1:神経性やせ症(神経性無食欲症) (AN:Anorexia Nervosa )
(1)概念
やせへの執拗な追求、肥満に対する病的な恐怖、身体像の歪み、および必要量に対する相対的な摂取量制限が
健康を害する程度の有意な低体重につながっていることを特徴とします。
この障害は排出(例:自己誘発性嘔吐)を伴う場合もあれば、伴わない場合もあります。

(2)病型
@制限型
現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや、排出行動(自己誘発性嘔吐、または
下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用)を行ったことがないタイプです。
Aむちゃ食い/排出型
現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや、排出行動(自己誘発性嘔吐、または
下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用)を行ったことがあるタイプです。
(3)原因
発症原因は諸説あります。
しかし現代においてはそれらが相互に複雑に関連し合って発症に至ると考えられています。
@社会文化的要因
肥満蔑視、やせに価値があるといいます。
A心理的要因
成熟拒否や、自己同一性獲得の失敗等が挙げられます。
B生物学的要因
脳機能の異常に原因を求める場合です。
(4)疫学
@好発年齢
10〜19才に多く、40才以上は稀とされています。
A性差
90%が女性で、男性はわずかです。
(5)症状
@栄養不足による症状として
無月経・便秘・低血圧・徐脈・脱水・末梢循環障害・低体温・産毛密生・毛髪脱落・柑皮症・浮腫、など。
A嘔吐がある場合
唾液腺腫脹、歯牙侵食、吐きダコがみられます。

B精神疾患の併存
気分障害、不安障害、物質関連障害・人格障害などの併発が見られます。
C食物への偏執
食事およびカロリーについて研究する。
食物をためこみ、隠し,浪費する。
レシピを収集する。
他者のために手の込んだ食事を作る。
(6)診断基準 (DSM-IV-TR)
次の4項目を満たすと神経性無食欲症と診断されます。
@年齢と身長に対する正常体重の最低限、またはそれ以上を維持することの拒否
例:期待される体重の85%以下の体重が続くような体重減少
または成長期間中に期待される体重増加がなく、期待される体重の85%以下になる.
A体重が不足している場合でも、体重が増えること、または肥満することに対する強い恐怖
B自分の体重または体型の感じ方の障害、自己評価に対する体重や体型の過剰な影響、
または現在の低体重の重大さの否認.
C初潮後の女性の場合は、無月経、すなわち月経周期が連続して少なくとも3回欠如する
エストロゲンなどのホルモン投与後にのみ月経が起きている場合,
その女性は無月経とみなされます。
(7)治療
@栄養補給
体重減少が重度もしくは急激である場合,または体重が推奨体重の約75%未満まで低下している場合には、
速やかな体重回復が不可欠であり,入院を考慮します。
一般的には複数の医療従事者がチームとして関与します。
A精神療法(認知行動療法)
不安や抑うつなどの情動面の改善
適切な食習慣の形成
食事や体重に関する信念や価値観の是正 など
2:神経性過食(大食)症 (BN:Bulimia Nervosa )
(1)概念
反復的な過食エピソードに続いて排出(自己誘発性嘔吐,下剤もしくは利尿薬の乱用),絶食,または衝動的運動など
いくつかのタイプの不適切な代償行動により特徴づけられている障がいです。
3カ月にわたり週1回以上の頻度でエピソードがみられる必要があります。
(2)病型
@排出型
現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は定期的に自己誘発性嘔吐をする.
または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用をする.
A非排出型
現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は、絶食または過剰な運動などの他の不適切な代償行為を
行ったことがある。
しかし、定期的に自己誘発性嘔吐、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用はしたことがない
(3)疫学
@有病率
1〜3%。
一生のうちに一度でも過食症の診断基準を満たす人は全女性の約12%位です。
A好発年齢・他
20-29才に多くが発症します。
90%が女性です。
多くは発症前にダイエットを経験し、ANから移行することもあります。
通常、神経性過食症患者の体重は、神経性やせ症とは異なり,正常または平均以上です。
(4)症状
@合併症
神経性過食症の過食は、大量の食物を、詰め込むように一気に食べるのが特徴です。
ときに重篤な水・電解質バランスの異常(特に低カリウム血症)が生じます。
ごくまれに、過食または排出といったエピソード中に胃または食道の破裂が発生し、生命を脅かす合併症につながる
ことがあります。
大幅な体重減少は生じないため,神経性やせ症で生じる重篤な栄養不足はみられません。
嘔吐を誘発するためにトコンシロップを使用される場合,本剤の長期乱用により,心筋症が発生することがあります。
A身体徴候
耳下腺の腫脹
手拳上の瘢痕(自己誘発性嘔吐によるもの)
(5)診断基準 (DSM-IV-TR)
次の5項目を満たすと神経性大食症と診断される.
