

    上皮異形性やがん細胞 : 細胞の代謝が活性化↑⇒FAD補酵素が減少⇒自家蛍光が低下⇒暗色化(FVL)

 また、正常なコラーゲン架橋構造もFAD同様に蛍光物質であると確認されているが、がんの浸潤により
 架橋構造が破壊されると自家蛍光が低下するため暗色に見える。


深達度

 口腔内蛍光観察装置は、肉眼では判別が難しい粘膜異常の確認などには非常に有効である事が確認されているが、
 照射される青色光が到達する深度はおよそ3−4mmまでであるとされる。
 そのため、顎骨の異常や、厚い白板で覆われた部位などは青色光が到達しないため蛍光に変化は
 認められないことが報告されている。


観察方法

 @室内の照明を落とした状態での使用
    蛍光灯などの光が多く存在する場合、正確な病変の描出ができない可能性があります。

 A口腔内蛍光観察装置は、口腔内から約8cm〜10cm離した状態で観察を行う
    距離が近すぎたり、遠すぎる場合は写真撮影の際に焦点が合いにくい可能性がある。
    また、歯牙は強い白色反射(ハレーション)を起こす。
    歯肉などの比較的、歯牙に近い部分を観察する場合ハレーションが強く観察し難い場合もある。 


観察時のポイント

 @炎症性病変との鑑別を考える
    咬傷や口内炎などの場合、ターンオーバーの期間を考慮し回復傾向の有無を確認。

 A対称部位に同様のFVLがないか確認する
    対称部位にFVLが確認出来る場合は、比較的良性の可能性が高い。

 B口腔がんの好発部位との関係性を考慮する
    FVL病変の部位と、口腔がんの好発部位を考慮し少しでも疑わしい場合は、精密検査の実施が必要。

 C良性病変との鑑別をすることが重要
    出血などを伴う病変の場合、ヘモグロビンの働きによりFVLとして観察される。

 D他の検査方法(視診・触診・擦過診・細胞診・組織診など)と合わせて診断する
    口腔内蛍光観察装置での感度、特異度はともに100%ではない。
    口腔内蛍光観察装置はスクリーニング機器として使用すること。
    視診や触診での所見と異なる場合には、必ず他の検査方法と併用する。


蛍光観察の実際 
 
 蛍光観察装置での観察画像
 「The Utility of Optical Instrument "Oralook " in the Early Detection of High-Risk Oral Mucosal Lesions.」
 MORIKAWA・T、KOSUGI・A SHIBAHARA・T  Anticancer Research 39:2519-2525 2019
から引用

 A:通常の口腔内写真
    右舌縁部に悪性疾患が存在。

 B:蛍光観察画像
    同部に暗色領域(FVL)が観察される。

 C:病変部と健常部の比較
    健常部は明るく、病変部では暗色領域(FVL)が観察される。

 D:解析ソフトを利用したデジタル画像

    

 Figure 1.
    In subjective evaluations, oral photographs and Fluorescence visualization (FV) images are compared (A),
    to evaluate FV retention or FV loss (FVL) in lesions (B). The region of interest (ROI) of the lesion is defined as
    the area of FVL. The control ROI is set in a sub-site of the same oral cavity in the normal mucosa in front of
    the lesion and without FVL (C). The state of the lesion ROI is expressed as a surface plot (D).


実際の症例1:蛍光撮影陽性(FVL)で悪性疾患であった症例 
 
 症例1:65歳女性 
 「The Utility of Optical Instrument "Oralook " in the Early Detection of High-Risk Oral Mucosal Lesions.」
 MORIKAWA・T、KOSUGI・A SHIBAHARA・T  Anticancer Research 39:2519-2525 2019
から引用

 右舌縁部に非均一型白板症と扁平上皮癌が存在。 
 蛍光撮影で右舌縁部に暗色部(FVL)が観察される。 

 
  Figure 2.
    
The case of squamous cell carcinoma (SCC) of a 65-years-old female with leukoplakia lesion on the right
    tongue. In clinical finding, non-uniform leukoplakia lesion on right tongue is observed. On surface plot, a reduction in            non-uniform and uneven luminance is shown. In FV images, non-uniform FVL is observed. In objective evaluation, area is        200,306 pixels, luminance value (LV) is 60.5 cd/m2, standard deviation of luminance (SD) is 16.6, and coefficient of
    variation of luminance (CV) is 0.27, and luminance ratio (LRatio) is 62.7%.


実際の症例1:蛍光撮影陽性(FVL)で、良性疾患であった症例 
 
 症例1:74歳 男性
    平成30年2月、義歯不適合を主訴に当院を受診した。
    この時から左右)頬粘膜にレース状の白色病変を認めていましたが、さらにその2年前にも他の病院歯科で
    義歯に寄る擦過痕の疑いにて加療されていた。
    義歯新製と併せて、以後定期的に経過を追っていた。
    平成5月初旬から、左)頬粘膜部に軽度の膨隆を認めるようになった。
    6月10日、Oralookによる蛍光観察を行ったところ、膨隆部がやや陽性反応を示した。
    左右)頬粘膜白板症 左頬粘膜腫瘍(疑い)にて鳥取大学医学部口腔外科へ紹介。

    組織病理検査では悪性所見はなかった。
    異形成の少ない白板症として、経過観察となった。

      


その他、正常(FVR)と考えられた症例 
  症例1:臨床診断 血管腫

 血管腫は良性疾患である。
 やはり蛍光観察では正常(FVR)であった。

      

症例2:舌下部 白板症(疑い)

       


 
参考資料 
 
「The Utility of Optical Instrument "Oralook " in the Early Detection of High-Risk Oral Mucosal Lesions.」
MORIKAWA・T、KOSUGI・A SHIBAHARA・T  Anticancer Research 39:2519-2525 2019





 お口大全TOPへ

copyrightc 2021 YDC all rights reserved


mail:mail:info@aofc-ydc1.sadist.jp