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薬剤性顎骨壊死について


     
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ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)とは
ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死 (BRONJ:Bisphosphonate-Related OsteoNecrosis of the Jaw)
  ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死とは 
ビスホスホネート系薬剤を内服している患者に発生する合併症の一つで、抜歯などの口腔外科手術や歯周外科手術、歯内治療、歯周治療後に創傷治癒が正常に機能しないものとされる。
現在のところ、確定している予防法はない。

BRONJの発症
歯槽骨露出部は抜歯後、または口腔粘膜に対する外傷後に発現する頻度が最も高い。
しかし、これらの口腔内に対する誘因がなく発現している症例も報告されている。


義歯による褥瘡性潰瘍が起因したとと考えられる症例  薬剤はゾメタR


発症機序
BP系薬剤は、骨のハイドロキシアパタイト結晶と強い親和性があり骨石灰化面に付着します。
     
骨吸収の過程で石灰化骨表面より破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞の骨吸収機能を停止させます。
つまり、BP系薬剤の作用メカニズムは、破骨細胞のアポトーシスを促進させ、破骨細胞の生存期間を短縮させることにあるとされている。
     
このような骨代謝異常を伴い、血流に乏しく石灰化の強い骨組織が、抜歯等の外科手術によって、活性の悪い骨の表面が口腔内に露出すれば、わずかな細菌感染にも抵抗できずに顎骨壊死を生ずるものと考えられる。
     
顎骨壊死に伴い骨組織の血行はさらに悪化し、通常、骨や骨膜からの穿通枝によって栄養されている同部の被覆粘膜も血流障害を起こし創傷治癒不全が生じ、さらに骨面の裸出が拡大され、骨壊死が広範囲に進展するといった悪循環に陥るものと考えられる。

問題は歯科の観血処置の多くは、創が骨にまで達してしまい、活性の低い血流に乏しい骨が常に外部環境と交通してしまうことにあると考えられる。

また、この歯槽骨は解剖的には薄い歯肉粘膜を介するのみで、きわめて常在細菌叢に富む口腔内に近接しており、常に細菌感染に晒されうる部位であることが、この部位にビスホスホネートによる骨感染・骨壊死を初発することの原因と考えられている。


BRONJの臨床
特徴 分類


BRONJの特徴
下顎・上顎あるいはこの両者に見られる骨露出で、8週間以上持続し、以前に顎骨への放射線療法歴や他部位からの悪性腫瘍の転移がない場合、BRONJが疑われる。


病期分類
米国口腔外科学会の提案により以下の様な病期分類が成されている。

 ステージ0:潜在的リスクを有する患
    顎骨の露出、壊死を認めないが、経口または経静脈的にBP系薬剤の投与を受けている患者。

 ステージ1
    無症状で感染を伴わない骨露出、骨壊死。

 ステージ2
    感染を伴う骨露出、骨壊死。疼痛、発赤を伴い、排膿がある場合とない場合がある。

 ステージ3
    疼痛、感染を伴う骨露出、骨壊死で、以下のいずれかを伴うもの。
          病的骨折、外歯瘻、または下顎下縁にいたる骨吸収と破壊


原因 誘因
  原因
明らかな原因は分かっていない。
BP製剤使用患者においては自然に発生することもあるが、抜歯などの骨を損傷する歯科治療と関連して発生することが多い。


誘因 危険因子
(1)顎骨壊死を起こしやすくなるリスクファクター

  @BP系薬剤長期使用 >短期使用者
     4年以上の内服でARONJの発症危険性が高くなります。

  A窒素含有BP >窒素非含有BP
     第U世代、第V世代と言われる窒素を含有したBP製剤の方がARONJの発症危険性が高くなります。

     窒素含有BP
       ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ)
       アレンドロネート(商品名:テイロック、フォサマック、ボナロン)、
       リセドロネート(商品名:アクトネル、ベネット)、パミドロネート(商品名:アレディア)、
       インカドロネート(商品名:ビスフォナール)、ミノドロン酸(商品名:ボノテオ、リカルボン)
     
     窒素非含有BP
       エチドロネート(商品名:ダイドロネル)


