お口大全 (お口の機能と口腔ケア)   All the Oral-functions and Care
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各種の難病について


    
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難病について

難病について
    詳細は、「難病総論」


口腔領域に関連がある難病
  T:炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel diseases)     
      T-A:潰瘍性大腸炎(UCulcerative colitis)    
      T-B:クローン病病(CD:Crohn disease)   

  U:特発性拡張型心筋症(IDCM:idiopathic dilated cardiomyopathy)

  V:全身性工リテマトーデス(SLE:systemic lupus erythematosus)

  W:サルコイドーシス(SA:sarcoidosis)


T:炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel diseases)  
1:概念  
    炎症性腸疾患(IBD)は    
       潰瘍性大腸炎(UC:ulcerative colitis)    
       クローン病  (CD:crohn disease)  の2疾患で構成されます。  
    
    根治的治療法はなく、難治性疾患として再燃と寛解を繰り返す疾患です。  
   

2:疫学  
    IBDの有病率は約0.5%.世界的に増加しています。 
    日本でも. 2014年時点でUCが17万人以上. CDが4万人以上登録されています。  
    発症年齢ピークは15〜25歳と若年者に多いため、就学や就職におけるQOL低下が問題となります。


3:原因  
    原因不明の腸の慢性炎症性疾患です。 
    原因は不明ですが、遺伝的素因、腸内細菌、環境因子など多因子性の腸管粘膜の免疫異常により発症すると
    考えられています。      


4:UC、CDの症状  
    IBDは静脈血栓症のリスクファクターです。
   
(1)UC
    主病変は大腸にある.  
    症状は下血、血便、下痢などです。
 
(2)CD
    口から肛門まで広範囲に病変が出現し、縦走潰瘍の形成が特徴です。  
    症状は腹痛、下痢、特徴的な肛門病変、体重減少、発熱などです。

    


5:UCCDの治療  
    IBDは根治的な治療法がなく、寛解の導入・維持が治療目標とされています。  
    アミノサリチル酸製剤(メサラジン)、ステロイド、免疫調整剤(アザチオプリン)などが用いられます。  
    改善しなければ外科手術が実施されます。  
    TNF阻害薬であるインフリキシマブの有効性は高い.  
    その他の生物学的製剤も開発中です。


6:IBDと歯科医療
(1)歯科的特徴
  
 @UCとCD
    口腔病変はUCに比べてCDに多く、小児に著しいとされています。   

 Aおもな口腔病変     
    口腔粘膜の敷石状潰瘍     
    縦亀裂を伴う口唇腫脹など.      
    成人CDの口腔病変は2050%になり、UCでは10%程度に認められます。 

      


(2)IBDと歯科治療  
 @口腔内病変への治療    
    口腔病変に対しては抗菌性含嗽剤(クロルヘキシジンなど)    
    副腎皮質ステロイドが有効.

 A歯科治療時の注意事項    
    歯科治療は寛解期に行うのが望ましい.      

  1)ステロイド使用患者      
    ステロイドカバーは、抜歯などでは不要である.        

  2)抗菌剤      
    免疫抑制剤服用患者の病巣感染予防として、抗菌薬投与が有用という科学的根拠はない.      
    しかし、健康成人における智歯抜歯後の局所感染予防に抗菌薬が有用というエビデンスは存在する.      
    このため、免疫抑制状態における局所感染予防には抗菌薬が有用である可能性は高いと思われます。      
    予防的抗菌薬投与を行うか否かは患者の全身・局所的な状態耐性菌などの有害作用を考慮.        

  3)鎮痛      
    NSAIDsは寛解期のUCを再燃させるため、投与は避けるべきとされて居ます。      
    アセトアミノフェンを勧めています。


 
U:特発性拡張型心筋症(IDCM:idiopathic dilated cardiomyopathy)
1:概念   
(1)特徴
    特発性拡張型心筋症(IDCM)は,明らかな冠状動脈疾患を伴わない心筋拡張と、それによる心臓ポンプ機能の障害
    と定義されています。      

(2)原因
    IDCMの原因は不明であることが多いが,20〜35%は家族性でです。

2:疫学  
(1)発症頻度
  
    IDCMは心筋症のなかで最も多く、 成人における発症率は10万人中5.5症例です。   
    有病率は10万人中36症例と報告されています。   
    日本における有病率は10万人中14症例。   
    しかし.無症候性を含めると実患者数ははるかに多いといわれています。    
    年齢的には18〜50歳に多く,男性に多い(男性:女性=2.5 : 1)      

(2)予後    
    IDCMは心不全の第3位の原因とされ、最終的には重症心不全となります。    
    心臓移植なしでの予後は不良で,診断後5年生存率は約50%と低い.    
    死因は突然死あるいは心不全です。  


