口角炎とは
口角の皮膚および粘膜に、溝やびらん、潰瘍が生じて慢性に経過する病態をいいます。
なお口角びらんともいいます。
原因
口角部の皮膚が唾液によって浸軟され、ここに2次的に感染が起こったことによります。
口角炎には種々の原因、誘因が考えられ、それらがいくつか関わり合って症状が発現していると理解されます。
素因
口角の皮膚が浸軟されやすいのは、この部のもつ解剖学的特異性によるものと考えられます。
すなわち口腔の粘膜は、赤唇を経て口唇の皮膚にいたるが、その赤唇の幅は口角で最も狭く、粘膜と皮膚とは近接していること、
しかも皮膚が少し口裂に落ち込み皮膚の溝が形成されていることによる。
局所的原因
@上下顎間距離の低下(咬合高径の減少)
歯の咬耗がはなはだしいときや、無歯顎あるいは咬合高径の著しく低い義歯を装用しているとき。
口角部の皮膚が折れ込んで溝をつくり、ここに唾液が湿潤、停滞する。
A唾液分泌量の過多
乳児、そして一般的に唾液分泌量が減少するといわれている老人も、副交感神経刺激状態では分泌量が増す。
B悪習癖
口角炎は「なめる」というフランス語に由来している。
口角部をよくなめる習慣のあるときは起こりやすい。
C機械的損傷
口腔内手術時の鉤などによる過度の牽引後に起こる。
D口腔内不潔
不適合補綴物の装用ではカンジダの増殖がみられる。
誘因
さらに全身性の抵抗減弱(免疫力低下)をきたすような基礎疾患が誘因として存在していることが多いです。 そしてこの基礎疾患は、びらんや潰瘍の治癒を遷延させ、2次感染の素地をつくっています。 @ビタミンの欠乏症(A、B2、B5、B6、B12)
特にリボフラビン(ビタミンB2)欠乏症で発症しやすい。
口角部粘膜および唇交連の白色あるいは蒼白化で、次いでこの部に浸軟が起こり、開口時に疼痛が発生する。 さらに症状がすすむと溝やひび割れとなり、潰瘍が生じて細菌の2次感染が起こる。 そしてそのほかの症状として、間質性角膜炎と鼻唇溝や鼻孔などに、脂漏生皮膚炎がある。 A糖尿病
B鉄欠乏性(低色素性)貧血
病気が進行すると消化器系粘膜の萎縮が起こり、頬粘膜の肥厚、口角びらん、舌乳頭の消失(赤い平らな舌)などがみられる。 Cステロイド剤や広範囲スペクトル抗生物質の長期使用 D悪性腫瘍の治療の抗癌剤、放射線照射 E悪性腫瘍の末期 Fアトピー性皮膚炎 G消化器系疾患(慢性下痢など)
臨床的特徴
好発部位
両側、ときには片側口角部に生じます。
好発年齢 小児や老人によくみられます。 小児では男児に多く、中高年では女性に多いです。
臨床症状
症状
原因、誘因、患者の年齢などにより臨床像にはいくらか差がありますが、一般的なものは以下です。
咬合高径が異常に低くなり、皮膚が常時唾液に接する状態になると、角質層は浸軟されて亀裂ができます。 この裂隙には常に唾液が停滞し、皮膚はさらに軟らかくなって深い溝やびらん、潰瘍が生じます。 このびらんの潰瘍面は痂皮で覆われていますが、この痂皮も浸軟されます。
また口角は運動、変形のはなはだしいところなので、痂皮は脱落し、創はし開します。 そして口を動かすと、引き裂くような疼痛を感じるので開口障害が起きます。 なお、ビタミン欠乏症や貧血、糖尿病、悪性腫瘍などの基礎疾患があると難治性となります。
ブドウ球菌、連鎖球菌の2次感染では発赤、腫脹、疼痛があります。 また上顎洞手術などの際に過度に進展させると、単純疱疹ウイルスの再発感染を示す一群の水疱を生じることがあります。
カンジダの2次感染では、口角部にある厚い乳白色の偽膜を少し力を入れて剥がすと下に赤いびらん、潰瘍面が現れます。 偽膜性カンジダ症:上皮が肥厚すると硬結を触れます。 肥厚性カンジダ症:口腔カンジダ症の口角部への波及は口角炎とは呼びません。
治療法 口角炎の原因を考えた上で、それに対する原因療法を行う。 又口腔保清は必須条件です。 例1 ブドウ球菌による口角炎(小児に多い):ゲンタシン軟膏などの抗生剤軟膏の塗布 例2 カンジダによる口角炎(高齢者に多い):フロリードDなどの軟膏塗布
症例ノート
カンジダによる口角炎

口腔乾燥による口角炎

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