ダウン症候群 (Down Syndrome) |
1:概念
(1)特徴
特有の顔貌や、先天性心疾患、消化器疾患、免疫系・内分泌系の不全、白血病、アルツハイマー病など、
多くの症状を様々な頻度で伴うことで知られる症候群です。
精神遅滞はほぼ全ての患者で発症します。
ヒトで生存しうる最も頻度の高い染色体異常です。
21番染色体のすべて、あるいは必須領域(Down
syndrome critical region)の過剰な複製で生じると言われています。
(2)歴史
1866年:英国の医師JohnL.H.Down(1828〜1896)が、よく似た顔貌で知的能力障害のある人について報告しました。
1959年:フランスのJ.Lejeune (1926〜1994) が、21番染色体のトリソミーが原因であることを報告しました。

2:疫学
出生頻度 700〜1000人に1人。
統計的に母親の年齢に比例して発生率が上昇します。
25歳未満で2000分の1 35歳で300分の1 40歳で100分の1.
日本での患者数はおよそ5万人。

3:症状・症候
(1)全身的特徴
発育遅滞、低身長、肥満傾向、短頸、短い手足、筋緊張低下、短い手指、などが挙げられます。
@特徴的顔貌
短頭扁平後頭、内眼角賛皮、眼瞼裂斜上、凹んだ鼻堤、耳介の変形(小さな耳や耳介低位)、
眼間開離を示します。
A早期老化傾向
30歳過ぎより皮膚乾燥、弾力性消失、白髪や疎な頭髪などがみられます。
B性格
陽気で人なつこいが、ときに頑固です。
C不妊
男性の場合、モザイク型を除きすべて不妊となります。
女性の場合多くは妊娠が可能であるが、多くは自然流産となります。
(2)合併症
@知的能力障害(100%)
平均して8 - 9歳の精神年齢に対応する、軽度から中度の知的障害です。
それぞれのばらつきは大きく、かなり個人差があります。

補足1:知的能力障害
A先天性心疾患(50パーセント)
心内膜床欠損症、心室中隔欠損症、肺高血圧症 などが多く認められます。
B消化管奇形(12%)----十二指腸狭窄・幽門狭窄、鎖肛など。
1)先天性食道閉鎖 :食道が途中で途切れていてミルクが飲めない病気です。

2)鎖肛(直腸肛門奇形) :肛門が開いていない ・肛門が小さな穴(瘻孔) ・肛門の位置がずれている病気です。

3)ヒルシュスプルング病(巨大結腸症)
結腸(大腸)の神経の異常や何らかの炎症性疾患などが原因となって結腸の蠕動運動が正常に行われず、
腸が大きく膨らむ病気のことです。
腸管神経系の先天性欠損があり、 機能的腸閉塞(先天性の腸閉塞疾患)です。

C眼症状
眼の屈折異常(近視・遠視・乱視)、 白内障。
DHBs抗原陽性率が高い
何らかの原因で、抗体が出来にくいと考えられています。

E頸椎の亜脱臼(10〜30%)
環軸椎が不安定で、脱臼を起こしやすい。
頸椎の第1番目の環椎が前方へずれる不安定な状態があると、脊髄(せきずい)が圧迫・損傷されて、
脊髄麻痺症状が出現します。
軸椎不安定性が有るときには、頸椎の亜脱臼に注意をします。
枕を入れたりしないで、頭や首を前にまげないようにします。

Fその他
難聴、急性白血病、一過性骨髄異常増殖症、点頭てんかん(40歳以降)が見られます。
手掌単一屈曲線(猿線)、多指症、合指症なども散見されます。.

若年期の急激退行、40歳以降のAlzheimer病、が高率に発症します。
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ダウン症候群の口腔機能と口腔ケア |
1:口腔機能
(1)歯科的特徴
@歯の特徴
歯の先天欠如、倭小歯(永久歯)、 円錐歯(上顎側切歯)、短根歯、上顎側切歯先天欠損。
永久歯のエナメル質と象牙質は、カルシウム含有垂が少ないなどの特徴が有ります。
A顎骨の特徴
上顎劣成長による狭口蓋、反対咬合と交叉咬合、空隙歯列や叢生が多い。
B軟組織の特徴
大舌、舌突出、溝状舌、
筋緊張低下による開口、および口唇の乾燥がみられます。
Cう蝕・歯周病
う蝕の発症率は10歳代で相対的に少なく、20歳代で健常者と差がありません。
他方、早期発症型の急速進行性歯周炎に雁患しやすく、永久歯の早期喪失の原因となります。
D摂食機能
幼児期に摂食機能の発達遅滞がみられます。
2:口腔機能管理維持と口腔ケアに関する注意点
全身的には、知的能力障害と先天性心疾患への対応が主体となります。
歯周炎予防のため、幼少期からのプラークコントロールと定期検診が重要です。
補綴や矯正処置では、ブリッジや義歯の支台歯として,あるいは矯正力に短根歯が耐えられるかが問題となります。
環軸椎(亜)脱臼のリスクが高いため、頭や首を前屈したり、頸椎に強い衝撃を加えないよう注意して下さい。
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参考資料 |
スペシャルニーズデンティストリー
ダウン症の全てが分かる本
ダウン症ハンドブック
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