流行性耳下腺炎 (Munps) |
1:流行性耳下腺炎とは
ムンプスウイルスの感染によって発生するウイルス性の感染症です。
一般にはおたふく風邪として知られています。
2:原因
パラミクソウイルス科のムンプスウイルスの感染症です。
飛沫感染、ならびに接触感染により感染します。
潜伏期間は12-25日、通常は16-18日です。

3:疫学
(1)好発年齢
2歳から12歳の子供への感染が一般的ですが、他の年齢でも感染することもあります。
(2)好発部位
通常耳下腺が関わりますが、上記年齢層よりも年上の人間が感染した場合、耳下腺、睾丸、卵巣、中枢神経系、
膵臓、前立腺、胸等、他の器官も関わることがあります。

4:症状
(1)主症状=耳下腺の腫れ
耳下腺の腫れを主症状とします。
耳下腺の腫れは3〜7日でゆっくり消失しますが、約10日に及ぶ場合もあります。
両側の耳下腺が同時に腫れる場合が多いですが、片側の耳下腺だけが腫れる場合、片方の耳下腺が腫れた後に
もう一方の耳下腺が腫れてくる場合もあります。
顎下腺まで腫れる場合もあります。

(2)その他の症状
@顔面の疼痛
発症から12 - 24時間以内に唾液腺(耳下腺)付近の有痛性腫脹があります。(60〜70%で発生)
A発熱
38〜 39℃の発熱が3 - 5日間続きます。
しかし、発熱を伴わない場合もあります。
「病気がみえる」 Vol.6 免疫・膠原病・感染症 第2版から引用
小児では約1/3が不顕性感染となりますが、成人では顕性感染となることが多い様です。
耳下腺・顎下腺・舌下線の腫脹が発現後5日経過し、かつ全身が良好になるまで出席停止となります
(3)合併症
@無菌性髄膜炎
10人に1人と合併症としては最多(40%が耳下腺の腫脹無しで発生)。
基本的に後遺症はないが稀に髄膜脳炎を伴う(6,000人に1人程度)。
A難聴(ムンプス難聴)
重篤な難治性難聴が後遺症として残ることがあります。
頻度は1万5000人に1人程度とされていることが多い。
B膵炎
反復性の嘔吐があります。
C睾丸の痛み、拡大
思春期以降に感染した男性の約20%で、精巣炎・副精巣炎を併発します。
両方の精巣が侵されることは少ないため、不妊症になることもありますが、頻度は高くないとされています。
D陰嚢腫脹
5:診断
(1)診断法
臨床診査で唾液腺の腫脹を確認します。
通常この病気は臨床症状で診断され、確定検査は必要ありませんが、一般的には血清学的診断を行います。
RT‐PCR 法でウイルス遺伝子を検出すれば、ワクチン株と野生株の鑑別ができます。
その他の臨床検査は一般に不要です。
(2)鑑別すべき診断
耳下腺炎症状を呈する他の感染症は、パラインフルエンザウイルス、コクサッキーウイルスなどによるものです。
軽度の痛みの耳下腺腫脹を繰り返し、1 - 2週間で自然に軽快します。
6:治療
流行性耳下腺炎の特効的治療法は存在しません。
対症療法が治療法となります。
唾液腺腫脹が沈静化するまで患者を隔離する。
軟らかい食物は、咀嚼による疼痛を軽減します。
酸っぱいもの(例:柑橘類の果汁)も不快感を起こすため、避けるべきです。
膵炎による反復性の嘔吐には、輸液による水分補給が必要となることがあります。
精巣炎については,床上安静および冷罨法は,しばしば疼痛の軽減につながります。
アセトアミノフェンやイブプロフェンを鎮痛のために経口投与します。
(ライ症候群発症の可能性のため、アスピリンをウイルス性疾患を持つ子供には投与しない)。
*ライ症候群(Reye's syndrome)とは
インフルエンザや水痘などの感染後、特にアスピリンを服用している小児に、急性脳症、肝臓の脂肪浸潤を引き起こし、
生命にもかかわる原因不明で稀な病気です。
(らい病とも呼ばれたハンセン病とは全く異なるものです)
7:予防
(1)ワクチン接種
弱毒化したおたふくかぜウイルス(ムンプスウイルス)を利用した生ワクチンです。
かつてはMMR(麻しん・おたふくかぜ・風しん混合)ワクチンとして定期接種として義務化されていましたが、
MMRワクチン接種中止後は任意の扱いとなっています。
任意接種であり、1歳以降の希望者に1回または2回接種します。
日本では1歳以降の1回接種が推奨され、実施されていますが、世界では2回接種が標準的です。
日本小児科学会では1歳以降早期に1回目、2回目は5〜7歳ころの2回接種を推奨しており、2012年ごろから2回接種
をする人が増えてきました。

(2)ワクチンの副反応
接種後2週間前後に軽度の耳下腺腫脹と微熱がみられることが数%あります。
重要なものとして無菌性髄膜炎があるが、約 1,000〜2,000人に一人の頻度です。
また、以前にはゼラチンアレルギーのある小児には注意が必要でありました。
しかし、ンプスワクチンからゼラチンは除かれるか、あるいは低アレルゲン性ゼラチンが用いられるようになり、
ゼラチンアレルギー児に対しても安全に接種が行われ るようになってきましたた。
(3)予防効果
ワクチン2回接種でも予防効果は完全ではないとされています。
しかし接種者での罹患は1 〜3%程度であったとする報告があります。
接種後の抗体価を測定した報告では、多少の違いがあるが、概ね90%前後が有効なレベルの抗体を獲得すると
されています。
(4)患者と接触した場合の予防策
緊急にワクチン接種を行うのは、あまり有効ではありません。
患者との接触当日に緊急ワクチン接種を行っても、症状の軽快は認められても発症を予防することは困難であると
と言われています。
有効な抗ウイルス剤が開発されていない現状においては、集団生活に入る前にワクチンで予防して おくことが、
現在取り得る最も有効な感染予防法です。
8:法的な取り扱いについて
(1)学校保健法での取り扱い(2012年3月30日現在)
流行性耳下腺炎は第二種の伝染病に属します。
耳下腺、顎下腺又は舌下線の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止と
されています。
ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りでありません。
(2)感染症法における取り扱い(2012年7月)
流行性耳下腺炎は定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所小児科定点医療機関)
は週毎に保健所に届け出なければならない、とされています。
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