フレイル |
フレイルとは |
フレイルとは、健常から要介護へ移行する中間の段階と言われています。
2014年に日本老年医学会が提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」から取った言葉です。
健康な状態と、要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。
適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があります。
厚生労働省研究班の報告書では「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態です。
一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」されており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。
多くの方は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが、高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。
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フレイルの原因 |
フレイルは、以下のような加齢に伴う心身の変化と社会的、環境的な要因が合わさることにより起こります。
加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少
身体機能の低下(歩行スピードの低下)
筋力の低下
認知機能の低下
易疲労性や活力の低下
慢性的な管理が必要な疾患(呼吸器病、心血管疾患、抑うつ症状、貧血)にかかっていること
体重減少
低栄養
収入・教育歴・家族構成など
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フレイルの疫学 |
Weiss らの報告(2001年)
地域在住高齢者におけるフレイルの頻度は 7〜10% とされています。
Walstonらの報告(2006年)
75 歳以上の高齢者におけるフレイルの頻度は 20〜30% で あり,年齢とともにその頻度は増加することが示されて います。
したがって,加齢はフレイルのきわめて重要な 要因であり,社会の高齢化とともにフレイルの頻度が増 加することが予想されます。
わが国における Shimada らの報告(2013年)
地域在住高齢者における Fried の定義を用 いたフレイルの頻度は 11.3% であった(平均年齢 71 歳)とされています。
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フレイルになった場合の特徴 |
死亡率の上昇や身体能力の低下が起きます。
また、何らかの病気にかかりやすくなったり、入院するなど、ストレスに弱い状態になっています。
例えば健常な人が風邪をひいても、体の怠さや発熱を自覚するものの数日すれば治ります。
しかし、フレイルの状態になっていると風邪をこじらせて肺炎を発症したり、怠さのために転倒して打撲や骨折をする可能性があります。
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フレイルの基準 |
Friedが提唱した基準には5項目あります。
フレイル =3項目以上該当
プレフレイル=1または2項目だけの場合。
1:体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少。
2:疲れやすい−何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる。
3:歩行速度の低下−測定区間の前後に1mの助走路を設け、測定区間5mの時を計測する。1m/秒未満の場合。
4:握力の低下−利き手の測定で男性26s未満、女性18s未満の場合。
5:身体活動量の低下−運動・体操はしていないと回答した場合。
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フレイルの予防 |
適切に予防すれば日頃の生活にサポートが必要な要介護状態に進まずにすむ可能性があります。
そのため、フレイルの予防にはフレイルのメカニズム(フレイルサイクル)を良く理解し、正しい介入方法を行う必要があります。
フレイル予防のポイント
1:適度な運動を習慣にする。
2:バランスのよい食事を心がける。
3:外出や人と接する機会を増やす。
4:8020運動 長く自分の歯を残す。
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フレイルサイクル |
サルコペニア
サルコペニアとは、筋肉量が減少し、歩行速度が低下しているような状態を指します。
サルコペニアには、加齢によるサルコペニアと、病気に伴って起きるサルコペニアがあります。
ロコモ
ロコモティブシンドロームとは、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義されます。
ロコモは筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった自分一人で移動することに
何かしら支障が起きている状態のことです。
フレイルサイクル
まず加齢や病気で筋肉量が低下しサルコペニアを起こすと身体の機能が低下します。
具体的には足の筋肉量低下により歩行速度が落ちたり、疲れやすくなるため全体の活動量が減少します。
全体の活動量が減少すると、エネルギー消費量が減り、必要とするエネルギー量も減少します。
わかりやすくいうと、動かないとお腹が空かないので食欲もなくなります。
加齢による食事量の低下に加えて、食欲低下もあると慢性的に栄養不足の状態になります。
慢性的な低栄養の状態は、サルコペニアをさらに進行させ、筋力低下が進むという悪循環へ陥ります。
この悪循環を適切な介入によって断ち切らないと、フレイルサイクルを繰り返し要介護状態になる可能性が高くなります。
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フレイルの診断方法 |
診断基準 |
評価基準の5つの項目のうち、
3項目以上該当した場合をフレイル、
1〜2項目該当した場合を前フレイル(プレフレイル)
該当項目が0の場合は健常となります。
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評価項目 |
評価基準 |
1.体重減少 |
「6か月間で2〜3s以上の(意図しない)体重減少がありましたか?」に「はい」と回答した場合 |
2.倦怠感 |
「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」に「はい」と回答した場合 |
3.活動量 |
「軽い運動・体操(農作業も含む)を1週間に何日くらいしてますか?」及び「定期的な運動・スポーツ(農作業を含む)を1週間に何日くらいしてますか?」の2つの問いのいずれにも「運動・体操はしていない」と回答した場合 |
4.握力 |
利き手の測定で男性26s未満、女性18s未満の場合 |
5.通常歩行速度 |
(測定区間の前後に1mの助走路を設け、測定区間5mの時を計測する)1m/秒未満の場合 |
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネットより引用
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フレイルチェックの方法 |
東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授によって、「フレイルチェック」が考案されました。
フレイルチェックは大きく分けて、簡易チェックと総合チェック(深掘りチェック)の2つで構成されています。
簡易チェック:指わっかチェック イレブンチェック
総合チェック(深掘りチェック)
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簡易チェック |
1:指輪っかテスト
指で輪っかをつくり、ふくらはぎを囲んでチェックする。
両手の親指と人差し指で輪をつくる
利き足ではない足のふくらはぎの一番太いところを囲む |