3:症状
(1)拡張型心筋症の特徴   
    拡張終期径の上昇を伴う左心室の拡大が特徴です。   
    左心不全による低心拍出状態と肺うっ血や不整脈による症状を特徴とし、病期が進行すると両心不全による
    臨床症状をきたします。

    

(2)主症状    
    呼吸困難、易疲労感、動悸、失神、不整脈など。   
    心拡大と心不全徴候。     
    頻脈、脈圧小、皮膚の蒼白、頸静脈の怒張、浮腫、     
    肝腫大、肝拍動、腹水、など


4:治療  
    心不全に対する対症療法が中心となります。    

(1)薬物療法   
    利尿薬、強心配糖体,アンジオテンシン変換酵素阻害薬, β遮断薬,抗凝固薬,不整脈用薬など。  

(2)外科的治療
    薬物治療により改善しない場合には、左室形成術、補助人工心臓(VAD)、心臓移植が適応斗なります。   

(3)不整脈に対しては
    植込み型ペースメーカー ICD(植込み型除細動器)。  

(4)重症心不全には   
    CRT-D(両室ペーシング機能付き植込み型除細動器) も用いられます。   
    日本では心臓移植待機期間が3〜5年と長い.   
    そのため、VAD植込み症例は増加しており、歯科外来への来院も少しずつ増えています。


5:IDCMと歯科医療
(1)歯科治療時の一般的注意事項
  
    心不全および不整脈に注意を要します。
    IDCM患者は専門の医療機関への紹介が勧められます。   
    歯科治療時には心電図,血圧,酸素飽和度のモニタリングは必須です。  

(2)重症心不全の場合
    重篤な心室性不整脈, ICD, CRT-Dが植え込まれている症例では、アドレナリン含有の局所麻酔薬は避けます。   
    歯科治療は短時間で終了させる必要があります。   
    重症心不全ではリクライニング位が望ましいとされています。   
    体位変換では,低血圧に注意し、ゆっくりと顔色・表情を確認しながら行います。    

(3)ペースメーカー. ICD.CRT-Dなどが植え込まれている場合   
 @電磁障害(電気メス,鍼通電治療器など)   
 Aメインテナンスの確認(手帳碓認など)   
 B植込み部分に圧力をかけない   
 Cめまい、ふらつき、動悸などの訴え、異常な頻脈・徐脈が認められた場合は、ただちに電磁波を発生する機材を患者から
   遠ざけ、専門医に連絡します。    

(4)ICD、CRT-D植込み患者で電気的除細動が発生した場合   
    早急に専門医を受診させます。  
    VAD(補助人工心臓)では医師と十分に協議し,心電図モニタリング下に慎重に歯科処協を行います。   
    上記の不整脈デバイス関連の注意に加えて、デバイス感染、抗凝固薬療法などへの医学的配慮が必要です。


V:全身性工リテマトーデス(SLE:systemic lupus erythematosus)
1:概念
(1)全身性エリテマトーデス(SLE)とは
  
    臓器に障害をもたらし致命的となりうる自己免疫疾患です。    
    発症後は再燃と寛解を繰り返し慢性的に移行します。   
    症状は軽症なものから重篤なものまで多彩です。

(2)発症機序   
    複合的な要因で発症する自己免疫疾患です。  
    遺伝子、環境因子、ホルモン、非遺伝因子、免疫調整因子が連続的あるいは同時に免疫システムに作用し、自己抗体、
    免疫複合体、炎症性T細胞、炎症性サイトカインが産生され,各臓器の炎症が発現・増幅され、臓器障害をもたらすと
    考えられています。   
    
    


2:疫学
(1)発症率ならびに有病率
  
    地域により異なります。   
    米国の有病率は人口10万人あたり52.2人。   
    わが国では人口10万人あたり28.4人と報告されています。    

(2)性差   
    男性:女性=1:9 思春期から閉経前までの女性に多い。    

(3)SLE患者の死亡リスク   
    非SLE患者の2〜5倍で、10年生存率は92%と推定されています。   
    SLEはすべての臓器に障害を与え,死亡リスクを上昇させます。   
    最も多い死因は心血管系疾患です。   
    そのほかには感染症が重要な因子です。


3:症状
(1)皮膚症状   
 @蝶形紅斑
    
    顔に蝶のような形が出現する湿疹です。     
    鼻筋を蝶の体に見立てると、ちょうど蝶が左右に羽を広げたような形を認めます。

    

  A円板状紅斑    

 B光線過敏症     
    強い紫外線を浴びた後で皮膚に発疹や水ぶくれが出てしまう症状です。     

 C脱毛
    半数以上に認められます。     

(2)関節痛や関節炎   
    関節痛、関節炎は特に病初期に頻度の高い症状で、左右対称に多関節に生じます。   
    原則として関節リウマチのように変形をきたすことはありません。    

(3)ループス腎炎   
    ループス腎炎はSLE患者の40〜70%に発症します。  
    腎不全となるリスクが高く、死亡率を有意に上昇させます。

   


