お口大全 (お口の機能と病気と口腔ケア) All the Oral-functions and Care
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知的障害について

       
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知的障害 (ID:Intelectual DisabilityまたはMRMental Retardation
1:知的障害
 (1)知的障害とは
  @知能とは
     知能とは、物事を的確に把握し、それを理解して、状況を判断して、適切な行動に移す、頭のはたらきです。


  A知的障害とは
     知的障害とは、金銭管理・読み書き・計算など、日常生活や学校生活の上で頭脳を使う知的行動に支障があること
     を指しています。
     通常、事故の後遺症や認知症といった発達期以後の知能の低下は知的障害としては扱われません。

     知的障害は、次の3点で定義されています。
  
      1:知的機能に制約があること  
      2:適応行動に制約を伴う状態であること
      3:発達期に生じる障害であること

     客観的基準を示す法令にあっては、次の3つを要件とするものが多い。
      
      1:発達期(おおむね18歳未満)において遅滞が生じること
      2:遅滞が明らかであること
      3:遅滞により適応行動が困難であること


 (2)知的障害と精神遅滞
     知的障害と精神遅滞とほぼ同義語ですが、次の様に使い分けられています。
     医学用語としては精神遅滞を用います。    
     学校教育法上の用語としては知的障害を用いる形で使い分けます。


 (3)知能指数

     IQ=精神年齢 ÷ 生活年齢(暦齢) × 100     (詳細は、6:知的障害の診査・診断 へ)


2:知的障害のレベル分類
(1)レベル分類
  @ボーダー(境界域)
     知能指数は85〜70程度 
     精神年齢に換算すると113か月以上129か月未満です。 (小学校5年生〜6年生位)   
     知的障害者とは認定されません。

  A軽度 F70   
     知能指数は69〜50 程度 
     7歳6か月以上113か月未満です。 (小学校1年〜5年生位)   
     
     理論上は知的障害者の8割余りがこのカテゴリーに分類されます。   
     本人・周囲ともに障害の自認がないまま社会生活を営んでいるケースも多い。   
     認定数はこれより少なくなります。。   
     
     生理的要因による障害が多く、大半が若年期の健康状態は良好です
     成人期に診断され、療育手帳が支給されないこともよくあるといいます。  
     近年は障害者雇用促進のために、精神障害者保健福祉手帳(3級程度)の所持者が増える傾向にあります。    

  B中等度F71   
     知能指数は49〜35程度
     精神年齢は53か月以上76か月未満です。 (年中児〜小学校1年生位)   
     
     合併症が多数と見られる。   
     精神疾患などを伴う場合は、療育手帳の1(重度判定)を満たすこともできます。

  C重度 F72   
     知能指数は34〜20程度です。
     精神年齢は3歳以上53か月未満です。
    
     大部分に合併症が見られます。
     多動や嗜好の偏りなどの問題が現れやすい。
     自閉症を伴う場合、噛み付きやパニック、飛び出しなど問題行為が絶え間ないケースが多い。
     精神障害者保健福祉手帳の対象とはなりません。

  D最重度 F73   
     知能指数は20未満程度
     精神年齢3歳未満です。
    
     大部分に合併症が見られます。   
     寝たきりの場合も多い。
     しかし運動機能に問題がない場合、多動などの問題行為が課題となってきます。
     重度と同様、精神障害者保健福祉手帳の対象とはなりません。


 (2)知的障害のレベル分類と生活レベル
     知的障害のレベルによって、生活レベルも異なってきます。

      参照:「発達年齢と発達過程」


 (4)大島の分類と横地分類   
  @大島の分類
     障害のレベルを運動機能と知能指数で区分するものです。
  
     縦軸=知能指数(IQ)  横軸=行動.  14の群を重症心身障害としています。

      


  A横地の分類
     大島分類の分類の項目数を増やし、具体性を持たせることにより、障害区分の枠組みを明確にしたものです。
     障害区分の枠組みを明確にした分類です。

      


3:知的障害の原因
 (1)病理的要因  
  @先天性原因
     染色体異常(ダウン症候群など) 
     遺伝性疾患(フェニルケトン尿症、テイ-サックス病、神経線維腫症、甲状腺機能低下症、など)

  A妊娠中の問題  
     母体の重度の低栄養。  
     ヒト免疫不全ウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、トキソプラズマ、風疹ウイルスによる感染
     が、原因となります。 
        参照、「風疹とTORCH症候群」  
    
