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咬傷を特徴とする症候群について

    
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咬傷を特徴とする症候群

 咬傷を特徴とする症候群
    T:レッシュ・ナイハン症候群 (Lesch-Nyhansyndrome)

    U:先天性無痛無汗症 (congenital insensitivity to pain with anhidrosis :CIPA)


T:レッシュ・ナイハン症候群 (Lesch-Nyhansyndrome)
1:概念
(1)特徴
  
    尿酸の代謝酵素にかかわる遺伝子の異常によって起こる遺伝子疾患です。  
    自傷行為を主症状とする症候群です。 

(2)歴史  
    1964年にM.Lesch(1939〜2008) とW.L. Nyhan (1926〜)が報告した.

(3)原因遺伝子と遺伝形式    
    X染色体(Xq26.2-q26.3)にあるヒポキサンチンーグアニンーホスホリボシルトランスフェラーゼHRRT遺伝子の欠損
    によりプリン代謝異常が生じるために発症します。
    X連鎖性劣性遺伝です。  


2:疫学   
(1)出生頻度

    10万〜38万人に1人.


3:レッシュ・ナイハン症候群の症候・症状
(1)全身的特徴
  
    高尿酸血症、高尿酸尿症、不随意運動(アテトーゼ様運動)   
    自傷(口唇,頬粘膜,手指)、知的能力障害。

      手を噛む事象を予防するため、手を布で覆ってあります。

(2)合併症
    腎障害,巨赤芽球性貧血、痛風。


4:症候群と歯科医療
(1)歯科的特徴
  
    口唇,頬粘膜や舌の同一部位に繰り返し咬傷を生じます。

    

(2)歯科的対応  
    咬傷予防に咬合調整。   
    リップバンパー,オーラルスクリーンやマウスガードなどを製作します。   
    抜歯を要することもあるります。   
    知的能力障害への対応を行います。


U:先天性無痛無汗症 (CIPA:congenital insensitivity to pain with anhidrosis )
1:概念
(1)特徴
  
    遺伝性感覚性自律神経性ニユーロパチー(hereditary sensory and autonomic neuropathy:HSAN)のW型に分類される
    症候群です。
    全身性の無痛覚、無発汗、および精神運動発達遅滞を主徴とします。

    

(2)歴史   
    1951年の西田らの報告が最初といわれています。

(3)原因遺伝子と遺伝形式   
    犬童により1番染色体(1q21-q22)にあるチロシンキナーゼ型神経成長因子受容体遺伝子TRKZ4の変異によることが
    明らかにされています。   
    末梢感覚神経線維のうち、有髄A6線維と無髄C線維の選択的欠損ないし減少により、温度覚と痛覚が障害され、
    汗腺周囲の毛細血管の機能調節異常から発汗異常を呈します。   
    常染色体劣性遺伝です。 


2:疫学   
(1)出生頻度
  
    現在, 日本における先天性無痛無汗症患者数は130210人と推定されています。   
    有病率は60万から95万人に1人と推定されています。


3:先天性無痛無汗症の症候・症状
(1)全身的特徴
  
    全身性無痛覚、無発汗および口腔と手指の自傷を主徴とします。   
    軽度から中等度の知的能力障害を伴います。

    

(2)合併症   
    発熱、特に夏期の体温上昇があります。   
    シヤルコー関節---痛覚麻蝉によって関節を酷使して高度な関節破壊に至る病態を呈します。
    骨折、外傷、てんかん(17%)を伴うことがあります。


4:先天性無痛無汗症と歯科医療
(1)歯科的特徴  
 
    下顎乳中切歯の萌出に伴い舌の下面に重篤な潰瘍(RigaFede病)を生じることがあります。   
    これは本症のほぼすべての患者にみられ,診断上も重要な初発症状の一つです。   
    加えて、過度に強く噛むことで,歯の動揺,脱臼が生じます。  
    また.生歯に伴う不快感によるものか,自己抜去してしまう例もあります。   
    乳中切歯に続いて萌出する歯にも同様の症状が伴います。   
    乳歯列が完成するまで舌咬傷は続くことが多い。  
    永久歯萌出時にも舌咬傷を認め,乳歯と同じ経過をたどって永久歯を喪失してしまう例もあります。   

    そのほか、著しい歯ぎしりにより露髄を生じたり、重度の齪蝕になっても痙痛を感じないため気づかれず、
    歯髄炎から骨髄炎、蜂窩織炎や顎骨の病的骨折を生じた例もあります。
    

(2)歯科的対応   
    乳児期に歯が萌出し舌咬傷が出現したら、咬傷予防のため保護プレート(マウスガード)を製作し装着します。   
    保護プレートは熱可塑性レジンプレート(厚さ0.60.8mmのハードタイプ)で製作します。 
    また、歯の萌出や顎の成長に伴って頻回の製作が必要となります。   
    保護プレートを装蒲したままでは,歯面に齪蝕を発生させやすくなります。 
    口腔清掃指導とフッ化物塗布を行います。

    

    自己抜去などにより永久歯列で欠損がある場合は,義歯補綴を行います。   
    保護プレーl、と同様に,潰瘍があっても痛みを感じません。 
    注意して診査、調整することが重要となります。    

    成人期では、智歯周囲炎のときに症状が増悪することがあります。   
    早期にX線検査などで智歯の有無、位置および萌出スペースを確認します。 
 
    てんかんを伴う場合には,外傷や歯肉肥大にも対応が必要になります。  
    う蝕治療に際しては、局所麻酔をせずに歯を切削することも可能ではあります。   

    抜歯などには止血目的で血管収縮薬添加の局所麻酔薬を使用します。   
    このとき、麻陣感のため舌や口唇,頬粘膜を噛むことがあるので注意を要します。

 
参考資料










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