4:治療
(1)内科的治療   
 @抗炎症薬

    ステロイド、NSAIDs、免疫調整剤(ヒドロキシクロロキン)      

 A免疫抑制剤     
    アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、タクロリムス、シクロフォスフアミド、など     

 B生物学的製剤     
    免疫担当細胞(B細胞, T細胞)やサイトカイン(インターフェロンα)を標的とした製剤.     
    2011年に米国でbelimumabがSLE治療薬として承認されています。  


5:SLEと歯科医療
(1)口腔内症状
  
    口腔内潰瘍は40%以上に認められます。   
    多くは無痛性で,硬口蓋、口腔前庭などに出現します。   
    口腔乾燥症候群(sicca syndrome) としてドライマウスとなる場合があります。    
    口腔衛生状態は一般に不良です。

(2)歯科治療時の一般的注意事項   
    歯科治療では,重要臓器障害と投与薬剤の選択がポイントとなります。     
   
 @心血管系疾患     
    合併疾患により対応が異なります。   

 A腎障害患者     
    クレアチニンを確認し.、e-GFRを算出し、投与薬剤、投与量、投与間隔を決定します。     
    血液透析患者の歯科治療は透析翌日に行います。

3)歯科治療   
 @肺炎予防

    SLEにおける口腔衛生状態と肺炎発症には有意な関連が指摘されています。 
    病巣感染のリスクは高いため、良好な口腔衛生状態の維持は重要です。   

 A口腔内潰瘍     
    一般的な対症療法(ステロイド外用薬など)を行います。


W:サルコイドーシス(SA:sarcoidosis)
1:概念
(1)サルコイドーシスとは(SA)   

    全身の臓器に多彩な病変をもたらす原因不明の肉芽腫性疾患です。

    

(2)発症機序   
    環境因子(細菌などの感染性因子.有機、無機物)と遺伝因子が相互に影響して発症します。      

2:疫学
(1)発症率
 
    日本のSA発症率は10万人あたり1.01人。 
    SAの50%は自然寛解します。  

(2)好発部位   
    SAはあらゆる臓器に発生します。  
    肺:90%、眼:40%、皮膚:30%の順。  
    そのほかに心臓(心サルコイドーシスCS)神経系にも発症します。   
    どちらも予後は不良です。

    


3:症状
(1)心サルコイドーシス(CS: Cardiac sarcoidosis)  
 
    心臓に発症したSAです。
    CSは心臓突然死につながる完全房室ブロック、心室頻拍、心室細動を合併することが多い。  
    失神,心不全.突然死をきたし、予後は不良です。   
    CSはSAの2〜7%に認められます。   
    臨床症状を欠く症例を含めると、実際には20%以上を占めるのではないかと考えられています。   
    CSは日本人のSAによる死因の85%を占めています。   
    歯科治療においても特に注意が必要となります。 

(2)肺の症状   
    多くの症例では無症状のまま経過することもあります。   
    無症状のまま放置されていくと重症な例では肺線維症になります。   
    この場合、呼吸機能が大きく障害される可能性があります。   
             
(3)目の症状   
    目に生じた場合、眼球の裏側の壁を形づくっているぶどう膜炎という状態になります。
    目のかすみ、まぶしさ、視力の低下などがみられます。

    

(4)皮膚の症状   
    顔や体幹部に痛みや痒みを伴わない赤い斑点ができます。   
    これらは、皮膚の下の皮下にもできることがあります。
    


(5)神経の症状   
    脳から脊髄、そして末梢の神経のどこにでも病変ができます。   
    全身のまひやしびれ、痛みなどが生じる.   
    顔面神経まひ、立ちくらみや排尿障害などの自律神経障害などが生じる.      


4:治療
(1)内科的治療   
 @ステロイド:第一選択
    
    プレドニゾロンとして20〜40mgで開始します。   
    反応が良好であれば10〜15mg/日に減量されます。   

 Aステロイド剤に反応しない場合      
    免疫抑制剤(メトトレキサーI、アザチオプリンなど)が使用されされます。   

 Bその他      
    抗マラリア薬、
    免疫調整薬、      
    抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブなど)
    B細胞標的治療、など。    

(2)CSの治療    
    心室性不整脈に対してアミオダロンなどが処方されます。    
    完全房室ブロックではペースメーカー、心室頻拍ではICDやカテーテルアブレーションが考慮されます。      

5:SAと歯科医療
(1)SA患者の歯科治療
  
    ステロイド、免疫抑制剤の有無、投与量を明らかにしたうえで、必要な対策を考えます。   
    さらに. CSの有無を確認し、重篤な不整脈,心不全などに対する治療薬・治療法を確認します。   
    医師と協議し、心電図を含むモニタリング下で歯科処置を行います。   
    重篤な不整脈、 ICD患者では、アドレナリンを含む局所麻酔薬の使用は避けたほうがよいとされます。



 
参考資料






  



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