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O-157と腸管出血性大腸菌感染症について

  

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O-157と腸管出血性大腸菌感染症 ()
1:O-157感染症
 (1)O-157とは    
   @大腸菌(E.coli:Escherichia coli)
      大腸菌は通常病原性を持っていません
      病原因子をコードした遺伝子(病原性遺伝子)を獲得すると、病原性を持った大腸菌になります。
      病原性を持たない常在細菌の大腸菌と下痢原性大腸菌は、生化学的性状では区別できないため、
      下痢原性大腸菌の検査は毒素産生性の確認などの病原因子の検出が必要になります。

      下痢性大腸菌は血清型O抗原とH抗原の組合せで表現され、184種類のO抗原と、53種類のH抗原が明らかに
      なっています。
      保有している遺伝子により産生される毒素は異なりますが、重篤な中毒症状を起こすベロ毒素が有名です。
      また、O157抗原を有する大腸菌が常にベロ毒素を産生するとは限りません。

        

   A病原性大腸菌
      病原性大腸菌は約170種類あります。
      そのうちベロ毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害)を
      起こすものは腸管出血性大腸菌と呼ばれています。
      代表的なものはO(オー)157、O26、O111などです。
      重症化するものの多くはO157です。

   B病原性大腸菌の分類
      病原性大腸菌(下痢を起こす大腸菌)は、人や家畜の大腸に常在菌(常にその場所に住んでいる菌)として
      住んでいる大腸菌と同じ種類に属します。

      病原性大腸菌は、病気の起こし方によって、以下の4つに分類されています。

        腸管病原性大腸菌(病原血清型大腸菌)
        腸管侵入性大腸菌(組織侵入型大腸菌)
        腸管毒素原性大腸菌(毒素原性大腸菌)
        腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)

      O157はこの代表選手です。
      そのほかに、O26、O111、O128、O145などがあります。
      病原性と毒性が強いため、伝染病予防法に基づく指定伝染病に指定されました。


   Cベロ毒素(VT:Vero cell Toxin)
      一部の腸管出血性大腸菌EHEC, enterohaemorrhagic Escherichia coli)が産生し、菌体外に分泌する
      毒素タンパク質外毒素)です。
      一部の赤痢菌(志賀赤痢菌、Shigella dysenteria1)が産生する志賀毒素(しがどくそ、シガトキシン)と同一の
      ものであり、志賀様毒素(shiga-like toxin)とも呼ばれます。

      作用
        ベロ毒素は細胞のタンパク質の合成を止め、細胞を死に至らしめます。
        ベロ毒素は、とくに、腎臓、脳、肺などに障害を起こします。

      ベロ毒素の種類
        ベロ毒素には、1型と2型があります。
        1型は赤痢菌がつくる「志賀毒素」と同じ毒素です。
        2型は1型より強い毒性を持つ毒素です。
        O157には、1型毒素のみ作るものと、1型と2型の両方を作るものとがあります。

      ベロ毒素の遺伝子
        ベロ毒素に関する遺伝子は、ファージ(細菌性ウイルス:細菌細胞に感染するウイルス)の遺伝子の中に
        あります。
        そのため、ベロ毒素遺伝子を持ったファージが別の大腸菌に感染すると、その大腸菌もベロ毒素を作る大腸菌
        になってしまいます。

        真核細胞リボソームに作用して、タンパク質合成を阻害する働きを持つ。
        影響を強く受ける臓器は大腸腎臓で、出血性の下痢、急性脳症、溶血性尿毒症症候群(HUS)などのさまざま
        な病態の直接の原因となる病原因子である。

       


   C溶血性尿毒症症候群(HUS:hemolytic-uremic syndrome)
      微小血管性溶血性貧血急性腎不全および血小板減少症を特徴とする病態です。

      蒼白(顔などの血色が悪くなること)、倦怠(全身のだるさ)、乏尿(尿の量が少ない)、浮腫が主症状です。
      中枢神経症状(傾眠=眠くなりやすい、幻覚、けいれん)なども起こります。
      HUSは下痢、腹痛などが起こってから、数日〜2週間後に起こります。


2:感染様式
 (1)感染経路
     O157は家畜(牛、羊、豚など)の大腸をすみかとしています。
     汚染は家畜糞便から水や食物を介して感染したり、感染した人から人へ感染します。

       日本医師会 HPから引用

     飲食物を介する経口感染がほとんどです。
     菌に汚染された飲食物を摂取するか、患者の糞便で汚染されたものを口にすることで感染します。
     O157は感染力が強く、通常の細菌性食中毒では細菌を100万個単位で摂取しないと感染しないのに対し、
     わずか100個程度の菌数の摂取で発症するといわれています。


 (2)潜伏期間
     通常の細菌性食中毒の潜伏期間が数時間から3日程度です。
     これに対して、病原性大腸菌感染症は4〜8日と長いのが特徴です。


3:疫学
 (1)発生時期
     7月から8月の気温が高い時期に発生し易いと言えます。

       国立感染症研究所HPから引用


4:O157の臨床像
 (1)感染症の概要    
     O157は腸管内でベロ毒素を放出し、出血性の下痢など、人のからだに大きな影響を及ぼします。    
     O157などによる腸管出血性大腸菌感染症は、3類感染症とされています。  

