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ウイルス感染症について

        

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ウイルス感染症 (viral infection)
  1:ウイルスについて
 (1)ウイルスとは
      他生物細胞を利用して自己を複製させる、極微小な感染性の構造体で、タンパク質の殻とその内部に入っている
      核酸から出来ています。
      生命の最小単位である細胞やその生体膜である細胞膜も持たないこと、小器官がないこと、自己増殖することがない
      ことから、生物かどうかについては未だ議論がある所です。

        


 (2)ウイルスの特徴
     ウイルスは以下のような点で、一般的な生物と大きく異なっています。
       @非細胞性で細胞質などは持たず、基本的にはタンパク質と核酸からなる粒子です。

       A大部分の生物は細胞内部にDNAとRNAの両方の核酸が存在するが、ウイルス粒子内には基本的に
         どちらか片方だけしかありません。

       B他のほとんどの生物の細胞は2nで指数関数的に増殖するのに対し、ウイルスは一段階増殖をします。
         また、ウイルス粒子が見かけ上消えてしまう暗黒期が存在します。

         Wikipdeia 「ウイルス」から引用

       C代謝系を持たず、自己増殖できない。
         他生物の細胞に寄生することによってのみ増殖できる。
         自分自身でエネルギーを産生せず、宿主細胞の作るエネルギーを利用する
        
        
        『病気がみえる vol.6 免疫 膠原病 感染症』 から引用


 (3)ウイルスの大きさ(長径)
     細菌の50分の1程度の大きさです。
     小さいもので20〜40nm、大きいものも含め平均すると100nmほどです。
     最も大きい天然痘ウイルスは長径300nmで、原核生物で最も小さいマイコプラズマ(200〜300nm)よりも大きい。
     ウイルスは光学顕微鏡では観察できず、電子顕微鏡が必要となります。
     電子線を照射するため生きた細胞内のウイルスを観察することはできません。

        
        『病気がみえる vol.6 免疫 膠原病 感染症』 から引用


2:ウイルスの構造
 (1)ウイルスの基本構造
     粒子の中心にあるウイルス核酸と、それを取り囲むカプシド と呼ばれるタンパク質の殻から構成された粒子です。
     ウイルス核酸とカプシドを併せたものをヌクレオカプシドと呼びます。
     ウイルスによっては、エンベロープ と呼ばれる膜成分など、ヌクレオカプシド以外の物質を含むものがあります。

     これらの必要な構造を全て備え、宿主に対して感染可能な完全なウイルス粒子をビリオンと呼びます。

        1. カプシド、2. ウイルス核酸、3. カプソマー、4. ヌクレオカプシド、5. ビリオン、6. エンベロープ、
        7. スパイクタンパク質  (下図はWikipedia 「ウイルスの構造」から引用)

         (A)エンベロープを持たないウイルス

        


         (B)エンベロープを持つウイルス


 (2)エンベロープについて
     エンベロープタンパク質には、そのウイルスが宿主細胞に吸着・侵入する際に細胞側が持つレセプターに結合
     したり、免疫などの生体防御機能を回避したりなど、様々な機能を持つものが知られています。
     
     エンベロープはウイルスの感染に重要な役割を果たしています。

     エンベロープはその大部分が脂質から成るためエタノール有機溶媒石けんなどで処理すると容易に破壊する
     ことができます。
     このため一般にエンベロープを持つウイルスは、エンベロープを持たないウイルスに比べると
     消毒用アルコールでの不活化が容易です。

        


3:ウイルスの分類
 (1)DNAウイルスとRNAウイルス
   @DNAウイルス
      ゲノムとしてDNAをもつウイルスです。
      ゲノムDNAから宿主細胞のRNAポリメラーゼを利用してmRNAを合成し、そのmRNAから蛋白質を合成します。
      DNAウイルスには増殖の過程で生じたDNA複製のミスを修正する機構が備わっています。
      そのためRNAウイルスと比較すると遺伝子の変異が少ないと言えます。

        

   ARNAウイルス
      ゲノムとしてリボ核酸 (RNA)をもつウイルスです。
      RNA転写ではDNA転写の場合のような エラーチェック機構が働かないので、遺伝子の変異が多いと言えます。           
      RNAウイルスは、自然界に存在するウイルスの多数派です。


 (2)DNAウイルスとRNAウイルスの分類
   @ 2本鎖DNAウイルス
 
     感染すると多くの場合細胞の核に移行し、宿主の複製機構を使って増えます。
      宿主のRNAポリメラーゼを使ってmRNAを作り、ウイルス蛋白質を産生します。
        例:アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、 EBウイルス、など。

        

   A2本鎖DNAウイルス[逆転写]
      2本鎖DNAではありますが、いったんRNAを作ります。  
      そのRNAを逆転写することでDNAを作って自らを複製していきます。
        例:B型肝炎ウイルス

   B1本鎖DNAウイルス
 
     自らのゲノムを鋳型に2本鎖DNAを作り、複製します。
        例:アデノ随伴ウイルス

   C2本鎖RNAウイルス
      プラス鎖のRNAがmRNAとなりウイルス蛋白質を作る。  
      自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼを用いて粒子内で複製を行います。
        例:ロタウイルス
  
