はじめに:不安症の分類
A:不安症(不安神経症)
1:分離不安症(分離不安障害)
2:選択性緘黙(かんもく)(SM:Selective Mutism)
3:限局性恐怖症 (specific phobia)
1-動物恐怖症 2-高所恐怖症 3-雷恐怖症または雷鳴恐怖症
4-閉所恐怖症 5-先端恐怖症 6-歯科恐怖症
4:社交不安症
5:パニック症
B:強迫症(強迫性障害)
1:強迫症
2:醜形恐怖症(身体醜形障害)
1:分離不安症/分離不安障害
(1)概念
愛着対象(通常は母親)からの分離に対して発達段階に不相応で持続的かつ強烈な恐怖を覚える状態です。
患児はそのような分離を必死になって回避しようとします。
分離を強制した場合,患児は悲痛なまでに再会することのみに囚われ続けます。
生後8〜24カ月の小児では正常な感情であると言えます。
対象の永続性という感覚が発達し,親はいずれ戻ってくるということを理解するようになれば消失するのが通常です。

(2)病因・誘因
生活上のストレスが分離不安症を誘発することがあります。
例:近親者,友人,またはペットの死。転居、転校、など。
(3)症状
患児はしばしば身体的愁訴を来します
例:頭痛、胃痛など。
分離不安症もしばしば登校(または登園)拒否の形で現れて来ます。
(4)診断
分離不安症の診断は、病歴聴取と分離場面の観察によって行われます。.
症状と徴候は4週間以上みられ、有意な苦痛または機能障害を来しています。
例:年齢相当の社会的活動または学校の活動に参加できない。
(5)治療
@行動療法
定期的な分離を系統的に強化する行動療法による.
A薬物療法
まれに抗不安薬が使われます。
極端な症例では,抗不安薬(SSRIなど)が有益となることがあります。
(6)予後
治療が成功した小児でも,休日や学校の中断の後では再発しやすくなります。
親との別離に対する慣れを維持するために,そのような期間には定期的に分離を計画するようしばしば親に
指導します。
2:選択性緘黙(かんもく)(SM:Selective Mutism)
(1)概念
家庭などでは話すことが出来るのに、社会不安(社会的状況における不安)のために、ある特定の場面・状況では
話すことができなくなる障害です。

(2)疫学
@発症年齢
一般的に、2〜5歳の間に発症します。
A発症率
発生率は1000人中7人位とされています。
(2002:The Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry)
(3)症状
ある特定の場面・状況でだけ話せなくなってしまう障害です。
脳機能そのものに問題があるわけではなく、行動面や学習面などでも問題を持ちません。
単なる人見知りや恥ずかしがり屋との違いは、症状が大変強く、自然には症状が改善しない点です。
(4)診断
@診断基準
他の状況では話すことができるにもかかわらず、ある特定の状況では、一貫して話すことができない疾患です。
この疾患によって、学業上、職業上の成績、または社会的な交流の機会を持つことを著しく阻害されます。
このような状態が、少なくとも一ヶ月以上続いている事が診断基準になります。
これは、学校での最初の一ヶ月間に限定されません。
話すことができないのは、話し言葉を知らなかったり、うまく話せない、という理由からではありません。
コミュニケーション障害(例:吃音症)では説明がつきません。
また、広汎性発達障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中経過中にのみ起こるものでも
ありません。
(5)治療
@原因の究明
選択性緘黙を引き起こす理由は、人それぞれです。
その原因を見極めることが治療の一歩になることでしょう。
治療方法も人それぞれです。
一番は、カウンセラーなどの専門家への相談が大事です。
小さい子の場合は、遊具やおもちゃを介して他人と少しづつ距離を縮めていくなどの対応方法もあります。
A段階的暴露療法(系統的脱感作法)
何かの刺激によって不安が生じた場合、その刺激を回避することによってかえって不安が慢性化したり、悪化したり
することがあります。
不安の発生要因は刺激ですが、慢性化や悪化の要因は回避なのです。
このような場合には回避を中止すること、すなわち刺激に自然に触れることが有効です。
3:限局性恐怖症 (specific phobia)
(1)概念
特定の状況、環境、または対象に対する持続的で不合理な強い恐怖(恐怖症)からおこります。
その恐怖により不安および回避が誘発されます。
例:
1;動物恐怖症、 2;高所恐怖症、 3;雷恐怖症または雷鳴恐怖症
4;閉所恐怖症、 5;先端恐怖症、 6;歯科恐怖症