     毒性物質---アルコール、鉛、メチル水銀など
     薬物---フェニトイン、バルプロ酸、イソトレチノイン(isotretinoin)、がんの化学療法薬など
     脳の異常発達---孔脳症性嚢胞、異所性灰白質、脳瘤など
     妊娠高血圧腎症、多胎妊娠 
       
  B周産期  
     出産時の酸素不足・脳の圧迫などの周産期の事故など。    

  C出生後に生じた健康障害  
     生後の高熱の後遺症などの、疾患・事故など。
   
     脳性麻痺やてんかんなどの脳の器質的な障害や、心臓病などの内部障害を合併している(重複障害)者もいます。
     身体的にも健康ではないことが多い。
     染色体異常が原因の場合は知的障害が中度・重度であったり、外見的に特徴的な容貌であることも多いとされます。

      


 (2)生理的要因  
     特に知能が低くなる疾患をもつわけではありませんが、偶然知能指数が低くて障害とみなされる範囲である時です。
     IQ69または75以下である場合となります。
     生理的要因から偶然にも遺伝子の組み合わせで生まれたことなどが原因となります。
  
     多くは合併症をもたず、健康状態は良好です。
     知的障害者の大部分はこのタイプであり、知的障害は軽度・中度であることが多い。    


 (3)心理的要因
     養育者の虐待や会話の不足など、発育環境が原因で発生する知的障害です。
     リハビリによって知能が回復することもあります。
     関連用語に「情緒障害」があります。  


4:知的障害の疫学
 (1)有病率     
     人口の約1%前後であり、年齢によって変動します。

       知的障害者:在宅者---厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」 (2016年)
      


 (2)男女比    
     およそ1.5:1で、男性に多い。
     伴性遺伝子要因や男性の脳損傷に対する脆弱性が、性差の原因かもしれないと考えられています。


 (3)重症度
    軽度精神遅滞---85%と、大部分を占めています。
    中等度障害-----10%。
    重度障害-------3-4%。

      


5:知的障害の特徴・症状
 (1)特徴    
     落ち着きがない、興味や関心に偏り、情緒不安定、注意散漫、行動に一貫性がない 、固執性  
     新しいことに適応しにくい、不器用、自己中心的、などが挙げられます。  


6:知的障害の診査・診断
 (1)知能検査
  @WISC-IV知能検査
     160ヶ月から1611ヶ月の子供を対象とします。
     検査時間は、48〜65分を要します。
     全検査知能指数および個々の認知領域における子供の能力を示す一次指標値で示されます。  

  A田中ビネ−知能検査V2003 田中教育研究所)
     ビネー式知能検査は精神年齢(MA)と生活年齢(CA)の比によってIQ(知能指数)を算出します。

      


  補足:知能指数 (IQ:Intelligence Quotient
     数字であらわした知能検査の結果の表示方式のひとつです。
   
     IQ=精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100  

     知能指数は標準得点で表され、中央値は100標準偏差は15前後で定義されています。
     100に近いほど出現率が高く、100から上下に離れるに従って出現率が減っていきます。
     分布はほぼ正規分布になり、85−115の間に約68%の人が、70−130の間に約95%の人が収まります。
  
     50−69は軽度、35−49は中度、20−34は重度、20未満は最重度知的障害とされます。
     40未満を測れない検査もあります。  

      


 (2)発達の評価
  @運動発達の評価     
     姿勢の観察、姿勢反射の評価を行います。   

  A精神発達の評価     
     言語、微細運動、生活習慣行動の評価を行います。

  B社会性の評価     
     対人関係の評価を行います。


 (3)発達の検査
   @改定日本版デンバー式発達スクリーニング検査 (JDDST-R)     
     15-20分 6歳まで


  A遠城寺式乳幼児精神発達診断検査     
     検査時間は15分程度です。
     対象は、4歳8か月までです。
     運動(移動運動・手の運動)、社会性(基本的習慣・対人関係)、言語(発語・言語理解)を観察し評価します。

      
      


  B津守式乳幼児精神発達診断検査     
     領域…0〜3歳:運動、探索・操作、社会、食事・生活習慣を評価します。        
          3〜7歳:運動、探索、社会、生活習慣、言語を評価します。


  C新版K式発達検査      
     京都市児童院-現京都市児童福祉センターで開発され標準化された検査です。
     姿勢・運動、認知・適応、言語・社会→3領域を評価します。


