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MRSA感染症ついて

    
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MRSA感染症 (infection with Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus)
  1:MRSA感染症とは
 (1)MRSAとは    
     抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌の事をいいます。
     実際は多くの抗生物質に耐性を示す多剤耐性菌です。
     
     黄色ブドウ球菌と同様に常在菌であり、健康な人の鼻腔、咽頭、皮膚などから検出されることがあります。
     健康な人には大きな問題は起きませんが、発症した場合、通常細菌を退治するために使われる薬が効かなくなる
     細菌の一種です。

         

 (2)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とは
     ヒトや動物の皮膚、消化管(腸)の常在菌(腸内細菌)で、ブドウ球菌の一つです。    
     健康な成人の約30%の鼻腔に存在し(通常は一時的)、約20%の人の皮膚に存在します。

     表皮感染症や食中毒、また肺炎、髄膜炎、敗血症等の致死的となるような感染症の起因菌です。

     この細菌を保持しつつも、症状が現れない人はキャリア(保菌者)と呼ばれます。
     キャリアであっても、手で触ることで鼻から体の他の部位に細菌を移動させ、ときに感染症を発症することが
     あります。

 (3)メチシリン
     1960年に作られた半合成ペニシリンです。
     グラム陽性菌・グラム陰性球菌・放線菌などに有効でしたが、近年耐性をもつ菌が現れるようになりました。


2:感染様式
   感染者と直接接触したり、汚染された物を使用したり、くしゃみやせきによって飛び散った飛沫を吸引することで
   感染します。
      接触感染  飛沫感染


3:疫学
 (1)発症しやすい場所   
     薬剤耐性菌であるため薬剤の使用が多い病院で見られることがあります。
     入院中の患者に発症する院内感染の起炎菌としてとらえられています。  
     しかし病原性は黄色ブドウ球菌と同等で、健康な人にも皮膚・軟部組織感染症などを起こし得ます。


 (2)MRSAと感染症法
     MRSA感染症は4類感染症に分類されており、保健所への報告が必要とされます。
     報告が必要とされる基準は、MRSA感染症が疑われる症状や臨床所見がみられ、
     かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がされた場合です。

   @敗血症、心内膜炎、腹膜炎、髄膜炎、骨髄炎などで、血液や腹水、胸水、髄液など通常は無菌状態である検体から
     MRSAがみつかった場合

   A肺炎などの呼吸器感染症、肝・胆道系感染症、創傷感染症、腎盂腎炎・複雑性尿路感染症、扁桃炎、細菌性中耳炎、
     副鼻腔炎、皮膚・軟部組織感染症などで、痰や膿、尿、便などの無菌ではない検体からMRSAがみつかり、感染症を
     起こしている原因の菌であると判断された場合

   B検査室でオキサシリンのMIC≧4 μg/ml、
     または、オキサシリンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が≦10mmと判定された場合 

    @またはAで、かつBを満たす場合に、MRSA感染症として報告が必要となります。


4:症状
 (1)感染部位の違いによる症状
   @皮膚の傷からの感染
      皮膚の傷に伴って、化膿症、膿痂(のうか)疹、毛包炎、おでき、蜂窩織炎などを引き起こします。

         膿痂疹 「MSDマニュアル 黄色ブドウ球菌感染症」から引用

      怪我の傷、火傷、手術後の傷跡の二次感染など、皮膚軟部組織の感染症を起こすと、患部の赤み、腫れ、
      痛みなどの炎症症状や膿などがみられます。

      重症化すると、発熱や低体温、頻脈、低血圧などの全身症状を伴うこともあります。

   A肺炎
      発熱、咳、痰、頻脈、早い呼吸、食欲低下、活気の低下など

   B敗血症
      発熱や頻脈、早い呼吸など。

   C感染性心内膜炎
      発熱、全身倦怠感、関節痛、体重減少など。

   D骨髄炎
      発熱や痛み、膿が溜まって神経が圧迫された場合は手足の麻痺がみられることもあります。

   E腹膜炎
      激しい腹痛やお腹の張り、発熱、吐き気、嘔吐、頻脈など。

   F髄膜炎
      発熱や頭痛、嘔吐、項部硬直など。


 (2)感染場所での症状の違い
     本菌が免疫力低下した患者に感染すると、通常では本菌が起こすことはないような日和見感染を起こします。  
     一旦発症するとほとんどの抗生物質が効かないため、治療は困難となります。  

   @院内感染
     特に、術後の創部感染、骨感染(骨髄炎・関節炎)、感染性心内膜炎(IE)、臓器膿瘍は 難治性化し易いとされて
     います。
     適切な治療を受けられないと、後遺症ばかりか死の転帰をたどることになります。

         「Wikipedia MRSA」から引用

   AMRSAの市中感染
      市中感染(CA-MRSA:community-acquired MRSA) は、1999年にアメリカ合衆国で死亡例がありました。
      その後は、外来診療でも留意すべき菌種のひとつとなりました。
      CA-MRSAは、院内感染でのMRSAとは異なり、ミノサイクリン、ST合剤クリンダマイシンが有効であることが
      あります。


5:診断
  MRSAの検出方法は、薬剤によって感受性を測定する方法と、MRSAに特異的にみられる遺伝子を検出する方法とが
  あります。

  感染症を起こしている体の部位の鼻腔粘液や血液、尿、腹水などを採取し、検査によってMRSAが検出され、
  かつ、
  米国臨床検査標準化委員会(NCCLS)の標準法に従って2%のNaCl(塩化ナトリウム)で、35 ℃24 時間の培養後、
  オキサシリンのMIC 値が4≧μg/mlを示す場合にMRSAと判定するのが一般的です。


6:治療
 (1)MRSAの不活化(消毒)   
     80%エタノールが消毒薬として有効です。 (エタノール消毒は芽胞を持たない細菌に有効)   
     院内で感染者が判明した場合、感染者の治療も重要ですが、感染を広げないことも必要です。   
     標準予防策に基づく適切な感染管理が重要となります。   


 (2)MRSA 感染症の治療   
     代表的なMRSAに対する抗菌薬     
        バンコマイシン(VCM     
        テイコプラニン(TEIC     
        アルベカシン(ABK     
        リネゾリド(LZD     
        ダプトマイシン(DAP


MRSA感染症と口腔ケア
  通常のケアにおいては、日常的に必要な感染対策をきちんと行っていれば、MRSAを保菌している場合であっても、
特別の対策を行う必要は特にありません。

MRSAの保菌者を隔離する必要はありませんが、慢性疾患を抱えた人や透析患者、化学療法中の場合など、特に免疫が落ちているとされる人は、重症感染症を引き起こす恐れがあるため、MRSA保菌者との接触は避けるような部屋の配置や、介助の順番を検討するべきでしょう。

MRSAの場合、接触感染予防策が重要となりますが、標準予防策を講じていれば、心配はありません。

 
 詳細は、「感染対策」へ


参考資料
 
  『看護の現場ですぐに役立つ 感染症対策のキホン[第2版] (ナースのためのスキルアップノート) 単行本  2020/9/11』


  『実践から学ぶ! 治せるMRSA感染症 -治らなかった理由が分かれば治せます』  2014/3/28


  『感染対策ICTジャーナル Vol.13 No.4 2018: 特集:一歩先を目指して再評価 これからのMRSA感染対策』




「市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌による肺化膿症の1 例」  齋藤雅俊 他 日呼吸誌 2(3),2013




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