お口大全 (お口の機能と病気と口腔ケア) All the Oral-functions and Care
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コミュニケ−ション法について

       
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コミュニケ−ション法
はじめに:行動調整法
 (1)行動調整法とは
     歯科診療や口腔ケアの妨げとなる患者の心身の反応や行動の表出を予防、制御し、患者・術者ともに
     できるだけ快適な環境下で、安全で確実な歯科治療が行えるよう患者の心身の状態を調整していくための
     方法です。

     参照、「行動調整法 総論」      参照、「レディネス」 


 (2)行動調整法の種類   
     【1】コミュニケ−ション法   
     【2】行動療法   
     【3】薬物的行動調整(鎮静法、全身麻酔法)   
     【4】物理的な体動の調整法   
     【5】歯科治療・口腔ケア時の工夫


 (3)コミュニケーション法とは
     障がい者、特に感覚障害(視覚、聴覚)や、精神障害認知症発達障害のある方との意思疎通を図るための
     方法です。


 (4)バリデーションとは
     アルツハイマー型認知症と類似の認知症のご高齢者とコミュニケーションをとるための方法のひとつです。
     認知症の方の言動や行動を意味のあることと捉え、認め、受け入れることをいいます。


1:視覚または聴覚障害のある人への対応
 (1)視覚障害のある人とのコミュニケーション  
  @音声言語    
     視覚障害のある人のほとんどで用いることができる.    
     声をかけるとき、先に自分から名のるなどのルールがある.    
     音声の記録には筆記や録音装置が利用される.  

  A点字    
     六つの点の組み合わせです。
     触読(指で触った感覚で文字を読みとること)できる表音文字です。 

     


  B触図    
     絵や地図などを指で触って認識できるよう異なる材質を組み合わせて立体的に作成した図の事です。 

     

  C模型の利用   
     病態や治療方法を説明するとき、臓器模型やスタディモデルなどを触ってもらう方法です。

     


 (2)聴覚障害のある人とのコミュニケーション
  @補聴器  
     音を増幅する器具で、伝音声難聴の方が適応となります。
     耳かけ型、挿耳型、箱型があります。
     雑音も増幅させるため、会話はできるだけ静かな環境で行うようにします。  

         


  A人工内耳   
     音を電気信号に変え、内耳に送る装置です。  
     人工内耳は、現在世界で最も普及している人工臓器の1つです。
     聴覚障害があり補聴器での装用効果が不十分である方に対する唯一の聴覚獲得法です。
     感音性難聴の方にも適応されます。

       


  B筆談   
     文字を書いて意思疎通をはかる方法です。   
     紙に書く、簡易筆談器のボードに書く、パソコン画面に入力するなどの方法が有ります。     
     スマートフォンなどの音声認識技術を利用するなどの方法もあります。   
     手話を用いない中途失聴者や難聴者では、最も多く利用されます。  
     なお、同じ量の情報を伝えるには,筆談では音声会話の5倍ほどの時間が必要となります。 

     


  C手話   
     手指や口の動き,表情および体の動作を同時に使う視覚言語.   
     筆談よりも手話での対応のほうが緊張や不安が少ない.   
     手話通訳者が随伴しているときでも聴覚障害のある人に顔を向けて話をすることが肝要.   

         

     指文字:指の形で五十音を表現するもので、手話にない単語に用いられる.  

     


  D口話(読話.読唇)   
     聴覚障害のある人が,話し手の唇の動きや口形を読みとって言葉を理解する方法.   
     話し手にとっては楽な方法.   
     しかし聴覚障害のある読み手にとっては神経を集中しなければならず長時間の会話には適さない.  

     


  Eその他   
     ジェスチャーやキューサイン(話し言葉を視覚化するツール)なども応用されます。

     


()視覚と聴覚に障害のある人(盲ろう者)とのコミュニケーション
   触覚と残存視力あるいは残存聴力を駆使してコミュニケーションをはからなければなりません。

   @指点字  
     盲ろう者の両手の人差し指、中指、薬指を点字タイプライターのキーに見立てます。  
     点字の仕組みを利用して軽くタッチする事で、伝えます。 

      


  A手書き文字  
     盲ろう者の手のひらに、話し手、あるいは盲ろう者の人差し指で文字を書く方法です。

     


  B音声  
     残存聴力のある場合には,音量に配慮しながら.耳元や補聴器のマイクに向かって話す.  