  補足:発達指数  (DQ=developmental quotient)
     小児期の身体・精神機能の発達を評価する発達検査の結果として算出されます。
     発達年齢(developmental age:DA)を暦年齢の比で示したものが発達指数です。  

     算出式:発達指数=DQ=DA÷age×100=発達年齢÷暦年齢×100

     対象:発達課題が明確で、個体差の少ない乳幼児期に用いられます。

     判定基準(新版K式の場合): 正常80〜120、境界域70〜79、遅滞69以下

      


  補足:発達年齢の指標
     大まかな発達年齢の指標です。

     2歳になると2語文を話すようになります。
     発達の早い子は「ブーブー,こっち,来た」などの3語文も話すようになります。

     2歳半ぐらいになると二語文・三語分を話せるようになります。
     走る・ジャンプすることができるようになります。
     手先がずいぶんと器用になり、ブロックなどの細かい作業ができるようになってきます。

     3歳を過ぎると一人で洗顔が出来、ボタンを留めることが出来れる様になります。
     この時期から、簡単な歯科治療が可能とされています。

     4歳ごろは周囲の人に興味関心を持ち、かかわりを持つようになります。
     友だちとの遊びを通じて、社会性を身につけていく時期です。
     ルールを決めて遊んだり競い合ったり、同じ行動を取ったり、相手に合わせながら遊ぶ行動が増えてきます。
     ごっこ遊びも楽しめるようになってきます。
     時にケンカになってしまうことも増えますが、その経験がとても大切と言えます。

      


7:知的障害とその他の発達障害の関連
 (1)知的障害と自閉症   
     知的障害は、知能面(IQ)の全体的な障害です。   
     自閉症の本質であるコミュニケーション障害は、対人関係面を主とした障害になります。

     昔から知られている種類の自閉症は狭義の自閉症のことです。
     狭義の自閉症とは、コミュニケーション障害と知的障害が合わさったものです。   

     近年知られてきた種類の自閉症である高機能自閉症は、コミュニケーション障害のみの障害です。   
     
     IQ35未満では、半数以上が自閉症を併発すると報告されています。  


 (2)学習障害と知的障害の違い   
  @学習障害     
     読み・書き・計算など学習面の障害がありますが、会話能力・判断力などの知能の面では障害が認められません。
  
  A知的障害     
     学習面に加えて知能面にも障害を持ちます。     
     知的障害は全般的な学習障害を認めます。


知的障害と歯科治療および口腔ケア 
知的障害の歯科医療・口腔ケア

(1)知的能力障害者の口腔の特徴   
  @う蝕
     う蝕は健常者と同様程度です。

  A歯肉炎
     歯肉炎は口腔清掃状態と関連します。
     したがって口腔ケアが十分でない場合には、歯肉炎が顕著となります。 

  Bその他の口腔疾患
     その他の様々な口腔内疾患も散見されます。       
     エナメル質減形成 矮小歯 先天的欠如 高口蓋 萌出遅延などです。  


(2)知的能力障害者の歯科治療・口腔ケアにおける問題点   
  @歯科治療の拒否がある場合もあります。     
     これは知的障害患者の特性に起因します。
     がまん出来ない、理解力が低い、過去の経験がマイナスに働いているなどが原因です。   

  Aコミュニケーション障害   

  B医学的問題     
     てんかん、循環器疾患(心疾患など) などの全身的問題がある場合もあります。


(3)知的能力障害者の歯科治療における行動調整   
    発達年齢が歯科治療の適応性(レディネス:発達と経験)に大きく関与します。
    治療開始前に発達年齢を評価し、適応性を判断する事が不可欠です。   

  @発達年齢=2歳6ヶ月程度  
     診査のみ可能で治療は困難となります。
     口腔ケアも困難な状況と言えます。    

  A発達年齢=3歳−4歳    
     歯科治療の境界域です。

  B発達年齢=4歳以上     
     歯科治療のレディネスが形成 されて居り、治療も口腔ケアも充分可能です。
     必要に応じた行動調整も必要となります。 


(4)知的能力障害者の義歯の使用    
     IQ25以下精神年齢は3歳以上5歳未満程度)では装着不可能な場合が多いとされています。
     この場合には、装着に耐えられないまたは着脱不可能な状況です。



参考資料 

 『歯医者に聞きたい 障がいのある方の歯と口の問題と対応法


 『知能指数 (講談社現代新書)


 『脳力を鍛えてIQアップ! 知能開発ドリル 3・4・5歳 新装版 (まなぶっく) 






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