  B悪性腫瘍用製剤>骨粗鬆症用製剤
     悪性腫瘍用製剤の方が、骨粗鬆症用製剤よりも、ARONJの発症危険性が高くなります。

     悪性腫瘍用製剤
       商品名--アレディア、ビスフォナール、テイロック、ゾメタ

     骨粗鬆症用製剤
       商品名--ダイドロネル、フォサマック、ボナロン、アクトネル、ベネット、ボノテオ、リカルボン


(2)局所因子 
  @歯科外科処置 (BRONJの発現率が7倍以上になるとされている)
     抜歯
       上顎より下顎の抜歯の方が、ARONJの発症危険性が高くなります。
       前歯より臼歯部の抜歯の方が、ARONJの発症危険性が高くなります。

     歯科インプラントの埋入
     根尖外科手術
     骨への侵襲を伴う歯周外科処置

  Aその他の局所因子
     歯周疾患
     骨隆起やその他の外骨症
     口腔衛生の不良


(4)全身的因子
  @薬物
     ステロイド、シクロフォスファミド、エリスロポエチン、サリドマイド、血管新生阻害剤

  A全身疾患
     癌患者(両側性及び多発性BRONJが報告されている)、腎透析、ヘモグロビン低値、糖尿病、
     肥満、骨パジェット病

  Bその他
      喫煙・飲酒


疫学
  発症頻度その1
アメリカ口腔顎顔面外科学会が発行したupdated 2009 BRONJ Position Paper によれば、ビスホスホネートの強度及び曝露期間はともにビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死発症のリスクとリンクしているとされる。
経口製剤
  @米国口腔外科学会
     アレンドロネートの製造社(Merck, Whitehouse Station, NJ)のデータから、報告頻度は「10万人年あたり0.7件」と算定された。

  A欧州骨粗鬆症Working Group
     「10万人・年あたり1件未満」と算定された。
      これは、ドイツで行われた全国規模の試験によっても裏付けられている。

注射用製剤
  @米国口腔外科学会
     累積発現頻度は「0.8〜12%」と推定される。
     疾患の認知度の上昇ならびに投与期間及び追跡調査期間の延長に伴い、発現頻度は上昇すると考えられる。

  A欧州骨粗鬆症Working Group
     「10万人年あたり95件」となる。
     癌患者の場合は、主に多発性骨髄腫や転移性乳癌で骨関連事象の発現抑制、高カルシウム血症治療の補助療法として
     投与されている。

発症頻度その2 (2004〜2005年頃のオーストラリアにおけるBRONJ調査・注射用製剤・経口製剤共通の結果より)
注射用製剤・経口製剤共通

3疾患合計 骨粗鬆症 骨Paget病  悪性腫瘍
BP系薬剤投与例全体 0.05〜0.1% 0.01〜0.04% 0.26〜1.8%
0.88〜1.15%
BP系薬剤投与中の抜歯施行例 0.37〜0.8% 0.09〜0.34% 2.1〜13.5%
6.67〜9.1%


発症頻度その3 (対象疾患別BRONJ発現頻度) 
疾患名
報告者 注射薬 経口薬
多発性骨髄腫 Badros 他 26.0%
骨髄腫 Durie 他 6.9%
乳癌 Durie 他 4.3%

 
発症頻度その4 (日本での調査) 
  2006年  日本口腔外科学会調査−−−−30例(のちに2例を除去し28例)、
  2007年  発売元製薬会社の調査−−−100例
  2008年  日本口腔外科学会調査−−−580例
 

好発部位 好発年齢
好発部位
   これまで、頭蓋骨以外でビスホスホネート製剤関連の副作用は報告が無い
   下顎骨に発症するケースが上顎骨の場合に比べ、2倍程度多い
          下顎>上顎、下顎隆起、口蓋隆起、顎舌骨筋線の隆起

好発年齢
   高齢者(66歳以上)に多い。
   骨形成不全症の小児へのビスホスホネートの使用例では発生の報告はない。


臨床症状


初期症状
下口唇を含むオトガイ部の知覚異常 (Vincent症状)は、骨露出よりも前に見られるBRONJの初期症状であるとされている。

典型的な臨床症状
疼痛、軟組織の腫脹及び感染、歯の動揺、排膿、骨露出

BRONJは、数週間から数ヵ月の間、症状が認められないことがある。
定期検査において顎骨露出が見られ、診断される場合がある。


診断 鑑別診断

診断基準
以下の3 項目の診断基準を満たした場合に、BRONJ と診断する。

   1)ビスホスホネート製剤の治療の経験があること。
   2)頭頸部への放射線治療の既往が無いこと。
   3)骨の露出の8週間以上の継続。
   
   骨の露出が見られない場合や、骨露出が8 週間以下の場合でも臨床経過や症状が該当する場合はステージ0 のBRONJ と
   診断することがある。

鑑別診断
がんの顎骨転移
顎骨骨髄炎
ドライソケット
骨壊死を伴う帯状疱疹
良性病変による腐骨形成
HIV 関連壊死性潰瘍性歯周炎
原発性顎骨腫瘍
外傷


BRONJの治療
  BRONJ の治療指針
有効な治療法は確立されていないため、 BRONJ の治療指針は以下の3項目に集約される。
   1:骨壊死の進行を抑える。
   2:疼痛や知覚異常の緩和や感染制御により、患者のQOL(生活の質) を維持する。
   3:患者教育および経過観察を行い、口腔管理を徹底する。

