ヒトパピローマウイルス感染症 (HPV:Human Papilloma Virus infection) |
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1:HPV感染症
(1)ヒトパピローマウイルスとは
エンベロープを持たない環状構造の二本鎖DNAウイルスです。
百数十種類以上の型があります。
乳頭腫の形成と関連があるとされています。
少なくともそのうちの13種類に発がん性(高リスク型としても知られている)があります。
型によって、手足・顔などにできるイボ、陰部にできる性感染症の尖圭コンジローマ、子宮頚癌に関りがあります。

(2)ヒトパピローマウイルス(HPV)の分類
A感染部位による分類
1)上皮型
HPV1、5、8、14、20、21、25、47型
2)粘膜型
HPV6、11、16、18、31、33、35、39、41、45、51、52、56、58、59、68、70型
B発癌性による分類
1)低リスク群
手足に発症する尋常性疣贅(イボ)
HPV2、27、57型など
2)高リスク群
子宮頸癌や外陰癌の発症要因の一つと考えられています。
HPV16、18型
HPV31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73、82型など
膀胱癌や咽頭癌の他、外陰癌や肛門癌との関連性も近年指摘されています。
BHPV検査における分類
子宮頸管部から採取した細胞から抽出したDNAを使用するHPV核酸キット(体外診断用医薬品)が、各社から
発売されています。
子宮頸がんの高リスク型HPV(hrHPV:high risk human papillomavirus)
HPV16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68 型(13 種類)。
その中でもHPV16、18、31、33、35、52、58型の感染が子宮頸癌の前駆病変であるCINの進展に有意な
リスクであることが報告されており、HPVタイピングが治療方針決定に有用とされます。
(3)ヒトパピローマウイルス感染症
性的接触のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルスです。
ヒトパピローマウイルスに感染すると、ウイルスが自然に排除されることが多いですが、そのままとどまることも
あります。
HPVに感染しただけでは全く症状は無く、感染しても90%の人は免疫の力で自然排出されますが、10%の人では
HPV感染が長期間持続します。
長い間排除されずに感染したままでいると子宮頸がんが発生すると考えられています。
子宮頸がんは、早期に発見されれば比較的治療しやすいがんですが、進行した場合には治療は難しいとされて
います。
2:感染様式
(1)感染経路
接触感染で皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し、扁平上皮基底部の細胞に感染します。
感染HPV は血中に侵入しないのでウイルス血症を起こしません。
従って血液感染は有りません。
また感染した細胞を破壊せずウイルス粒子を大量に放出させることもありません。
このため抗原提示細胞の活性化や抗原認識の過程が回避され、免疫が誘導されにくいとされています。
AHPVの感染と消失
HPV 感染の70%が1年以内に消失し、約90%が2年以内に消失します。
しかし上記のメカニズムによって、一生涯有効な免疫記憶が形成されないため、自然感染後の抗体産生が十分
でなく、同じHPV型への感染が何度も起こると考えられています。
通常は様々な免疫が応答し体内から排除される様です。
(2)主な感染場所
@生殖器への感染
生殖器へのHPVの感染は、母が感染した乳児の約73%が感染していた。
出生時に、HPVの6型、11型、16型、18型はそれぞれ6.4%の乳児が感染しており、
A口腔への感染
生殖器よりも口腔での感染率が2倍であると言われています。、
HPV陽性の口腔癌は若い世代に多い傾向を認めます。
ある研究では、成人では16型の口腔からの検出率は1.3%であったとされています。
3:疫学
HPVは、子宮頚がん以外にも、多くのがんの原因(全がんの5〜10%)となります。
世界中で57万人の女性と6万人の男性がHPV関連がんに罹っていると推定されています
4:症状
(1)尖圭コンジローマ
@尖形コンジローム(Condyloma acuminatum)とは
ヒトパピローマウイルス6、11型などが原因となるウイルス性性感染症で、生殖器とその周辺に発症する。
外生殖器に鶏冠状の乳頭腫が形成されます。
淡紅色ないし褐色の病変で特徴的な形態を示し、視診による診断が可能です。
自然治癒が多い良性病変ですが、パピローマウイルスの型によっては悪性化にも注意しながら経過観察すること
が必要となります。
A尖圭コンジローマとHPV
粘膜型低リスク型であるHPV6または11型が約90%を占め、発癌性と関係する高リスク型のHPV16、18型などが
混合感染していることもあります。
HPV16、52、58、18型などに感染した女性の場合、子宮頸部に感染し、子宮頸癌の発癌要因になることもあると
考えられている。
(2)子宮頸癌
@子宮頸がん
日本では、年間約11,000人が子宮頚がんに罹患し、約2,800人が死亡しています。

