お口大全 (お口の機能と病気と口腔ケア) All the Oral-functions and Care
mail:info@aofc-ydc.com

脊髄損傷について

       
トップページ お口の働き お口の病気 摂食嚥下障害  お口から入る病気  口腔ケア 


脊髄損傷 (Spinal Code Injury)
1:概念   
(1)脊髄
    脊髄は長い管状の構造物で、脳幹の下端から脊椎の一番下近くまで続いています。
    脊髄にある神経は、 脳と他の部位との間でやり取りされるメッセージを伝達します。
    脊髄はまた、膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)などの反射の中枢でもあります。
       頸髄:C1〜C7
       胸髄:Th1〜Th12
       腰髄:L1〜L5
       仙髄:S1〜S5
       尾髄:C1〜CまたはC1〜C5

    


(2)脊髄の構造
 @脊椎骨
    頭蓋骨後頭骨にある大後頭孔より下降し、骨盤に至ります。
    脊椎は、頸椎7椎、まれに8椎)、胸椎(12椎)、腰椎(5椎)、仙椎(5椎)および尾椎(3-6椎)の約30個の椎骨から形成
    されています。
    骨と骨は関節でつながっており、その間にはクッションの役割をする椎間板があります。

 @脊髄の断面
    縦走する神経細胞で構成される白質が、神経核(神経細胞体の集まり)である灰白質を囲む構造となっています。
    なお、逆に脳では灰白質が白質を囲む構造となっています。

      


(2)脊髄損傷とは       
    脊椎の脱臼や骨折によって脊髄が圧迫されることによって起こります。
    脊椎の骨折、脱臼、圧迫により、脊髄の機能が損傷した状態です。

    完全麻痺と不全麻痺があります。
    損傷された脊髄から遠位の運動・知覚の障害がでます。
    完全麻痺では下肢が全く動かず(頚椎では四肢が全く動かない)、感覚もなくなります。

      


2:病因と病態
(1)原因   
 @外傷    
    多くが外傷によって発症します。
       交通事故---43.7%,    
       転落-------28.9%、    
       転倒-------12.9%、など


(2)脊髄損傷による障害   
    運動麻痺と感覚障害を主として、呼吸・循環機能にまで波及します。
    身体活動量が制限されている場合が多く有ります。。  


(3)機能障害の重症度評価法
 @米国脊髄損傷協会(ASIA:American Spina-lnjury Association)の評価法
  A )完全麻痺
      仙骨分節S4〜5に感覚または運動機能が残存していない状態です。

  B )感覚不全麻痺
      運動機能は麻痺しているが、感覚は神経学的レベルより下位に残存し、S4?5の仙骨分節を含み
      (S4〜5 の触覚またはピン刺激 、もしくは深部肛門内圧検査に反応する)、かつ体のいずれかの側面で、
      運動レベルより3レベルを超えて低い運動機能が残存しない状態。

  C)運動不全麻痺
      随意肛門収縮(VAC)のある最尾側の仙骨分節で運動機能が残存する、または、患者は 感覚不全麻痺の基準
      を満たし(LT、PP または DAP によって、最尾側仙骨部分節S4?5の大半で感覚機能が残存する)、かつ体の
      いずれかの側面で、同側運動レベルが3レベルを超えて低い運動機能が一部残存する状態。
      (これに含まれる主要または非主要筋機能により、運動不全麻痺状態を判定。)
      AISがCの場合、 単一神経学的レベルより下位の主要な筋機能の半分未満の筋肉がグレード3以上。

  D)運動不全麻痺
      上で定義した単一神経学的レベル下位での主要な筋機能の少なくとも半分(半分以上)がグレード3以上の
      筋肉を有する運動不全麻痺状態。

  E)正常
      ISNCSCIを用いて検査した感覚と運動機能が全項目で正常と評価され、患者に以前は欠陥があった場合、
      AISグレードはEです。
      初期の脊髄損傷がない場合は、AISの評価をされません。

  NDの使用
      感覚、運動及びNLI レベル、ASIA 機能障害尺度グレード、及び/又は部分的保存域(ZPP) が検査結果に基づいて
      決定できない場合に記録する。