  Cその他  
     日本語の五十音やアルファベットの指文字を触読してもらう方法。  

     触読手話---盲ろう者に手話を触読してもらう方法。  
     接近手話---視力や視野に配慮しながら至近距離で手話を行う方法。


2:知的能力障害・自閉スペクトラム症の人とのコミュニケーションのための器材  

 (1)テクノロジーを使ったコミュニケーション支援について
     通常の話し言葉や書き言葉のほかに、補助(拡大的)代替コミュニケーションなどを応用します。 
     AT、AAC、VOCA

  @AT(Assistive Technology;支援技術)
     障害がある人の困難の軽減や代替を目的としたテクノロジー全般のことです。 

  AAAC (Augmentative and Alternative Communication:拡大代替コミュニケーション)
     まなざし,指差し(手指し)、サイン(身振りや手話)、シンボル(絵記号)、写真話し言葉、文字
     コミュニケーションエイド(補助機器)などを使って感情や意思を表現できるよう支援する手段です。 

  AVOCA(Voice Output Communication Aids;音声出力会話補助装置)
     自分の意思を相手に伝えるために使用する、 音声出力機能を備えた装置のことです。 

     


 (2)絵カード交換式コミュニケーションシステムPECSPicture Exchange Communication System)
     PECSとは、話し言葉によるコミュニケーションに重度の困難がある自閉症の子どものための
     拡大・代替コミュニケーション.   
     アンディ・ボンディ(Andy Bondy)博士とロリ・フロスト(Lori Frost)氏により考案されたものです。

          

     PECSでは自閉症の子どもが自分の要求を相手に伝えることや、コミュニケーションの自発が重視されます。
     また、その指導法は応用行動分析(ABA)と言語行動(Verval Behavior)の影響を大きく受けています。

     PECSの学習ステップは6つに分かれていて、それぞれがフェーズと呼ばれます。  

  @フェーズT コミュニケーションの自発
     子どもが絵カードを取って、正面の人の掌にその絵カードを渡すことを教えます。

  AフェーズU 絵カード使用の拡大
     子どもが自分から離れた場所にある絵カードを取って、離れた場所にいる人の掌に絵カードを渡すことを
     教えます。

  BフェーズV メッセージの選択
     複数の絵カードが貼られているコニュニケーション・ブックから絵カードを選んで使う事を教えます。

  CフェーズWa 文構文の導入
     「私が欲しいのは」、「何々」というように文構文を教えます。

  CフェーズWb 属性を使った要求の拡大
     色、大きさ、形、といった属性を含めて構文を作る事を教えます。

  DフェーズX 簡単な質問への応答
     「何が欲しいの?」に答える事を教えます。

  EフェーズY コメント
     周囲にある出来事についての質問に答える事や、自発的にコメントする事を教えます。  


 (3)TEACCH プログラム
       (Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped Children)
       (自閉症及び、それに準ずるコミュニケーション課題を抱える子ども向けのケアと教育)

  @TEACCHとは
     アメリカのノースカロライナ州立大学を基盤に実践されている、自閉症の方々やそのご家族、支援者を対象
     にした包括的なプログラムです。
     ASDの人々が持つ「コミュニケーションの困難」「視覚優位」「こだわりの強さ」などの特徴のことを、
     「自閉症の文化」Culture of Autism)と肯定的に表現します。

     TEACCHの「構造化のアイデア」   
       物理的構造化   
       個別のスケジュール化      
       ワークシステム   
       視覚的構造化

  ATEACCHとABA(応用行動分析)の違いと関係性
     ABA
       人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、実社会の諸問題の解決に応用していく理論と
       実践の体系.