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2:イレブンチェック |
設問4、8、11の質問は「はい」「いいえ」が反転しています。
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1 |
ほぼ同じ年齢の同性と比較して健康に気を付けた食事を心がけていますか |
はい |
いいえ |
2 |
野菜料理と主菜(お肉またはお魚)を両方とも毎日2回以上は食べていますか |
はい |
いいえ |
3 |
「さきいか」、「たくあん」くらいの固さの食品を普通に噛み切れますか |
はい |
いいえ |
4 |
お茶や汁物でむせることがありますか |
いいえ |
はい |
5 |
1回30分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施していますか |
はい |
いいえ |
6 |
日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか |
はい |
いいえ |
7 |
ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速いと思いますか |
はい |
いいえ |
8 |
昨年と比べて外出の回数が減っていますか |
いいえ |
はい |
9 |
1日に1回以上は、誰かと一緒に食事をしますか |
はい |
いいえ |
10 |
自分が活気に溢れていると思いますか |
はい |
いいえ |
11 |
何よりまず、物忘れが気になりますか |
いいえ |
はい |
回答欄の「いいえ」、(4)(8)(11)は「はい」の項目に多くチェックがついた場合は注意です。
栄養の項目に「いいえ」が多い方 栄養に要注意
口腔の項目(3)「いいえ」、(4)「はい」の方は 口腔に要注意
運動の項目に「いいえ」が多い方 身体活動に要注意
社会性・こころの項目に(8)・(11)「はい」、(9)・(10)「いいえ」の方 社会参加に要注意 |
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深掘りチェック |
身体面や口腔機能、社会面、精神面を詳しく評価できる「総合チェック(深掘りチェック)」があります.
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公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネットより引用
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フレイルの治療法 |
フレイルの主な原因にサルコペニアと低栄養があげられます。
サルコペニア対策には骨格筋の形成・維持に必要なタンパク質を十分に摂取する必要があります。
特に骨格筋の基となり、タンパク質の合成を促し、分解を抑制して筋肉の形成を促す必須アミノ酸のロイシンが注目されています。
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持病のコントロール |
糖尿病、高血圧、腎臓病、心臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患などの慢性疾患がある場合、まず持病のコントロールをすることが必要です。
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運動療法 |
サルコペニア、筋力低下に対しては、高齢者であっても運動療法によって筋力が維持されます。
スクワット、上体起こし、ランジ、
ベッドの上で足の運動、
椅子に座ったり立ち上がったりの繰り返し、
歩行距離を徐々に延ばしていく、 など。
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栄養療法 |
低栄養状態で運動を行っても筋肉がつかないどころか、低栄養状態を助長してしまいます。
筋肉をつけるために必要な良質なタンパク質を摂れるような食事指導をします。
1日の適切なエネルギー量の食事を1日3回に分けて摂ること
主食、主菜(肉・魚・卵・大豆製品)、副菜(野菜・キノコ・海藻類)、牛乳・乳製品、果物をバランスよく摂ること
筋肉の素となるタンパク質(肉・魚・大豆製品)と、骨を強くするカルシウム(牛乳・乳製品・小魚)を含む食品を積極的に摂ること
十分な水分を摂ること、など。

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感染症の予防 |
免疫力が低下していることが多いためインフルエンザや肺炎にかかりやすいといわれています。
日頃から適度な運動やバランスのよい食事などにより感染症に強い体作りをする、
インフルエンザワクチンや、肺炎球菌ワクチンを接種しておく、 など。

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参考資料 |
『患者さんのためのオーラルフレイルと口腔機能低下症の本』
『お口だって老化するんです―歯科の新しい病気「口腔機能低下症」かも』
「フレイルの意義 」 荒井 秀典 日老医誌 2014;51:497―501
「高齢者とフレイル 一超高齢社会におけるフレイルケアに関する一考察」 岩崎房子 鹿児島国際大学福祉社会学部論集第36巻第2号
「高齢者におけるフレイルとサルコペニアを理解する」 森 直治 老年歯学 2017;第32巻 第 3号
「口腔機能・栄養・運動・社会参加を総合化した 複合型健康増進プログラムを用いての 新たな健康づくり市民サポーター養成研修マニュアルの考案と検証
(地域サロンを活用したモデル構築)を目的とした研究事業」 東京大学 高齢社会総合研究機構 主任研究者 飯島 勝矢 2016 健康長寿ネット
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