     詳細は、「脊髄損傷の神経学的分類の国際基準」へ


 Aフランケル分類
    脊髄損傷の重症度をその人の日常生活のADLの程度を元に評価するための分類です。
    Grade AからEまでの5段階の区分があり、アルファベットがAに近いほど障害の重症度が高くなります。
    分類の方法は運動障害と知覚障害の有無により分けられます。
    従来はフランケル分類のみで区分されていましたが、さらにB、C,、D群を予後によって細分化したものを
    改良フランケル分類といいます。

   A)Complete (完全麻痺)
      一番重症度の高い分類がAです。
      仙髄の知覚(肛門周囲)脱失と、運動(肛門括約筋)の完全麻痺です。
      肛門の筋肉を自分の意思で動かすことができないことと、その周囲の感覚を元に分類されます。
      完全麻痺なので、脊髄の連続性が完全に絶たれてしまった状態で、歩くことも足を動かすこともできず寝たきり
      になってしまいます。

   B)Sensory only (知覚のみ)
      運動が完全に障害されていて、感覚の一部が残っている場合です。
      完全に運動が障害されているので、足は歩くことができないだけでなく、完全に動かすことができません。
      さらに改良F分類では、以下のように感覚がある部分によって以下のように分類されています。

      B1---仙髄領域のみ触覚残存。
      B2---仙髄領域だけでなく、下肢にも触覚が残存する。
      B3---仙髄領域か下肢に痛覚が残存している。

   C)Motor useless (運動不全)
      動不全で有用でない状態です。
      改良F分類では、下肢の筋力を徒手筋力テストという筋肉がどれくらいの力が出るのかという検査で、重力に
      逆らった動きができるかどうかを参考に分類します。

      C1---下肢筋力が1、2程度
      C2---下肢筋力が3程度

      徒手筋力テストの2と3の違いは重力に逆らって足を動かすことができるかです。
      歩くことができなくても、寝ている状態で、膝を立てることができればC2、できなければC1というように判断されます。
      また、歩くことができても、距離が10m以下であればC2と判断されます

   D)Motor useful (運動あり)
      筋力の低下や感覚障害があるものの、実用性のある運動ができる場合にはDと判断されます。
      実用性のある運動とは、例えば、歩行やトイレの動作、入浴や着替えなどの日常生活で行う運動のことです。
      F分類Dではほとんどが自力排尿ができるという特徴もあります。
      改良F分類ではどんな移動手段ができるのかなどによって、次の4つに分類されます。

      D0---急性期歩行テスト不能
      D1---車椅子を併用する
      D2---杖独歩あるいは中心性損傷例
      D3---独歩可能

   E)Recovery (回復)
      運動機能と感覚機能は正常と判断されれば、F分類Eと判断されます。
      中には身体の一部に痺れを感じる人もいるかもしれませんが、痺れはフランケル分類には含まれていないので、
      痺れていても、Eと判断されることが妥当です。


3:疫学
(1)発生頻度     
    年間平均 約40人/100万人. (年間 約5,000人)     
    脊髄損傷の約75%は頸髄損傷が占めます。  


(2)発生年齢     
    20歳代と50歳代以降に多く、二相性のパターンを示します。    
    男女比=41 (男性に多い)   


(3)好発部位     
    第5ないし第6頸椎、および胸腰椎移行部に多発します。


4:臨床症状
(1)脊髄損傷の種類  
 @完全損傷
    脊髄の機能的連絡が完全に損傷されているもの(運動と感覚がない)。
 A不完全損傷
    部分的に損傷を受け、他の部位が健全なもの(なんらかの感覚と随意運動残存)。

    


(2)脊髄損傷で生じる症状    

    


 @損傷髄節以下の運動麻痺・感覚麻痺    
    損傷脊髄以下の支配領域に運動麻痺・感覚麻痺が起こります。   

    

 A痙性麻痺
    筋肉が硬直し手足の運動ができない状態です。
    脳卒中のあとなどに現れます。
    弛緩性麻痺の反対の状態です。
    原因疾患は、脳性麻痺、脊髄損傷、脳血管障害、重症頭部外傷などです。

    