     TEACCH
       ASDの人々の自立とQOL向上を目指す包括的な「支援の枠組み」であるため、厳密には比較できるものでは
       ありません。


3:知的能力障害・自閉スペクトラム症・肢体不自由あるいは重複障害のある人とのコミュニケーション
 (1)口腔ケア現場でのコミュニケーションを支援する方法  
     知的能力障害や自閉スペクトラム症の人では,聴覚的情報よりも視覚的情報のほうが伝わりやすい特徴が
     あります。

     視覚支援法やサイン(手話に似た手の動き)とシンボル(記号)を組み合わせたマカトン法なども応用されています。
 
     さらに筆談器、文字盤、意思表示のシンボルを一覧にしたコミュニケーション支援ボード、人工音声の出るキー
     を押して意思を表現する機器なども用いられます。

   マカトン法
     ことばや精神の発達に遅れのある人の対話のために、 手話法をルーツにしたコミュニケーション法です。
     手の動きによるサイン、(シンボル)、発声を同時に用いるのが特徴です。

       「日本マカトン協会」


     核語彙と呼ばれる330のことばから、個人の発達やニーズに合わせて語彙を選びます。
     生活の中で繰り返し使うことでコミュニケーションを促進します。

     マカトンサインは、手指による動作表現です。
     「バイバイ」(手を振る)、「ごちそうさま」(両手を合わせる)などのジェスチャーを使います。

     マカトンシンボルは、絵文字のような線画です。


 (2)コミュニケーションと視覚支援
  @視覚支援の考え方  
     知的能力障害や自閉スペクトラム症のある人とのコミュニケーションでは  目でみてわかりやすい素材
     (文字シンボル, イラスト,写真,実物やサインなど)が有効です。 
     視覚化は、言葉を補うコミュニケーション法として応用されています。  
     視覚支援では、場所や空間のもつ意味,予定などを目でみてわかりやすく工夫すること(=構造化)することが
     大切であるとされています。

  A構造化(structured)
     構造化とは、周囲で何が起こっているのか、そして彼らの一人ひとりの機能に合わせて何をすればよいのかをわかり
     やすく提示する方法.

   1)物理的構造化   
      生活や学習の場で、物の配置を工夫して、場所や場面の意味を視覚的にわかりやすくする方法です。

   2)スケジュールの構造化   
      予定されているスケジュールを、図や表に作成して示す方法です。

   3)ワークシステム   
      作業の内容、量、時間と、それがいつ終わり、そのあと何をするのかを具体的に示す方法です。


  B口腔ケアの現場における視覚支援の実際
     コミュニケーションに障害のある人がどのような方法に慣れているかを知ることが必要です。

   1)物理的構造化  
      パーテーションやロールスクリーンで落ち着ける環境を整える.  
      足形で立ち位置や靴を脱ぐ場所を示すなどする. 

   2)スケジュールの構造化(治療手順のスケジュール化)   
      診療前や診療中に、治療や口腔ケアの手順を視覚的素材(ジグ)で示す方法です
      自閉スペクトラム症の人の場合、器具絵カードや写真などを手順どおりに並べるます。    
      手順が一つ終われば取り除く方法がよく用いられていられます。

   3)ワークシステム   
      必要な場合には,何を、どれくらい行って、終わったら何をするのかを示すようにします。
      TSD法や正の強化子を用いたオペラント技法などと組み合わせるとより効果的な行動調整ツールとなります。  



参考資料 


 『スペシャルニーズデンティストリー障害者歯科 第2版』


 『歯科医院が関わっていくための障害児者の診かたと口腔管理


 『歯科衛生士講座 障害者歯科学 第2版 』


 『障害者の歯科治療 臨床編


 『JOHNS38巻2号2022年2月号 ここまで進化した補聴器と人工内耳診療』


 『よくわかる補聴器選び2022年版 (ヤエスメディアムック705) 』


 『絵カード交換式コミュニケーション・システム トレーニング・マニュアル 第2版 』


 『自閉症児と絵カードでコミュニケーションーPECSとAAC−第2版』


 『PriPri発達支援 絵カード5コミュニケーション (PriPri発達支援キット) 』


 『自閉スペクトラム症のある子の「できる」をかなえる! 構造化のための支援ツール 集団編』


 『自閉スペクトラム症のある子の「できる」をかなえる! 構造化のための支援ツール 個別編』





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