 (2)O157の特徴
   @感染力が非常に強い
      感染力が非常に強く、100個たらずでも感染します
      O157の感染力と毒素は赤痢菌並み、あるいはそれ以上と言われています。    
      そのため、食品にごく少量ついていても感染します。
      入浴やタオルの共用、トイレの取っ手などに付着した菌などによって二次感染を起こすことがあります。

   A毒性が強い     
      ベロ毒素によって、特に乳幼児や高齢者では、溶血性尿毒症症候群(HUSなどを引き起こし、
      腎臓や脳に重大な障害を生じさせたり、時には生死に関わることもあります。

   B潜伏期間が長い  
      潜伏期間は2〜9日と長く、その間は無症状です。  
      そのため、発生してからでは原因の特定が困難となります。     
      感染された食品が流通してしまったり、二次感染などで感染が広まる危険がある.  


 (3)臨床経過   
   @潜伏期間:2〜9日  

   A1日目:初期症状     
      無症状な潜伏期をすぎると、初期には下痢と腹痛が起きます。

   B3日目:出血性大腸炎     
      激しい腹痛とともにベロ毒素によって大腸の粘膜が傷めつけられ血便(出血性大腸炎)が出はじめます。   

   C7日目:溶血性尿毒症症候群(HUS     
      さらに、重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUSへと進行します。     
      腎臓障害や神経障害を引き起こします。       
      血小板減少 尿量減少 溶血性貧血 神経症状 DIC などを併発します。 

      


 (4)特徴的症状
   @下痢
      腹痛感染者の約半数は、4〜8日の潜伏期間ののちに、激しい腹痛を伴った水様便(水っぽい下痢)が頻回に
      起こり、まもなく血便(血液の混じった下痢)が出ます。
      成人では感染しても、無症状だったり、軽い下痢で終わることが少なくありません。
      しかし、その場合でも便には菌が混じって排泄されていますので、家族に感染を広げないような注意が必要です。 

   A発熱
      発熱があっても一過性で、高熱になることはあまりありません。 

   B溶血性尿毒症症候群(HUS):HUSの3つの徴候
      検査で以下の3つが確認されると、HUSの可能性が高いと考えられます。

      赤血球が壊れ貧血になります。
      血液を固める働きをする血小板数が少なくなり、出血しやすくなります。
      腎臓の働きが低下します。 

   C脳症
      頭痛、傾眠、不穏、多弁(口数が多くなること)、幻覚などが予兆として起こり、数時間〜12時間後にけいれん、
      昏睡が始まります。


5:診断
   確定診断は、糞便からの病原体分離とベロ毒素の検出によってなされます。
   それには、便培養による菌の分離、および生化学的同定、血清型別、ベロ毒素試験等を行うことが必要となります。


6:治療
   安静、水分の補給、抗菌薬・乳酸菌製剤の投与などです。

 (1)感染した場合の対処方法
     食中毒症状を認めたら、医療機関を受診しましょう。.   
     素人判断で、下痢止めなどを服用しないほうがよいとされています。   
     無理に下痢を止めると腸内に病原菌を閉じ込め異常増殖させてしまう危険性があります。   
     その結果ベロ毒素を大量に産生させるため、病気を悪化させることになります。


 (2)抗菌剤投与の是非について
     抗菌剤投与には議論が二分されています。      
     効果があるという説と効果がないという説があります。
       
     抗菌剤は菌を殺す結果菌が菌体内に貯蔵しているベロ毒素を一度に放出することになります
     ベロ毒素に対する生体の域値を超えるために、病状をかえって悪化させるという説もあり、まだ確定していません。


7:予防法
 (1)予防の基本
     一般的には、食中毒の予防の基本を守ることが大切.  
     逆に基本を 守ればこの菌による食中毒は必ず予防できます。  

   @できるだけ加熱調理すること    
      菌を死滅させる温度の目安は.最低75℃1分間以上の処理が必要です    
      しかし、100℃を目指して調理するのが無難です。

   A加熱直後に食べること    
      調理で大部分が死んだとしても一部の菌が生き残っていることも考えられます。    
      保管中にこれが再増殖して食中毒を起こすことが有り得るからです。  

   Bまな板、ふきん、手などを介した2次汚染の可能性にも注意が必要    
      原材料中の食中毒菌がまな板や手を介して調理済み食品を汚染するケースも多く認められます。

      


 
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参考資料

 『みんなでからだを守ろう! 感染症キャラクターえほん 第2巻 腸管出血性大腸菌O157 』



  『全ての病気は「口の中」から!』


  『マンガでわかる感染症のしくみ事典』


  絵でわかる感染症 with もやしもん (KS絵でわかるシリーズ)


  『病気がみえる vol.6  免疫・膠原病・感染症』  


  『感染症 ウイルス・細菌との闘い』  (別冊日経サイエンス238)



  『戸田新細菌学第34版』 南山堂 2013


 『標準微生物学 第14版 (Standard Textbook)』  医学書院 2021



「厚労省感染症情報」 厚労省






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