手足口病 (HFMD:Hand, foot and mouth disease)とは |
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1:手足口病とは |
コクサッキーウイルスの一種が原因となって起こるウイルス性疾患です。
病名は手の平、足の裏、口内に水疱が発生する英語病名の直訳に由来します。
乳児や幼児によく見られる疾患でですが、成人にも見られます。
乳児ではまれに死亡することがあります。
夏季を中心に流行し、汗疹と間違えられやすい事もあります。
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2:感染経路・潜伏期間 |
(1)感染経路
咽頭から排泄されるウイルスによる飛沫感染
便中に排泄されたウイルスによる経口感染
水疱内容物からの感染など、があります。
(2)潜伏期間
感染から発症までの期間は3日から5日程度とされます。
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3:原因 |
エンテロウイルス属のコクサッキーウイルスA16が主です。
他にA4, 5, 9, 10、B2, 5、またエンテロウイルス71型も原因となります。
エンテロウイルス属は夏に多くみられ、1)ポリオウイルス と 2)ノンポリオエンテロウイルスのA〜Dの計5種類に分けられます。
1) ポリオウイルス 1〜3
2)ノンポリオエンテロウイルス
A コクサッキーウイルス A1〜A22、A24
B コクサッキーウイルス B1〜B6
C エコーウイルス 1〜9、11〜27、29〜33
D エンテロウイルス 68〜72
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4:疫学 |
(1)好発年齢
4歳位までの幼児を中心に見られる病気です。
2歳以下が半数を占めますが、学童でも流行的発生がみられることがあります。
また、学童以上の年齢層の大半は既にこれらのウイルスの感染(不顕性感染も含む)を受けている場合が多いので、
成人での発症はあまり多くなく、男子に多い傾向が見られる。
(2)季節性
夏季に流行が見られます。
厚労省統計:手足口病の年別週別の定点あたり報告数(2014年)
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5:症状 |
(1)初期症状として
発熱と咽頭痛が初発症状です。
1 - 2日後には手掌や足底、膝裏、足の付け根(臀部)などに痛みを伴う水疱性丘疹が生じ、口内にも水疱が出現します。
これが7 - 10日間続きます。
ただし、常に全ての徴候が出現するとは限らない。
(2)症状の経過
多くの場合、1週間から10日程度で自然に治癒するが、まれに急性髄膜炎が合併し急性脳炎を生じます。
エンテロウイルス71の感染症例では、他のウイルスを原因とする場合より頭痛、嘔吐などの中枢神経系合併症の
発生率が高い。
また、コクサッキーウイルスA16感染症例では心筋炎合併の報告があります。
出産直前の妊婦が感染した場合は、生まれてくる新生児に感染する恐れがあります。
ウイルス型 EV71では重症化した場合、髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺をおこし急性脳炎に伴う中枢神経合併症
による死亡例が多いと報告されています。
(3)治癒後の症状
1〜2ヶ月後に爪変形や爪甲脱落が生じる例が報告されています
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6:治療 |
手足口病のための特別な治療法は有りません。
また、特別な治療を要しないことがほとんどです。
(1)対症療法
発熱、のどの痛み、口の中の痛み等に対して、症状を和らげる薬が使われます。
ただし、中枢神経症状が発生した場合は入院加療が必要となります。
通常、感染症が治るまで自宅で安静にすることが病気に苦しむ子供にとって最も大切なことです。
熱冷ましは高熱を下げるのに役立ち、水やぬるま湯による入浴もまた、乳幼児の熱を下げるのに役立つ。
(補足)
感染症法5類感染症で小児科定点報告対象疾患であるが、学校感染症には含まれていません。
登園・登校の可否は、患者本人の症状や状態によって判断すればよいと考えられます。
一度感染すると終生免疫が獲得されるが、原因となるウイルスは複数あるため、何度も罹ることがある。
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7:予防方法 |
患者ののどや鼻の分泌物あるいは便の中のウイルスが、手などによって、口や鼻の中に運ばれて、感染します。
ウイルスは咽頭から1〜2週間、便からは3〜5週間排泄されます。
予防のためには、患者もその周囲の人たちも、手をよく洗うことです。
患者の便には1か月ほど病原体のウイルスが出ている可能性があります。
特に患児のおしめを替えた後などは、よく手を洗いましょう。
患者はトイレの後に、周囲の人たちは食事や鼻をほじくる前に、特に注意して手を洗いましょう。
おしりをふいたときなどにウイルスが付着する可能性があるので、患者のタオルは別にしましょう。
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手足口病と口腔ケア |
(1)口腔内の保清
水疱がつぶれて潰瘍を形成するとそこから感染する可能性もあります。
特別な消毒薬は必要ではありません。
口が渇くと感染リスクが高くなりますので、乾燥に気をつけて下さい。
水や刺激の少ない飲み物で口を潤すようにして下さい。
可能ならば、無理の無いように歯磨きもして下さい。
(2)口の中に潰瘍ができて痛みがある場合の工夫
口の中に食物を入れると、食物が潰瘍部分を刺激して痛みを増強するので、患児が食物を食べようとしなくなることが
あります。
著しいときは、脱水・栄養不良のため、医療機関での点滴が必要になることもあります。
このようなときは、食事面での配慮が必要です。次の事を試みて下さい。
熱いものは人肌までさます
濃い味(特に刺激物や酸味、塩味)のものは避ける、
あまり噛まなくて良い消化の良いものを与える、
水分をよく補給する等何よりも水分不足にならないようにすることが最も重要ですので、薄いお茶類、
スポーツ飲料などで水分を少量頻回に与えるように努めましょう。
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参考資料 |
『病気がみえる Vol.6 免疫・膠原病・感染症 第6版』 2020 メディックメディア
『感染症 ウイルス・細菌との闘い』 別冊日経サイエンス 238
『戸田新細菌学 第34版』 南山堂 2013
『標準微生物学 第14版』 医学書院 2021
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