A子宮頸がんとHPV
子宮頸癌の90%以上、前癌病変である異形成の95%以上から、高リスク型HPVが検出されます。
正常婦人の外陰からも5-10%からも、高リスク型HPVが検出されます。
(3)疣贅
皮膚に出来るイボです。
ウイルスの種類により形状・発生場所が異なると言われています。
(4)咽頭乳頭腫
HPVが尖圭コンジローマを有する母親から乳児へ経産道感染することにより、咽頭に形成される良性腫瘍です。
声門部が好発であり、気道まで進展し稀に狭窄をきたすおそれがあるため、周産期の管理が必要となります。
(5)口腔乳頭腫

5:診断
(1)検査
@子宮癌検診
子宮頚癌検診(子宮頸部細胞診)では、これまで癌や前癌病変である異形成の診断を中心に行われてきました。
最近ではHPVが子宮頚癌の原因であるという概念から、HPV感染の有無を捉えることも重要視する方向に変化
しつつあります。
AHPVテスト
ハイブリッドキャプチャー法
PCR法
6:治療
症状に応じた根治的療法が行われます。
7:予防
(1)HPVワクチン
@ワクチンの効果
HPVワクチンは子宮頸がんを起こしやすい、ハイリスク型であるHPV16型と18型の感染を防ぐことができる
ワクチン
です。
HPVワクチン接種により、10万人あたり595人から859人が子宮頸がんになることを回避でき、144人から209人が
子宮頸がんによる死亡を回避できると期待されています。
2価ワクチン(サーバリックスR)はHPV16型と18型の2種に対応します。
4価ワクチン(ガーダシルR)はHPV16型、18型に加えて、性器の良性病変である尖圭(せんけい)コンジローマの
原因となるHPV6型、11型にも対応し、尖形コンジローマも予防します。
AHPVワクチンと副反応
発熱や接種した部位の痛みや腫れ、注射による痛み、恐怖、興奮などをきっかけとした失神などが報告されて
います。
HPVワクチンの副反応疑い報告頻度は0.08%(2,584人/約338万人)とされています。
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パピローマウイルス感染症と口腔ケア |
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乳幼児の口腔咽頭乳頭腫
尖圭コンジローム罹患者が産道出産した場合、新生児のノド(咽頭)に乳頭腫を、まれに発症することがあります。
尖圭コンジロームのHPVが、出産時に乳児の咽頭に播種します。
乳児の咽頭粘膜は、物理的にも免疫的にも脆弱であり、HPV感染のターゲットになりやすい部位です。
もし感染が成立した場合は、1〜3歳くらいまでゆっくりと咽頭のイボ(乳頭腫)は成長し、幼児期に声がれやノドの狭窄症状認めるようになります。
母体外陰部に尖圭コンジロームを認める場合は、慎重な出産管理が必要になります。
口腔ケアを行うことでヒトパピローマウイルス感染を減少させる
ヒトパピローマウイルスは、正常な口腔粘膜でも検出されます。
日本における口腔領域のヒトパピローマウイルスの感染率を調べた結果、37.9%のヒトに感染が認められるという報告もあります。
また、アジア諸国の調査では、モンゴルにおいても同様に33.1%のヒトに感染がみられました。
これらの感染で最も多い型は16型(高リスク群)でした。
ヒトパピローマウイルス感染に関連した粘膜疾患の予防に口腔ケアが有効な一つの方法であることが考えらています。
「ヒトパピローマウイルス(HPV)と口腔疾患」 前田初彦 ラジオ NIKKEI 2008 年から引用
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パピローマウイルス検査キット |
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性病検査キット STDチェッカー【タイプI(女性用)】 1項目:ヒトパピローマウイルス(悪性型)
ヒト・パピローマウイルス HPV 子宮頸がん 膣内細胞 性病 性感染症 STD 女性用
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参考資料 |
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『医学のあゆみ HPVワクチンと子宮頸がんHPV1次検診 280巻7号』
『子宮頸がんワクチン事件』
「パピローマウイルスと口腔粘膜病変」 佐藤方信 岩医大歯誌 12:113−122,1987
「ヒトパピローマウイルス(HPV)と口腔疾患」 前田初彦 ラジオ NIKKEI 2008 年
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