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1:ロタウイルスの概要
(1)ロタウイルス
乳幼児における下痢症の主要な病原体で、レオウイルス科に属する二本鎖RNAウイルスです。
ロタウイルスはAからH群までの8つの種に分かれます。
ヒトは主にA群、B群、C群に感染し、特にA群への感染が多い。
ウイルス粒子の粒子径は最大で76.4 nmであり、エンベロープを持ちません。
エンベロープを持たないウイルスにはアルコール消毒が無効な場合が多い。
(2)ロタウイルス感染症
ほとんどの乳幼児が5-6歳までに一度はロタウイルスの感染を経験します。
感染のたびに免疫が誘導されるため、回を追うごとに軽症化します。
大人は発症しないか、極めて軽微となります。
ロタウイルスは小腸の腸管上皮細胞に感染し、微絨毛の配列の乱れや欠落などの組織病変の変化を起こします。
これにより腸からの水の吸収が阻害され下痢症を発症します。
2:感染様式
(1)感染経路
汚染された手や物との接触を通じて糞口経路によって伝播します。
さらに空気感染の可能性もあります。
ウイルス性の下痢は感染性が非常に高いとされています。
感染者の糞便は1グラムあたりで最大10兆以上のウイルス粒子を含みます。
100以下のウイルス粒子でも感染が成立します。
20分未満のウイルス曝露で感染が成立すると言われています。
(2)潜伏期間
通常2日未満(48時間未満)の潜伏期間を経て、軽微な発熱,、嘔吐で発症します。
24〜48時間後から最長14日間(通常3〜7日間)の水様性下痢を伴う胃腸炎となります。
3:疫学
(1)ウイルス別感染者数
ロタウイルス感染症は小児で多く、大人は発症しないか、極めて軽微となります。

「国立感染症研究所」 HPから引用
(2)流行時期
感染性胃腸炎の流行曲線を描くと、毎年年末年始にピークがあり、秋口にかけて減少をたどります。
ここからロタウイルスだけを抽出すると患者は年末から報告されるようになり、ピークは春先に認められます。

「国立感染症研究所」 HPから引用
(3)感染症法
感染性胃腸炎(病原体がロタウイルスであるものに限る)は5類感染症であり、指定届出機関は週毎に保健所に
届け出なければなりません。
4:症状
(1)主症状
下痢(血便、粘血便は伴わない)、嘔気、嘔吐、発熱、腹痛です。
(2)症状の経過
通常は発熱(1/3の小児が39度以上の発熱を認める)と嘔吐から症状が始まります。
24〜48時間後に頻繁な水様便を認めます。
通常1〜2週間で自然に治癒します。
脱水がひどくなるとショック、電解質異常、時には死に至ることもあります。
(3)合併症
@脱水症状
脱水の程度や臨床的重症度は他のウイルス性胃腸炎より重いことがあります。
主に4〜23か月児に重度の脱水症を認めます。
A重度脱水症からの続発症
腎前性腎不全、高尿酸血症、それに続く尿酸結石、腎後性腎不全などがあります。
Bロタウイルス脳炎・脳症
特徴としては、けいれんが難治性で、後遺症を残した症例が38%にのぼり予後不良であった。
これらの患者の年齢は1歳児、2歳児が多く、急性胃腸炎の好発年齢に合致して報告患者が多くなっています。
5:診断
(1)血液検査所見
一般的には異常を認めません。
重症度により血清電解質異常, BUN上昇, 低血糖, 代謝性アシドーシスなどを伴うことがあります。
(2)病原診断
便の迅速抗原検査を用いることが多く, 検査の感度・特異度は高いとされています。
15分程度で結果が判明します。
6:治療
臨床的にロタウイルス胃腸炎に特異的な治療法はなく、下痢、脱水、嘔吐に対する治療を行います。
(1)臨床的重症度が軽症の場合
経口補液、あるいは外来での静脈輸液を行います。
(2)中等症以上の場合
入院して静脈輸液、経口補液を併用します。
また、合併症があるときには合併症に準じた治療を行います。
(3)予後
感染した小児のおよそ50%が受診、そのうち約10%が脱水を理由に入院が必要となります。
7:予防
(1)衛生管理
感染経路を考慮すると、特に飲食物を扱う人が十分な衛生管理を行うことが効果的な感染予防につながります。
アルコール消毒ではロタウイルスを不活化出来ないことを知る事が重要です。
@手洗い
日頃から衛生的な手洗いを行います。
特にトイレ使用後や調理前には十分な手洗いを心がけます。
A調理における注意
下痢や嘔吐等、体調不良時には調理しません。
家族に嘔吐や下痢をしている人がいる場合も手洗い・体調管理に気をつけます。残菜は密封して捨てます。
調理器具や調理台などは、いつも清潔にし、熱湯や次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。
85℃以上で少なくとも1分以上加熱する必要があるとされています。
B吐物処理
吐物処理やトイレ清掃は使い捨ての手袋、マスクを着用して行います。
嘔吐物は3m位まで飛散していると考えて処理を進めます。
嘔吐物を拡散させないように、0.1〜0.2%次亜塩素酸ナトリウムを浸したペーパータオル等で嘔吐物を覆います。
吐物・使用済み資材はビニール袋に入れて密封して捨てます。

嘔吐物処理セット 1箱(1回分)
C清掃
0.1〜0.2%(1000〜2000ppm)次亜塩素酸ナトリウムによる清拭消毒も行い、使用済み資材は同じ袋に入れて
捨てます。
衣類やカーペットが吐物で汚れた場合は、他にウイルスを拡散しないように注意深く汚れを落とし、熱湯などで
消毒します。
(汚染を拡大しない処理は難しいので、廃棄した方が良い場合もあります)
Dオムツ交換の方法
オムツ交換をするときは、使い捨てのゴム手袋などを使い、できるだけ直接手で触れない工夫をします。
捨てる場合はポリ袋などに入れ、周りを汚染しないように注意が必要です。
(2)ワクチン
@ロタウイルスワクチン
ロタウイルスは感染性が強く、また抗生物質やその他の治療薬は効果がありません。
衛生状態の改善ではロタウイルス感染症の蔓延を防ぐことができません。
さらに、経口補水を行なってもなお入院率が高いため予防接種が推奨されています。
ロタウイルスワクチンは弱毒化されたロタウイルスから製造される経口ワクチンです。
Aワクチンの種類
1)ロタリックスR
ロタウイルス胃腸炎患者から分離したヒトロタウイルスを弱毒化し、細胞培養で増殖後精製した
1価経口弱毒生ワクチンです。
2)ロタテックR
ヒト及びウシロタウイルスの遺伝子をリアソータント(遺伝子組換え)させて生成した5価経口弱毒生ワクチンです。

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