放射線性骨壊死の治療法等を参考にして、経験に基づいた保存療法が推奨されている。
壊死組織の除去、露出骨の粘膜弁による被覆、露出骨縁の除去などの処置は、むしろ症状悪化を招くことがあるため行わず、軟組織を刺激している場合にのみ壊死骨の表層部を除去する。
また消炎鎮痛薬による疼痛の制御、露出骨の拡大や二次感染の予防のための抗菌薬の長期投与、消毒薬による局所の洗浄が重要である。
病的骨折や外歯瘻の形成を認める重症例に限り顎骨切除が考慮される。



病期(ステージ)に基づいたBRONJ の治療法

  症 状 治 療 法
ステージ0 骨露出/骨壊死は認めない。
オトガイ部の知覚異常(Vincent症状)、
口腔内瘻孔、深い歯周ポケット
単純X線写真で軽度の骨溶解を認める
抗菌性洗口剤の使用
瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄
局所的な抗菌薬の塗布・注入
ステージ1
   
骨露出/骨壊死を認めるが、無症状。
単純X線写真で骨溶解を認める。
抗菌性洗口剤の使用
瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄
局所的な抗菌薬の塗布・注入
ステージ2  
ステージ3    



BRONJと歯科治療との関連
 
 
BRONJの予防
 
 
参考資料

「ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死」 日本口腔外科学会資料 2008

「ビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパー」  日本骨代謝学会 ビスフォスフォネート関連顎骨壊死検討委員会:
(改訂追補2012年版)

「重篤副作用疾患別対応マニュアル ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死」 厚生労働省 2009

「当科におけるビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死患者の臨床的検討」 河阪明彦、井川浩海他、山梨医科学誌29(1)、
p31−p40、2014

「補綴歯科治療でも見逃せない顎骨壊死─ 骨吸収阻害薬に関連するBRONJ, ARONJ の最新の知見について」 今井祐 日補綴会誌6 : p233−p241 2014

「Bisphosphonate use and the risk of adverse jaw outcomes: a medical claims study of 714,217 people"」  Cartos VM, Zhu S, Zavras AI. (Jan 2008).JADA 139 (1): 23−30. ISSN 0002-8177

「ビスフォスフォネート製剤関連顎骨壊死の病態とそのマネージメント」 米田俊之 日口外誌 56巻(5)p286−p291 2010

「ビスフォスフォネート治療による顎骨壊死発症の現状」 浦出雅裕 日口外誌 56巻(5)p292−p297 2010

「 ビスフォスフォネート製剤による顎骨壊死の病理組織学的検討」 長谷川真弓他 日本口腔科学会雑誌 58巻:p199抄録 2009.

「ビスフォスフォネートによる顎骨壊死」 長谷川真弓、朔 敬他 新潟歯学会誌 39:p77−p79 2009

「ビスフォスフォネート投与と関連性があると考えられた顎骨骨髄炎ならびに顎骨壊死30症例に関する追跡調査〜2年後の現状につい
て」 浦出雅裕,田中徳昭ほか、日口外誌 55巻:11:553−561. 2009

「多発性骨髄腫患者にみられたビスフォスフォネートの使用によって発症したと考えられた下顎骨壊死の1例」 岡田益彦・西村泰一 
日口外誌 54巻第3号 150-154頁 2008

「ビスホスホネートにより発症した下顎骨壊死の1例」. 岸 直子、足立忠文他 日口外誌 53巻:p28−p32 2007

「ビスフォスフォネート投与と関連性があると考えられた顎骨骨髄炎ならびに顎骨壊死に関する調査」 島原政司、有吉靖則ほか 日口外誌 53巻(10)p594−p602 2007

「当科の放射線性骨壊死症例の検討― とくに照射方法と重症度について」 野谷健一、山崎裕他 日口外誌 
38巻(6):p965−p972 1992

「ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死」  Wikipedia 




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