 B痙縮
    痙性麻痺とほぼ同義です。
    脊髄の神経細胞は脳との連絡を断たれると反射が亢進し、徐々に過剰に活性化します。
    脳卒中や脳性麻痺など脳の病気や、脊髄損傷やALS(筋委縮性側索硬化症)のような脊髄や神経の病気などで、
    筋肉が緊張しすぎて、手足が動かしにくい、首や背中が反ってしまう、勝手に動いてしまう状態となります。
    痙縮では、手指が握ったままとなり開こうとしても開きにくい、肘が曲がる、足先が足の裏側のほうに曲がってしまうなど
    の症状がみられる様になります。

 C自律神経障害   
    T5T6胸髄節以上の高位脊髄損傷者の麻痺域からの侵害刺激により引き起こきれる.
    おもに膀胱や直腸の充満が誘因となることが多い

    


 D高位脊髄損傷に伴う症状
    損傷箇所が上にいくほど障害レベルは高くなります。

   1)吸気不可能
      横隔神経の頸髄(C3〜C5)が障害を負うと吸気が不可能となり,人工呼吸器が必要になります。     

    

   2)副交感神経の優位
      高位脊髄損傷では、交感神経は分断されますが、迷走神経機能は残存するために副交感神経優位となります。
      徐脈と低血圧になりやすく、起立性低血圧が生じやすい.
      一方,急激な血圧上昇と頭痛にも注意が必要です。

   *)補足:交感神経
      交感神経の中枢は脊髄にあります。
      脊髄の両側には交感神経幹が走っており、脊髄から出た神経繊維はここに入って、各臓器へ分布しています。

    

   *)副交感神経
      副交感神経は脳幹(中脳・橋・延髄)と仙髄から伸び、顔面神経や、迷走神経として腹部内臓などに分布して
      います。


 E排尿・排便機能障    

 F褥瘡形成    
    寝たきりなどで体位変換が充分に行われないと、褥瘡が生じます。


5:脊髄損傷と医療
(1)受傷直後の治療
    メチルプレドニゾロン大量投与.   
    整形外科的治療.

(2)回復期治療   
    セルフケア能力の獲得を含めたリハビリテーション 



脊髄損傷と歯科医療
1:口腔の特徴  
(1)脊髄損傷患者に特有の口腔所見
    脊髄損傷患者に特有の口腔所見は有りません。
    場合により咬耗、咬合性外傷(マウススティック使用)が認められます。
 

(2)う蝕と歯周病
    発症後の口腔衛生管理が不十分であれば歯周疾患やう蝕の重症化を招くことになります。
    障害の程度によっては、口腔衛生に関する自立に向けた指導を行います。
    四肢麻輝の患者では上肢機能が使えませんので、マウスピースやマウススティックを使用して機器の操作を行うことが
    多くなります。
    マウスピース装着による口腔の衛生管理について指導が必要です。

    
(3)マウスピースによる非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を受けている症例
    口腔乾燥や咬耗、アブフラクション(くさび状欠損)を認めることがあります。

    


(2)歯科治療・口腔ケア時の注意事項
 @歯科治療時のモニタリング  
    自律神経過反射による高血圧と徐脈に注意する必要が有ります。 
    180/110以上の場合には、歯科治療延期します。  
    非麻痺域の血管拡張により生じる頭痛顔面紅潮、発汗などの観察も行います。  

 A血圧上昇時の緊急処置  
    患者に座位をとらせます。
    下半身を圧迫しているストッキングなどを除去して降圧をはかるるのも有効です。 

 B起立性低血圧   
    診療台を起こす時は、ゆっくりと起こします。 

 C自律神経過反射の予防策  
    治療前日の排便や治療前の排尿指導を行います。 
    急激な体位変換は,血圧低下や不随意性の筋緊張状態である痙縮を起こすので避けます。
    非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を受けている患者では,血圧や脈拍の以外にSpO2監視を行います。 
    痰などの気道分泌物貯留にも注意する必要が有ります。


参考資料 

「脊髄・脊椎損傷の急性期治療」 鈴木晋助 Spinal Surgery 25(1) 50-62 2011








 お口大全TOPへ

copyrightc 2021 YDC all rights reserved


mail:mail:info@aofc-ydc.com