   D1本鎖RNAウイルス[プラス鎖]
      ゲノム本体そのものがmRNAとして働き、ウイルス蛋白質を作り出します。  
      細胞質内で自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼで複製します。
        例:コロナウイルス、エンテロウイルス、風疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス、
          C型肝炎ウイルス、ノロウイルス

   E1本鎖RNAウイルス[マイナス鎖]    
      まず本体であるゲノムRNAを鋳型にmRNAを作り、このmRNAからウイルス蛋白質を作る。  
      多くの場合、細胞質で複製を行う。    
        例:麻疹ウイルス、センダイウイルス、ムンプスウイルス、RSウイルス、狂犬病ウイルス、
          エボラウイルス、インフルエンザウイルス

   F1本鎖RNAウイルス[逆転写]
 
     本体であるプラス鎖RNAを逆転写し、2本鎖DNAを作り、宿主のゲノムに組み込まれます。  
      ゲノムに組み込まれたDNAからmRNAを作り、ウイルス蛋白質を産生します。    
        例:ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV

   
        


4:ウイルス感染症とは
  ヒトの体にウイルスが侵入すると、ヒトの細胞の中に入って自分のコピーを作らせます。
  細胞が破裂してたくさんのウイルスが飛び出し、ほかの細胞に入りこみます。
  このようにして、ウイルスは増殖していきます。
  
  ウイルス感染症とは、生物の体内に病原性ウイルスが侵入し、感染性ウイルス粒子(ビリオン)が感受性細胞に付着して
  侵入したときに発生する感染症です。


5:ウイルス感染症の治療
  ウイルスは大きさや仕組みが細菌と異なるので抗菌薬(抗生剤、抗生物質)は効きません
  抗ウイルス薬はまだ少数しか開発されていません。
  多くの場合、対症療法が適応されます。

 (1)対症療法(症状を改善する治療)
     多くのウイルスには特別な治療法がありません。
     しかし、以下のように様々な方法で特定の症状を和らげることができます。

   @脱水
      十分な水分補給、ときに静脈から投与する輸液を行います。

   A下痢
      ときにロペラミド(腸管の運動を抑制する薬です)
  
   B発熱と痛み
      アセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)

   C吐き気と嘔吐
      澄んだ液体の流動食やときにオンダンセトロンなどの制吐薬(吐き気止め)

   D発疹(一部のもの)
      鎮痛作用のあるクリームや保湿クリームの塗布します。
      ときにかゆみを抑える抗ヒスタミン薬の経口投与します。

   E鼻水
      ときにフェニレフリンやフェニルプロパノールアミンなどの鼻閉改善薬

   Fどの痛み
      ときに、のどを麻痺させる作用のあるアミノ安息香酸エチルやジクロニン(dyclonine)を含むトローチ。
      こうした症状がみられる人すべてに治療が必要なわけではありません。
      軽症の場合は、自然に解消されるのを待つ方がよい場合もあります。


 (2)抗ウイルス薬

     ウイルス感染症を治療するための薬を抗ウイルス薬と呼びます。
     多くのウイルス感染症には、効果的な抗ウイルス薬がありません。
     
   @抗ウイルス薬の作用機序
      抗ウイルス薬の多くは、ウイルスの複製を抑えることで作用します。
      HIV感染症 の治療薬は、ほとんどがそのように作用します。
      ウイルスは非常に小さく、感染した細胞内でその細胞の代謝機能を利用して自らを複製するため、
      抗ウイルス薬では少数の代謝機能しか攻撃できません。

   A抗ウイルスが有効な病気
       インフルエンザ------------数種類の薬があります。
       ヘルペスウイルス感染症----多くの薬があります
       HIV感染症---------------いくつかの治療薬があります。
       C型肝炎-----------------多数の新しい抗ウイルス薬があります。


 (3)インターフェロン
     体内で自然に作られる、ウイルスの複製を遅らせたり止めたりする物質を模倣したものです。
     このような薬は以下のようなウイルス感染症の治療に用いられます。
        B型慢性肝炎
        C型慢性肝炎
        尖圭コンジローマ

     インターフェロンには、発熱、悪寒、筋力低下、筋肉痛などの副作用が生じることがあります。
     副作用は通常、最初の注射後7〜12時間で発現し、最長で12時間持続します。



参考資料
 
 『生命科学のためのウイルス学―感染と宿主応答のしくみ,医療への応用


 『医科ウイルス学


 『新しいウイルス入門 (ブルーバックス)


  『病気がみえる vol.6 免疫・膠原病・感染症』  


  『全ての病気は「口の中」から!』


  『マンガでわかる感染症のしくみ事典』


  絵でわかる感染症 with もやしもん (KS絵でわかるシリーズ)


  『感染症 ウイルス・細菌との闘い』  (別冊日経サイエンス238)


  『戸田新細菌学第34版』 南山堂 2013


 『標準微生物学 第14版 (Standard Textbook)』  医学書院 2021



「厚労省感染症情報」 厚労省



『デンタルプラーク 細菌の世界』 奥田 克爾 1996 医歯薬出版

『歯界展望 MOOK PMTC』 内山 茂 1996 医歯薬出版

『歯界展望 別冊 歯周病のメインテナンス治療』 2000 医歯薬出版





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