例外:
1;醜形恐怖症、疾病恐怖症を含まない。
(2)症状
血液、針、または外傷に対する恐怖症を有する人は、実際に失神することがあります。
これは過度の血管迷走神経反射が徐脈と起立性低血圧を引き起こすためです。
(3)診断
@診断基準
患者は、特定の状況または対象に対して、著明で持続する(6カ月以上)恐怖または不安が認められます。
かつ、以下の全てに該当します。
1)その状況または対象は、ほとんど常に、直ちに恐怖または不安を引き起こす。
2)患者がその状況または対象を積極的に回避している。
3)恐怖または不安が実際の危険と(社会文化的な背景を考慮しても)釣り合わない。
4)恐怖,不安,および/または回避が,著しい苦痛を引き起こしているか,または社会的もしくは職業的機能を
著しく損なっている.
(4)治療
@曝露療法(系統的脱感作法)
A薬物療法
ときにベンゾジアゼピン系薬剤、またはβ遮断薬の限定的使用がなされます。
4:社交不安症
(1)概念
何かを実施する特定の対人場面に曝露されることに関する恐怖および不安が生じます。
それらの状況は回避されるか,耐えるのに強い不安を伴います。.
(2)疫学
@生涯有病率
13%以上である可能性があるとも言われています。
A性差
男性は、女性よりも社交不安の最重症型である回避性パーソナリティ障害を有する可能性が高いとされています。
(3)症状
頭が真っ白になり何も答えられない。
声が震える、声が出ない、手足の震え。
めまい、動悸、口が渇く、赤面する、汗が出る、吐き気がする、胃のむかつき等。
通常、同じ活動を1人で行った場合には不安は生じません。
(4)診断
@診断基準
患者が1つ以上の対人場面に関する、著明な(6カ月以上)持続する恐怖または不安を有する必要があります。
恐怖には、他者による否定的評価が関わっている必要があります。
例---患者が屈辱を感じる、恥をかく、もしくは拒否される、または他者の気分を害する、など。
さらに、以下の全てが認められる必要があります。
1)同じ対人場面は、ほとんど常に恐怖または不安を引き起こす。
2)患者がその状況を積極的に回避している。
3)恐怖または不安が実際の脅威と(社会文化的な背景を考慮しても)釣り合わない。
4)恐怖、不安、および/または回避が、著しい苦痛を引き起こしているか、または社会的もしくは職業的機能を
著しく損なっている。
(5)治療
@行動療法
認知行動療法
A薬物療法
ときにSSRI(抗うつ薬)が使用されます。
5:パニック症
(1)概念
@パニック発作
身体症状and/or認知的症状を伴う強い不快感、不安または恐怖が、突然に個別に短時間発現する現象です。
Aパニック症
パニック発作が繰り返し発生し、典型的にはそれに付随して,将来の発作に対する恐怖,または発作を起こしやすい
と考えられる状況を回避しようとする行動の変化が生じます。

(2)疫学
@好発時期
パニック症は青年期後期または成人期早期に始まります。
A性差
男性:女性=1:2 女性に多いとされています。
(3)パニック発作の症状
@認知的症状
死の恐怖。
正気や自制心を失うことへの恐怖。
非現実感,違和感(現実感消失),または自分自身から離脱した感覚(離人感).
A身体症状
胸痛または胸部不快感
めまい、不安定感,またはふらつき
窒息感
紅潮または悪寒
悪心または腹部不快感
しびれまたはチクチク感
動悸または心拍数増加
息切れ感または息苦しさ
発汗
振戦または震え
(4)パニック症の症状
パニック発作から始まります。
発作を繰り返すうちに、発作のないときに予期不安や広場恐怖といった症状が現れるようになります。
長期化するとうつ症状を伴うようになることも多くなります。
(5)診断
@診断基準
パニック発作を反復しており(頻度の規定はない)、そのうち1回以上の発作後に、以下の片方または両方が
1カ月以上続いていなければなりません。
さらなるパニック発作を起こすことに関する持続的な心配、またはその結果に関する心配があります。
例---自制心を失う,正気を失う
パニック発作に対する不適応な行動的反応
例---さらなる発作を防ごうとして運動や対人場面などの一般的活動を避ける
(6)治療
@薬物療法
しばしば抗うつ薬,ベンゾジアゼピン系薬剤,またはその両方.
A行動療法
しばしば薬物以外の対策も取られます。
例---曝露療法,認知行動療法
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