@無茶食いのエピソードの繰り返し(無茶食いのエピソードは以下の2つによって特徴づけられる)
ほとんどの人が同じような時間に同じような環境で食べる量よりも明らかに多い食物をたべること.
そのエピソードの期間では、食べることを制御できないという感覚.
A体重の増加を防ぐために不適切な代償行動を繰り返す.
例:自己誘発性嘔吐、下剤、利尿剤、浣腸またはその他の薬剤の誤った使用
絶食、過剰な運動 。
Bむちゃ食いおよび不適切な代償行動はともに、少なくとも3カ月間にわたって週2回起 こっている.
C自己評価は、体型および体重の影響を過剰に受けている.
D障害は、神経性無食欲症のエピソード期間中にのみ起こるものではない.
(6)治療
@食事に関する基本的な指導
過食以外がほとんど絶食の状態ですと、過食を止めるのは困難です。
過食ゼロよりも、食事の規則性やコントロール感を取り戻すことを目指します。
毎日の生活パターンを把握し、生活のリズムを決め、基本的な食事指導を行います。
その上で、薬物療法、心理療法(認知行動療法など)を行います。
A薬物治療
SSRI※などの抗うつ剤が過食嘔吐を減らす効果があると言われています。
ただし、長期の効果については不明で、薬物だけでの完治は困難だと考えられています。
B心理療法
認知行動療法も効果があります。
これは、症状やその背景の気持ちを本人が記録し、それを検討しながら症状コントロールについて考えていくものです。
3:異食症(Pica)
(1)概念
栄養価の無いものを無性に食べたくなる症候です。
食する対象は、土・紙・粘土・毛・氷・木炭・チョークなどが挙げられます。
小児と、大人の妊婦に多く認められます。
(2)分類
@氷食症
氷を異常な量食べてしまう。大人に多い.
A土食症
土を食べてしまう。子供に多い。
B食毛症
体毛をむしりとって食べたりする。子供に多い。
精神的ストレスと関連が深い。
放置すると、毛を食べることが癖になり、紙や粘土など何でも食べてしまう慢性的な異食症に移行することがあります。
毛が腸内に移動してイレウス(腸閉塞)を発症することがあります。
毛髪胃石を引き起こし胃石の圧迫による胃潰瘍を発症することがあります。
(3)原因
@栄養障害・栄養不良(特に鉄欠乏性貧血・亜鉛欠乏)
特に貧血の場合には氷食症、土食症が多い。
A極度の精神的ストレス
食毛症・抜毛症からの移行もある。
ストレスによりセロトニン不足が生じ、感情や欲求が抑制できなくなるのが一因と言われています。
B精神遅滞・精神疾患合併の一症状として
C脳腫瘍による異常行動の一症状として
D寄生虫の感染(特に鉤虫症)の場合
E若い女性で、妊娠時に軽い病態がみられることがある。
鉄欠乏性貧血が強くなることが原因です。
氷食症が多いが、火を通していないジャガイモや小麦粉を食べるなどの異常行動も多い。
脳への酸素供給量の不足により、満腹中枢障害や体温調節障害が起こるためと考えられています。
(4)症状
@合併症
胃炎・胃潰瘍-------消化の悪いものを食べることによります。
イレウス(腸閉塞)---消化の悪いものを食べて腸が詰まることによって生じます。
鉛中毒−----------塗料片を摂取することによります。
寄生虫感染症------土を摂取することによるります。
A精神疾患との合併
異食症は機能を障害する他の精神障害の患者にしばしば併発します。
例---自閉スペクトラム症,知的能力障害,統合失調症、など。
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